強すぎるおねえちゃんと開拓

ランドリ🐦💨

開拓拠点! ダンジョン内に拠点を作ろう!

森林と崖のダンジョン

第1話 【開拓開始】爆走の姉

 青草の茂った道なき道を俺達の乗る魔導車が勢いよく走り抜けている。


 今乗っている魔導車は大型の車輪のお陰で悪路もへっちゃらだ。小さなくぼみや段差を無視して目的地へ直進中。


「クロ~! これ楽しいよ~! ちょっと遅いけど楽でいいね~!」


 運転席に座っているのは俺のおねえちゃんだ。揺れる車に黒リボンで押さえたショートカットの桃髪をはずませて、金属のガントレットに包まれた手でハンドルを握り嬉しそうに運転している。

 

 遅いと言ってるけどスピードメーターは振り切っていて全速力だよおねえちゃん!


 こちらを向いたおねえちゃんに話しかけられた俺は、楽し気に輝く緑の瞳に一瞬見惚れていたけど視界の端に映ったモノに驚き叫び声を上げた。


「おねえちゃん前を見て!? 進行方向に小鬼がいるよ!」


 小鬼はダンジョンが生み出す殺人端末、モンスターの一種でかなり弱いモンスターだ。小鬼はこちらを見て逃げるどころか不敵に頭上で棍棒を振り回している。


 小鬼は弱いけれど、衝突すれば借り物の魔導車に傷がついてしまう!

 

 俺の声に反応したおねえちゃんが黒いグリーブに包まれた足でブレーキを踏んで、停車しようとするけど近すぎて間に合いそうにない……。


 小鬼にぶつかる!?


 ……と思った瞬間に炸裂音が鳴り響き、頭に穴が開いた小鬼が消えていく。


 あとに残されたドロップ品の布がフロントガラスに張り付いているけど、車には問題なさそうだ。


 俺が後ろを見ればおねえちゃんの親友で、俺達の戦友でもあるローズが車の天窓を開けて赤い機械槍、旧文明兵器のコピー品である飛び道具を構えていた。


 機械槍は先端にブレードの取り付けられた棒状の武器だ。


 モンスターは倒されると消えてドロップ品だけを残すので、ローズはその特性を利用してぶつからない様にしてくれたらしい。


 機械槍を降ろしたローズから悲報が伝えられる。


「チェルシー、買ってきたリンゴが台無しよ?」

「ええ~!? ……ホントだ。リンゴの割れてる匂いがするぅ……」


 おねえちゃんの急ブレーキによって車内がシェイクされてしまったみたいで、荷物が散乱していてゴチャゴチャだ。


 車内に漂う甘い匂いに気が付いたおねえちゃんは緑の目を見開いた。

 

 ローズが赤い目を半目にして指でつまんだ布袋からは雫が滴っていて、この様子では出発前に買った高級なリンゴは全滅だ。


 ローズは首を振ると、おねえちゃんに運転の交代を要求した。


「どうしてもと言うから代わったけれど、やっぱり講習を受けないで運転するのは危険ね。代わってちょうだい」

「は~い……私のリンゴがぁ……」


 素直にローズと運転を代わったおねえちゃんは運転席と助手席の間に補助席を出して座り、しずくの垂れる袋をのぞき込んで肩を落としている。


 おねえちゃんに代わって運転席に座ったローズは魔導車をゆっくりと発進させた。


 袋の中のリンゴはお互いにぶつかり合いボコボコになっていて、すぐに傷んでしまうだろう。


 何とかならないかと考えた俺は、色々散らばった車内を見回してみた。


 車の中にはベットにもなる長椅子がいくつか固定されていて、俺達の装備を格納しているトランクや待機状態にしてある魔導鎧三機も固定されているので無事だ。


 他にも便利な道具を積んでいるこの車両は、移動拠点と呼んでも良い。


 ふと視線を落とすと俺の座る助手席に口のしまった袋がぶつかっていて、荷物整理の為に縫いつけてあるタグには調理器具とある。

 それを見て良いことを思い付いた俺は、調理器具をまとめてある袋から模様のついたコップを取り出すと、それをおねえちゃんに手渡す。


 このコップは内部の物を破砕する料理用魔道具なのだ。


「それは後で果物ジュースにしようか?」

「クロ~! ありがとう~!」


 リンゴの袋にコップを入れて足元に置いたおねえちゃんは弾ける笑顔で俺に抱き着いてきて、おねえちゃんの着ている青いワンピースが俺の視界一杯に広がった。


 おねえちゃんの大きな胸に包まれて頭が幸せになってしまう……!


 おねえちゃんの柔らかな抱擁に理性という鋼の相棒を砕かれそうになるが、救いは意外な所からやってきた。


「邪魔をして悪いけど、そろそろ目的地に着くわ」

「わかったよ~。ローズぅ!」


 堅実な運転で道なき道を進んでいたローズから目的地への到着を知らされたおねえちゃんは、名残惜しそうに俺を開放して後方の装備トランクへ向かう。


 少しの間呆然としていた俺もおねえちゃんについて行った。

 

 おねえちゃんが装備を整えるのを横目に、自分の装備である蒼いナイフと機械槍を身につける。


 後からやってきたローズはベルト状に連なった機械槍の弾倉ポーチを腰に付けると、俺達に今日の目的を再確認した。


「今日の目的は偵察だから、隠密行動の為に魔導鎧は無しで行くわ」

「了解だ。ローズ」

「は~い! 歩きで頑張ろうね?」


 俺達は大戦士になったので、開拓の為にガルト王国の北西にある未開拓地に来ている。


 俺達の祖国であるガルト王国は大陸の平地をほとんど制覇している強い国家だが、広大な未開拓地も抱えている。

 その開拓を十レベル以上になった戦士である大戦士に任せているのだ。


 開拓した土地はそのまま開拓した大戦士の領地として認められる。


 未開拓地はモンスターあふれる危険地帯。

 だが同時に資源の宝庫でもある。


 俺達大戦士の仕事は、良い資源の出る優良なダンジョンを求めて未開拓地を開拓する事だ。


 後部のハッチ式のドアを開いた俺達は車内から青草茂る未開拓地へ降りていく。


 革の防具の上に豪華な黒マントを羽織った俺。

 青いワンピースに金属のガントレットと黒いグリーブを履いたおねえちゃん。

 所々が透けている青いコートに要所を黒いボディアーマーで固めているローズ。


 三人の大戦士が開拓地に降り立った。


「予定通り私達三人で偵察に行くわ。留守を任せるわよ」

「アルテ~! 行って来るね?」

「また後で会おう」


 この魔導車のオーナーである仲間、エルフのアルテに声を掛けると魔導車後部に固定されている長椅子で、シェイクされた事に気が付かないほど深く寝ていたらしい。身を起こして顔にかかった銀にも見える金髪をはらうと、寝ぼけ眼をこすり手を振って見送ってくれる。


「ふあ……。いってら~」


 アルテはおじいさんから魔導車を借りる為に徹夜で故郷まで走ってくれたので、今日はお休み予定。無防備にも見えるが俺達の中で最も強いのは彼女なので、留守番を任せても大丈夫だ。


 俺達はアルテに車の事を任せ、深い森へ踏み入っていく。

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