第18話 【砂漠縦断】大河の姉

 何度もタートルと池の間を往復して船や資材を運び、アルテの手で組み上げられて造られた家はしっかりと水上に浮かび、パッと見水辺に建っているように安定している。


「おお~。押すと家が動いちゃうよ~!」

「ちょい待ち! 岩と船をロープで結んで固定するから!」


 しかし、魔導鎧で飛んでいるおねえちゃんが押すと、素直に動き出してしまっているので放っておけば岸にたどり着いてしまうだろう。その事に気が付いたアルテが水上を駆ける事で船に乗っている家の中に飛び込むと、中からロープを持ってきて家の梁と近くの岩を結び固定した。


 同じことを周囲のヤシの木にも繰り返して、即席だが家の位置が固定される。


 何だか家がクモにとらわれた獲物みたいになってしまっているけれど、あとはローズの作戦が上手く行けば目的は達成だな。


「家は完成したし、今度はアレの番ね。タートルの移動跡を遡って飛ぶわよ!」

「遡るのか」


 俺達がグランドワームを倒した場所から、さらに奥へ行くのか。随分と遠い。敵が出てこないうちに終わらせたい理由がわかるな。


 #####


 俺達の眼前には巨大すぎる濁流が見えていた。反対岸ははるか遠くにあり、こちらとは違って砂漠のダンジョンでは無いので青草が生える草原になっている。


 タートルの移動跡の根元は大河の直前だった。ガルト王国を真っ直ぐに北上した上で西へ蛇行するという複雑な流れで横断しているこの大河はウォータードラゴンパピー、五から十メトルほどの水龍の雛が大量に潜む危険な場所だ。


 大口に大量の牙を持つ手足の無い魚の様な龍なので、略して龍魚とも呼ばれる。


 龍魚は水中に住んでいるのに、通常のドラゴンと同じく空飛ぶ存在をライバル視して飛びついてくる特徴を持つ。


 飛びつかれても面倒なので、飛行を中断した俺達は移動跡の横から巨大な大河の流れを眺めている。


「チェルシー、この大河と移動跡の間の地面に、切り込みを入れちゃって」

「どのくらいかなぁ?」

「思いっきりで良いわ!」

「良いよぉ~!」


 ローズがとんでもないことを言い始めて、俺の麗しいおねえちゃんは気軽にそのお願いを聞いてしまった!?

 お願いを聞き入れたおねえちゃんは腰から蒼い剣を抜き放つと、俺達の横にある移動跡と大河の間に残された無事な地面目掛けて光り輝く剣を振りぬく!


 斬撃の激流が流れる!


 おねえちゃんの斬撃の激流を受けた地面は奥の大河共々綺麗に切り裂かれ、切り裂かれた場所から水があふれ出して決壊した。


 大河から流れ込んだ水が凄い勢いで、砂漠に出来た岩盤の道に流れ込んでいく!


 よくよく見ると時々巨大な魚影が流れに乗って流れていくので、ウォータードラゴンパピーも流れ込んでしまっている。

 その様子を目を丸くして眺めていると、自信ありげなローズがこの作戦の意図を教えてくれる。


「外のモンスターはここのモンスターと違ってレベルなんて上がらないからね。定期的に羽根つきアリを駆除してくれるはずよ。飛び越えようとするグランドワームの妨害もしてくれるわ!」

「なるほど」


 外来種でダンジョン内の秩序を破壊してしまおうという事か。


 岩盤まで深くえぐって作り出されていた移動跡は、大河から水を引き入れる為の道だったらしい。妨害のせいで現在は途中で止まってしまっているけど、いずれはどこかに開通させてしまうつもりなのだろう。


 もっと上流ならともかく、ガルト王国北西のダンジョン地帯を囲むように流れる大河はこのまま河口まで流れて行ってしまうので、何か文句を言われることも無さそうだ。


「言った通り中々の作戦だったでしょ?」

「またお造りが出来るね~!」


 ローズが俺達に胸を張っていて、おねえちゃんは口を両手の握りこぶしで隠して大変うれしそう。おねえちゃんは龍魚を無力化する為、倒さないようにお造りにするのが得意だ。


 何十回も作り続けていたので、おねえちゃんは龍のお造り職人ともいえる。


 俺達の装備は大体が、おねえちゃんの作った龍のお造りを俺が倒す事でドロップした装備なのだ。


 押し寄せる流れに段々と周りの地面も流され始めたので、魔導スラスターで飛び上がった。


 飛んだ俺達に龍魚がどんどん飛び掛かってくるけれど、自力で飛行している訳じゃなくて勢いだけなのでちょっと回避すれば地面へ真っ逆さまに落ちていく。


 地面に衝突してビチビチしてるけど、そのまま日干しになる事だろう。


 龍魚たちが運河と平行に飛ぶ俺達へ飛び掛かろうと泳いでいるのを横目に、タートルの方面へ飛んで行く。


 後には点々とビチビチ跳ねている日干し予備軍が残された。


 いずれ耐えられなくなってドロップを残して消えるだろうけど、ドラゴン肉以外は砂漠に転がるドラゴン素材として、いい収入源になるだろう。


 タートル付近の行き止まりはちょっとした湖になっており、衝突した龍魚はぷかぷか浮いていて勢い余ったモノはビチビチと飛んでいる。


 大漁だな!?


 巨体が次々と跳ねるので、飛び散った砂が当たって砂まみれのタートルの頭が迷惑そうに半分埋まっている。


 その近くでアレスの戦士達とマダイジュ騎士が待機していた。


 時々戦士たちが待機場所まで龍魚をぶっ飛ばして袋叩きだ。


 龍魚は普通のダンジョンのボスモンスターより格上だけど、陸上だと極端に弱くなるから、レベル上げのカモとして登竜門扱いされている。


 色々とあったから仲良くなってレベリングしてあげているのかな?


 心温まるレベリングの様子を上から眺めながら着陸すると、ちょうど龍魚を撃破したところみたいでドラゴン肉がドロップして歓声が上がっている。


 あの狩りは楽しいから仕方が無いのかな……?


 他国の騎士団をノリノリでレベリングしてしまっている戦士たちを見たローズが、レベルアップ直後で煌めく金糸の髪をかきあげ額に手を当てていて頭が痛そうだ。


「……見なかったことにしておくわ」

「ローズぅ! 私もお造りが作りたいよ~?」

「チェルシー……。また今度ね?」

「えぇ~?」


 この開拓の責任者であるローズは現場の暴走の事は諦めて、今日の所は休むことにしたみたいだ。俺とおねえちゃんも共同の責任者ではあるけど、色々と足りていないから力仕事以外はローズに丸投げ状態で申し訳なく思う。


 おねえちゃんに絡みつかれているローズを追って、俺もタートルの赤い光の漏れるちょっとだけ開いた口へ歩いていく。

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