第2話 【レア確定】剣閃の姉

 俺達が踏み込んだ場所は太陽の光が木の枝葉に遮られている薄暗い森で、小川が流れ込む池には大小の魚が泳いでいる。


 説明好きなローズがこの深い森のことを教えてくれた。


「この森は古くからある開放型のダンジョンだから、出てくるモンスターも相応に面倒な特性を持っているわ」


 ダンジョンは長く生き残るほど経験を積んで、様々な特性を持つようになる。

 古くからあるならば、それは相当なものだろう。


「どんな特性なんだ?」

「……実際に戦ってみるのが早いわね。クロ、あそこに居るモンスターの足に攻撃してみて」


 ローズの指さした先には、鼻で地面を掘り何かを一心不乱に探しているイノシシが居て隙だらけだ。


 頷いた俺は素早くその隙だらけな背後に踏み込むと、後ろ脚に蒼いナイフを突き立てた。


 俺の不意打ちにイノシシは悲鳴を上げ、鈍い音を立てて横倒しに倒れもがいている。


 ナイフが深く突き刺さった足からは血が吹き出た上に、蒼いナイフの追撃効果でさらなる深手を負わせたから立ち上がっては来ないだろうが、わざわざローズが攻撃先を指定したので離れて様子を見ることにした。


「どういう事なんだ!?」


 驚くべきことに、もがいていたイノシシは何事もなかったかのように立ち上がって、こちらへ方向転換してくる。


 ボロボロにしたはずの後ろ脚で地面を叩いて突進の構えだ。その健在な様子を見て少し動揺しながら迎撃する為に構えると、横から飛び出したピンクの影が一足飛びにイノシシへ接近して斬り倒した。


 イノシシは消えて、大きな骨付き肉がドロップしたみたいだ。


 打ち倒したのは俺のおねえちゃんだった。とても嬉しそうなおねえちゃんは剣を持ったまま、素早くお肉をキャッチする。


「……全てのモンスターがあんな調子で、倒すまでは全力で行動できる。体が欠損しないのよ」

「倒すまで油断できないのか」

「そうなんだ~。ちょっと試してみるね?」


 ローズの衝撃的な説明に何かを思いついたらしいおねえちゃんは、腰からぶら下げている袋に大きな骨付き肉を放り込むと、新しい獲物を見つけて突っ込んでいく。


「これは〜クロのぶん!」


 新しく見つけたイノシシへすれ違いざまに剣で斬りつけたおねえちゃんは、そのまま背後に回り追撃の袈裟斬りでイノシシを瞬殺した。


 後には先程と同じく大きな骨付き肉が残される。


 剣を腰に固定された鞘に戻すと、嬉しそうに肉を拾って袋へ突っ込むおねえちゃん。


「おねえちゃん凄いよ……!」

「確かに連続攻撃ですぐに倒せば問題はないわね」


 おねえちゃんの賢いやり方に感動する俺の横で、ローズは赤い吊り目を見開き丸くしている。


 すると木の陰にイノシシを見つけた!


 前回と同じく素早くナイフを足に突き刺して、横倒しになっている間にめった刺しにする。何度か良い感じに突き刺せば、割と簡単に倒せたみたいで消えていく。欠損しないのは兎も角として耐久力は普通の魔物と大差無いのかもしれない。


 あとに残されたのは……生首か!?


 妙なドロップに困ってしまう。


 だが、よくよく見てみると内側が布で覆われていて、これはイノシシの被り物だ。


 多分レアドロップ。


 俺が魔物を倒すとスキルの効果で必ずレアドロップが出る。デメリットも当然あるが、この力で良い装備を揃えているので役に立つスキルだ。


 この場所でもその力は健在みたいで、この妙な被り物をどうするべきか迷ってしまう。意味不明なモノだが、きっとなにかの効果があるに違いない。


 考えてもわからないので、とりあえずバックに突っ込んだ。


 俺達の結果に頷いたローズは機械槍のブレード部分を中間の接続部から折って下側に向ける事で、短銃身の連射モードに変えると、ここでの目的を宣言した。


「やれそうね! この開放型ダンジョンを調査して、人間に都合の良いダンジョンに変える。美味しいダンジョンとして人が集まるようにするの! 先に開拓の申請をしてあるから、上手くやればやるほど私達の利益になるわ!」

「??? よくわかんないけど、きっと凄いことをやるんだね!」


 ローズの計画に何となく覚えのある俺は、首を傾けながらも親友に協力する意志を示しているおねえちゃんへ噛み砕いて説明する。


「ここをアルテの故郷、エリンの森と同じにするってこと」

「そうなんだ~! ダンジョンに住めたらお得だもんね!」


 エルフの住んでいる場所は開放型のダンジョンだが、色々なことをして住みやすいよう改造している。


 ローズはそれを真似るつもりだ。


 俺の話に何となく理解を示したおねえちゃんは、満面の笑みでローズへ近づいて抱きついた。


「ローズぅ! 私も頑張るよ~!」

「ちょっと!? チェルシー!?」


 よくある光景に腕を組んで頷いた俺は、桃髪と金髪が絡んでいる様子を眺めている。


 俺の視線に気がついたおねえちゃんが何かを理解したように頷くと、俺を引きずり込んでローズごと抱きしめた。


「クロを仲間外れにするのは良くなかったね~! ごめんね~! ……うん?」

「おねえちゃん!? うん?」


 俺の理性が再び試されるかと思われたが二メトルほど、俺が背伸びして手を上げた程度の高さがある草むらから、草をかき分ける音がする。


 おねえちゃんは俺達を開放して、剣の持ち手に手を添えた。


 俺達の前に飛び出してきたのは……。緑色の小型ドラゴン!?


 高さは一メトルほどで翼はないけれど前足に鋭い爪を持ち、大きな口には鋭い牙が並んでいる。

 前足に比べて大きな後ろ脚二本で立っていて、真っすぐと延びる尻尾を合わせれば全長二メトルほどだ。


 俺達に対して前傾姿勢で牙を見せつけるように吠えて威嚇をしながら、左右に跳ねている。


 前だけでなく、後ろや横にも同じ存在が飛び出してきて囲まれた!?


 おねえちゃんが蒼い剣を抜いて、俺達に声を掛ける。


「二人とも伏せて!」


 おねえちゃんの意図を理解した俺とローズは、落ち葉と朽ちた木の敷き詰められた森の地面に飛び込んだ!


 蒼い剣が光り輝いてその切っ先の向いた場所を引き裂いていく、おねえちゃんがその場で回転切りを放つと囲んでいた緑の小竜は消え去って鱗や牙を落とし、周辺の立木も纏めて切り倒された。


 切り倒された立木がお互いに、もたれかかって奇妙なオブジェになっている。


 少し離れた草むらもまとめて切り払われていて、地面にも深い斬撃痕を残した。


 おねえちゃんが腰に差している剣は二本あって、片方は普通の剣。


 しかし、もう片方の蒼い剣は強力なドラゴンから低確率でドロップする国宝級の剣なのだ。

 この剣は振りぬいた先に斬撃の激流を放つ強力な能力を持っていて、おねえちゃんの固有スキルであるウェポンマスターにより、それが収束されて更に強力な破壊力を発揮している。


「ローズぅ! いっぱいいるね~?」

「ちょっとまずいわね」


 おねえちゃんがひょいひょいと牙や鱗を拾って肉入り袋に放り込みながら聞くと、困った顔をして立ち上がったローズの返事に首を傾けた。


「あのモンスター、グラスラプトルには親玉が居て集団行動するのよ」


 続くローズの説明に驚いた俺は立膝で周りを見回すけど、周辺にあるのは背の高い草やおねえちゃんが斬り倒した木ばかりで何も見当たらない。


「親玉だけ逃げたのか?」

「違う。いくらでも湧き出す手下を使って、なぶり殺しにするつもりだわ」


 俺が思ったことを聞くと、ローズの嫌な答えと共に新たなグラスラプトルが飛び出してくる。


 ローズが素早く狙いをつけ機械槍の引き金を引けば、断続的な炸裂音の後に全身を弾丸で打ち据えられたグラスラプトルは消えてドロップの鋭い爪だけが残されている。


 その爪を踏みつぶす様に新たなグラスラプトルが飛び込んできた。


 これではきりがない!


「魔導車とは違う方向に逃げるわ。追い詰めたと、親玉を油断させて仕留める!」

「は~い!」

「了解だ!」


 やってみる価値が有りそうなローズの作戦に従って、俺達は更に森の奥へ駆け出した。

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