第19話 【魔石払い】亀宿の姉
地下都市内はまた様子が変わっており、明るく照明に照らされている。
魔力の当てが出来たから節約を止めたのだろうか?
帰ってきた俺達は入り口に待機していたタートルの子機である銀の像に声を掛けられて、それぞれ何か平たい板のようなものを渡された。
□渡された魔石の数だが、この札で管理しようと考えている□
「これで分かるの~?」
渡された札にはきれいな字で名前が彫り込まれていて、俺が書くよりもずっと綺麗な文字だ。外の事を忘れようとするかのようにローズがこの札についての説明をしてくれる。
「これを通して預けた魔石の数を確認したり支払ったりできるわ。タートルだけに読めるお小遣い帳みたいなものね」
「そうなんだ~! 預かってくれてありがとねタートル」
おねえちゃんの感謝を受けた銀の像は頭部を何回か光らせると銀の玉になり、転がって持ち場へ帰っていった。
札を握ってご機嫌なおねえちゃんは、脱出するために飛び降りたビルへ元気いっぱいに歩いていく。また開くようになった自動開閉のドアをくぐると、その足取りは段々と早くなる。
俺とローズは置いて行かれないように、その後を急いでついて行った。
するとエレベーターというらしい機械で足止めを食らったおねえちゃんが、ローズに使い方を聞いている。前は近づくと勝手に開き目的の階まで送ってくれたのだ。
「ローズぅ! この上に行く機械が開かないよ~?」
「その機械も魔石払いで動くの。そこに札を読み取る機械が置かれてるわ」
ローズの指差す先には一メトルほどの太い金属棒が飛び出しており、上側が斜めにカットされている。カット面には札の絵が描かれていて分かりやすい。
おねえちゃんが札を絵に触れさせると、エレベーターの入り口が開いた。
素早く乗り込んだおねえちゃんと一緒に俺達も乗り込むと入り口は閉じた。おねえちゃんの支払いに便乗してしまったので、今度乗る時は俺が札を触れさせよう。
少ししたらエレベーターの入り口が再び開いたので降りる。窓の外は魔導鎧で飛行中みたいに高い場所になっていた。
「すぐに上までついて不思議だね~」
「そうだね。おねえちゃん」
おねえちゃんと一緒になって窓に張り付き、鏡のように輝く他のビルを眺めていると部屋を開けたらしいローズに呼ばれる。
「二人とも。部屋の中が酷い事になってるから整理するわよ」
「は~い!」
「了解だ」
そういえばタートルが急に地面に潜ったから、部屋の中はシェイクされて大変な事になってるんだった。先行するローズの背を追い部屋に踏み込めば、中の惨状は凄いことになっていて手間がかかりそうだ。
脱出する時に無理やり開けたドアが開け閉めを繰り返し可笑しくなっていたけど、ローズが赤い機械槍の石突きでぶったたくと大人しくなった。
おねえちゃんが割れて全開状態になっている窓の前に戸棚を持ってきて、外観だけでもマシにしてくれる。
俺は部屋中に転がっているドロップ品や道具類を雑に放り込むと後で分類しなおしたりするのが面倒なので、とりあえず机の上に並べている。
窓の事を素早く誤魔化して満足したおねえちゃんが、いつの間にか壁に描かれていた札の絵に自分の札で触れると、何やら数字が表示された後に壁から食べ物がゆっくりと机の上に流れてきた。
俺の並べた物品を押し出した蓋つき鍋は、良い匂いをさせて机を占領する。
それを見て緑の目を輝かせたおねえちゃんは、ちょっと固まってしまった俺を上目遣いで覗き込み一緒に食べようと誘ってきた。
「すぐに来ちゃったから~。一緒に食べよ~?」
何度か食らったことのある技なので耐えられると思ったけど、そんなことは一切なく……いいよ~。
「いいよ~」
色々と考えていたことは全部忘れて取り皿以外の物を大きな袋に放り込んだ俺は、その辺に転がっていた円柱型のゴミ箱を逆様にすると席代わりにして座った。
すっかり大人しくなって自動では動かなくなった自動ドアを諦めたローズも個室の中から椅子を持ってきて席に着く。
蓋つきの鍋からおねえちゃんが蓋を取ると、汁が見えなくなるほど具沢山のスープがその姿を現した。蓋を閉めていた時でさえ良い匂いだったが、開いて解放された匂いは暴力的ですらある。
移動時は焼いたりするだけだったので、久しぶりの手の込んだ料理に喉を鳴らした俺達は、順番で鍋についていた大きな木匙を使い取り皿に移すと勢いよく食べ始めた。
#####
俺は今、おねえちゃんやローズと一緒に湯着に着替え、白い壁で狭く区切られた部屋に入っている。
湯着というのは、皆でお湯に浸かる機会があった時に着た濡れても透けない厚手の服で、今回のこれも似たものだと聞いて引っ張り出してきた。
「ジャリジャリしなくなるんだよね~?」
「……そうだね。おねえちゃん」
「砂もこのダンジョンの嫌な点よね」
何故こんなことをしているのかといえば、ローズがタートルから聞いたらしい洗浄装置とやらを試す為だ。砂漠の暑さと寒さを耐環境のドラゴン装備はしっかりとシャットアウトしてくれたが、服の中に入る砂は対象外だったらしくザラザラしてちょっと辛いのだ。
一人ずつでもいいんじゃないかと俺は主張したんだけど、襲撃者に潜り込まれた直後に無防備になるのは危険だと語るローズに、おねえちゃんも賛同してしまったので多数決で俺の意見は通らず、三人で利用するには狭い気がする洗浄装置に三人で入っている。
しばらくすると狭い洗浄装置の天井から暖かい雨が降り始め、「何だか暖かいな」なんて陽気な事を考えていたらすぐに暖かい土砂降りの雨が叩きつけられる。
「部屋の中であったかい雨なんて不思議だね~? わわ!」
「おねえちゃん!?」
「勢いのあるお湯で汚れを落とすのね。なかなか良いわ」
急な土砂降りに驚いたおねえちゃんが腕に抱き着いて来たので、俺の鋼の相棒にヒビが!?
俺とおねえちゃんはそれぞれ別の理由で混乱しているけど、ローズは自分についた砂が落ちるのを赤い目を細めて観察している。
「二人も遊んでないで砂を落としておきなさい。砂まみれじゃ眠れないわよ?」
「は〜い」
「了解だ」
ローズの言葉におねえちゃんが俺の腕を開放してくれた。
ちょっと残念だが、鋼の理性は破壊されずに済んだ。
「どうしたの?」
「何でもない」
救いのローズに感謝の念を送るために拝もうと、そちらを向けば今の彼女の恰好が目に毒だという事を思い出した。
見なかったことにして視線を別に向ければ、おねえちゃんも同じような状態!?
鋼の相棒からの緊急指令により壁に視線を固定する。
前一緒にお湯に浸かった時と何だか違うぞ!?
煌めく金の髪や輝く桃髪が白い壁に映えていたので、目に焼き付いてしまう。
よく考えると前とは違って、今回はレベルアップ直後だった……!
レベルアップは身体能力の強化や欠損レベルの負傷まで完全に癒す事が目立っているけれど、傷んだ髪や肌も癒すので人を更に美しく見せるのだ。
「クロ? 目に水が入っちゃったの~? 拭いてあげるね?」
「おねえちゃん!? 自分で出来るよ!?」
「良いから良いから~」
壁へ視線を固定する事により鋼の相棒を守護るのに精いっぱいになっていると、その事に気が付いたおねえちゃんがいつもの優しさを発揮して俺の体を布でこすってくれる。俺が無駄な抵抗を試みるので、余計な所にぶつかって鋼の相棒はボロボロだ。
暖かな雨が止み、今度は暖かい風が吹いてくる頃には鋼の相棒は満身創痍になっていた。
「スキンシップはその距離が近いほど効果的らしいわ。どうだった?」
ローズが部屋の外に置いてあるカゴから大き目の布を引っ張り出し、俺に渡しながらニヤリと笑う。どうやら本に書いてあった事を試してみたらしい。
内心を悟られないように大き目の布で顔を拭くふりをしながら思う。
なんてことをしてくれるんだローズぅ! …………ありが「そうなんだ~!」
俺の考えを即座に看破するローズから隠す為に顔を布で覆っていたので、おねえちゃんの行動にきがつくことができなくて、やわらかいものにつつまれる。
鋼の相棒は最後の力を振り絞り、俺のことをシャットダウンさせてくれた。
「ぐぅ……」
「立ったまま寝てるわね。チェルシー、クロを運んでちょうだい。手を握るわ」
「クロ寝ちゃったの~? その前に二人とも拭いてあげるよ~!」
「チェルシー!?」
夢を見ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます