第3話 【弱肉強食】追跡の姉
先導するローズの小さな背中をおねえちゃんと一緒に追っている。
彼女の着ている一部が透けた蒼いコートは、胸や腰などの要所を守るボディアーマーが黒い事も相まって森の中では見えにくいけど、豪奢な金色の髪が大変目立っているので追いかけるのは簡単だ。
迷うことなく先導しているローズに疑問を覚えたので、走りながら聞いてみる。
「一体どこに向かっているんだ?」
「探索を予定しているダンジョンの構造は頭に入ってるから安心しなさい! 親玉が待ち伏せするのに最適な場所へ向かっているわ」
俺の問いに走りながら答えたローズは、ニヤリと笑って立ち止まった。
「ここよ。この場所で親玉、グラスラプトル・リーダーを仕留めるわ! ダンジョンを変える為にはモンスターの強さも確かめておかないとね?」
「なるほど、周囲を崖に囲まれた一本道か」
「あ~! 大きいのが前から来たよ~!」
おねえちゃんが指差す崖に囲まれた一本道の先に、普通のグラスラプトルよりも二回りは大柄で額から角の生えた親玉が飛び出して俺達の行く手を阻む。
後方からはグラスラプトルの大群が追ってきている!
走っている間に弾倉を入れ替えていたローズは折り曲げていたブレードを真っ直ぐに戻し、長銃身の狙撃モードで機械槍を構えた。
俺も肩にかけていた機械槍を構えて、胸ポケットから取り出したサングラスをかける。
おねえちゃんは蒼い剣と普通の剣を抜き放って準備万端だ。
俺達は親玉率いるグラスラプトルの群れと激突した!
最初に動いたのはおねえちゃんだ。振り返ったおねえちゃんは蒼い剣を振り上げて輝かせると、追いかけてきている大群目掛けて振り下ろす。
「いくよ~!」
斬撃の激流が振り下ろされる!
収束無しで解放された斬撃は崖に挟まれた通路をグラスラプトルの大群ごと蹂躙していく。崖に絡みついていたツタや崖に沿って伸びていた木々はバラバラに切り裂かれていき、耐えきれなくなったグラスラプトルは次々と消えて後には牙や鱗が残された。
破滅的な光景に怖気づいてしまった親玉が逃げ出そうとする。
「なるほど。不利になると逃げる特性がある……と、逃がさないわ」
その行動を観察していたローズが正確な狙撃で目玉を撃ち抜いて妨害した。攻撃で目玉が欠損する事は無いが、撃ち抜かれると血が噴き出すので視界が潰されてしまうのだ。
俺は怯んでいる親玉へ短銃身の連射モードにした機械槍で追撃を加えていく。
おねえちゃんが今度は親玉へ蒼い剣を振り下ろそうとしているので、そのまま一方的に勝負がつくと思われたが、空気を切り裂く音と共にこちらに突っ込んでくる影がある。
突然の攻撃に俺達は急いでその場から飛び退いた。
「今度は何だ!?」
「あ~! 横取りだ! ズルいよ!」
その攻撃は俺達だけでなく親玉も狙っていたみたいで、俺達が弱らせた親玉は空から降りてきた中型のドラゴンに踏みつぶされて食らい付かれている。
その中型ドラゴンは全身に小楯みたいな赤い鱗が並んでいて強靭そうな見た目だ。親玉に食らい付く口には無数の牙が生えていて逃げることを許さない。
力尽きた親玉は消えていき、後には大きな爪が残された。
それと同時に中型のドラゴンは光り輝き一回り大きくなる。
これは……レベルアップだ!
モンスターがモンスターを倒してレベルアップしたぞ!?
レベルアップはたくさんの敵を倒すか強敵を倒す事で起きる現象で、文字通り格が上がったように身体能力が強化されて、肉体や精神の傷を完全に癒す効果まで有るので神の愛などと言われている。
モンスターがレベルアップするなんて聞いたことが無い。
「モンスター同士で殺し合ってレベルアップした!? 嫌な特性だわ」
「放っておくと何処までも強くなってしまうのか」
「じゃあ、やっつけよ~!」
翼を広げる事で俺達に威嚇しているドラゴンは、前に倒したことのあるドラゴンよりは弱そうなのでおねえちゃんの言う通り倒せそうだ。
元々とんでもない耐久力を持つドラゴンが欠損しないとなると、もっと大変そうだが他のモンスターと同じように集中攻撃すれば倒せるはず。
威嚇してくるドラゴンに俺達は武器を構えて相対する。
武器を構えた俺達に不穏なものを感じたのか、ドラゴンは翼を一気に広げて舞い上がった。
逃げるつもりだ!
今回は偵察のつもりだったので魔導鎧を装備していない為、空に逃げられたら打つ手がない。段々と高度を上げるドラゴンに歯噛みしていると、横で機械槍に赤い弾倉を装填したローズが上空のドラゴン目掛けて狙撃した。
ニヤリと笑うローズ。
「何をしたんだ?」
「これを見なさい」
弾倉ポーチの一つから丸い板を取り出したローズは、それをこちらに見せてくる。丸い板は一部が定期的に光っていて、光っているのは飛び去って行くドラゴンの方向だ!
それの用途を理解した俺もニヤリと笑う。
「ローズぅ? どういうことなの~?」
「追跡の為の魔道具よ。この赤い弾倉の弾丸には魔道具の子機が組み込まれていて、撃った存在を追跡できるの」
おねえちゃんが質問すると、ローズは嬉しそうに赤い弾倉を叩きながら想像通りの用途を説明する。
複数の魔法を使っていそうで、なんだか高そうな魔道具だ。
俺の考えている事に感づいたローズが魔道具の価格を教えてくれた。
「セットで金貨十枚ほどだから高くはないわ」
金貨が必要な時点で高い気がする。前におねえちゃんへプレゼントした黒いグリーブが俺の全財産である金貨三枚だったので、それが三セット購入できる金額だ。
見るからに使い捨てっぽい魔道具の価格に驚き、つい声が出てしまう。
「……高くないか!?」
「戦士の装備にお金がかかるのは常識ね。それよりも今回みたいにドラゴンに邪魔されるのは問題だわ。魔導車に戻って魔導鎧を装備しに行くわよ。魔道具の効果時間内で確実に仕留めておく!」
俺の驚きは軽く流されて、一旦アルテの待つ魔導車に戻り態勢を整えることになった。
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