第20話 【曙色の夢】発車の姉

 夢を見ている。


 青い空を黒い剣が巨大な青い盾を持った赤い人型を乗せて飛んで往く。


 =ナンバー20、俺が敗走したことは皆には黙っておいてくれ。

 =ナンバー7、言いふらしたりなどしない。それに敗走ではなく戦略的撤退だ。


 赤い人型が通信で会話しているのに意味もなくコソコソ話をする様に黒い剣へお願いしているが、黒い剣は赤い人型の認識違いを指摘している。


 =ナンバー20! 仲間内で俺だけ負けてるのは恥ずかしいだろうが!

 =ナンバー7、目的を達成しているのだから、問題無いと思うが……。


 赤い人型が黒い剣の上で巨大な青い盾を持ったまま頭を抱えて首を振りイヤイヤをするので、黒い剣はちょっと鬱陶うっとうしそうにしながら飛んで往く。


 #####


 意識が浮かび上がってくる。


 意外な夢を見た。


 ナンバー20が言うには問題無いのだろうけど、ナンバーが負けるというのは意外な事だった。


 だが今はそんな事よりも俺の現状に問題がある。


 俺のお腹の上では一定のリズムで魔石通信を打ち込む音が聞こえて、音と共に微妙に衝撃が伝わってくる。そして背中には暖かく、柔らかいベットシーツ以外の物が敷かれている。


 目を開いて少し薄暗い周囲を伺えば、俺は腹に魔石通信を置かれて簡易の机にされていた!?

 上着の背中部分がまくられていて、その部分で接触を保っているらしい。


「ようやく起きたのね。ちょっと借りてるわ」


 俺が起きたことに気が付いたローズが魔石通信に目線を固定したまま、黒いマントの裾を持ち上げて声を掛けてくる。魔石通信の光で青白く浮かび上がる彼女の顔は赤い目が爛々と輝いている。


 どうやら前回の膝枕から退化して人の事を魔石通信の台にしてくれたらしい。


 しかしお腹の上で魔石通信を使っているのならローズの足の位置は背中なので、頭の位置が妙に高いような気がする。布団でも敷いてくれたのか?


 なんてことを考えていると、上から楽し気なおねえちゃんの声が降ってきた。


「クロ、起きたの~? おはよ~」

「おはようおねえちゃん、ローズ」


 

 寝ぼけ眼で挨拶を返した俺を二人して面白そうに見下ろしてくる。


「おはよう、クロ。もう少し待って、キリの良い所まで終わらせるわ」 

「ああ、毎回助かるローズ。悪夢に比べればこの位の事は安いものだ」


 ローズが赤い目を片方閉じてウィンクする事で俺の感謝の言葉に返事すると、再び魔石通信の文章作成に集中する。


 緑の目を優し気に細めたおねえちゃんが、上から俺の事を覗き込んできた。どうやら二人がかりで俺を乗せることで、重量を分散していたみたいだ。

 大戦士の力をもってしても姿勢を変えない事で起きる足の痺れから逃れることは出来ないので良いやり方だ。


 俺の上には予備のマントがかけてあり、窓が一枚割れていることによる寒さをシャットアウトしている。


 寒がりなおねえちゃんもしっかり青いワンピースを着て完全防備だ。


 本当にドラゴン装備の耐環境は便利だと思う。


 せっかく体から砂を洗浄装置で流したのにまた砂がつかないんだろうかと不思議に思っていると、俺がマントをさすっているのに気が付いたおねえちゃんが教えてくれた。


「タートルが洗ってくれたんだって~」

「どうやって洗ったのかな」


 銀像が丸みを帯びた腕で手洗いしている所を想像すると面白い。それとも玉の状態でタライの中をコロコロして押し洗いしてるんだろうか?


 おねえちゃんも似たことを考えていたのか、ニヨニヨして楽しげだ。


「お待たせしたわね。もう大丈夫」


 キリの良い所まで仕上げ終わったらしいローズが分厚い本の様な魔石通信を俺の上から退けてくれると、おねえちゃんが俺を軽々と持ち上げてベッドの横に着陸させてくれた。


「……おねえちゃん、ありがとう」

「良いよ~。着替えも手伝ってあげようか?」


 おねえちゃんが手をワキワキさせながら楽し気に問いかけてくるので、返事代わりに部屋の外へと逃げ出した。


 朝から鋼の相棒を消耗させるわけにはいかないのだ。


 #####


「お~い! こっちこっち!」


 諸々の準備を済ませてビルから出てくると、ビル前に横付けされた魔導車の運転席からアルテが手を振っている。


 どうやら迎えに来てくれたらしい。


 魔導車の後部から乗り込み長椅子の座席に座ると、ローズが折り畳み式の机を空きスペースに設置して袋を並べ始めた。アルテも運転席から移動してきて卓を囲む。


「次の目的地は砂漠を突っ切った先にあるわ」

「また砂だらけになるのか……」

「虫よけの魔道具で砂をはじくから大丈夫よ」


 折角すっきりしたのにまた砂まみれになるのが憂鬱でつい声に出てしまったが、ニヤリと笑ったローズに俺の悪い想像は否定された。


 虫よけの魔道具は弱い防御魔法で虫をはじく魔道具だ。アレを使って砂もはじいてしまうらしい。


 俺が話の腰を折ったのを気にしないでローズが続ける。


「本によると次のダンジョンは人の街を真似たモノよ。人の代わりにモンスターが街を徘徊しているの」

「住んでるの~?」


 期待に緑の目をキラキラ輝かせたおねえちゃんが、色々と説明したくてうずうずしていたローズに燃料を投入した。


「モンスターの文明も期待されたけど、近づいた端から戦闘になるらしいの。本当はタートルで蹴散らす予定だったけど、魔力が溜まるまで待つのも時間が勿体ないし潜入するわ。モンスターの街を私たちの目で見てやろうじゃない!」


 そんなことを言いながらローズが袋を俺達に渡してくれる。


 袋を開けてみると何やら大きな布に小型の機械槍とよくわからない輪っかや長袖長ズボンが一まとめになったような黒い服、そしてが入っていた。


 それらを俺達に配りながらローズはニヤリと笑う。


「皆が魔石を取りに行ってる間に、色々と作っておいたの。拠点の戦士たちに指示を出すついでだったけど、スキルの影響で面白いほど上手く行ったわ。どれも自信作よ!」

「いいね! 魔道具でモンスターの街に潜入! 面白そうだ!」


 面白そうな提案にアルテがすぐに飛びついた。輪っかを腕にはめて緩いみたいでくるくる回している。


「クロ~。手伝って~?」

「おねえちゃん!?」


 おねえちゃんは青いワンピースを着たままで背中の部分を開いた長袖長ズボン服を無理に着ようとするので、黄緑の下着や色々が丸出しになってしまっている!?


 ヒビの入った鋼の相棒からの緊急指令により、素早くおねえちゃんの裾を直してから開かれた背中にあるファスナーを閉めてあげる。


「よ~し! 新しい服で頑張るよ~!」


 ぴっちりした服を気に入ったらしいおねえちゃんは、腕を振り振り上機嫌で運転席の横に座った。俺も運転席との間に補助席を引っ張り出し隣に座る。


「出発するわ。アルテも座って?」

「りょーかい!」


 運転席にぴっちりした服をさっさと着たらしいローズが座ると、魔導車はゆっくりと動き出した。


 整列した戦士や騎士たちが手を振って俺達を見送ってくれる。


 おねえちゃんと一緒に手を振っていると、魔導車は赤い照明に照らされたタートルの喉に入った。滑り止めの段差を特製の魔導車はグイグイ乗り越えて進んでいく。


 ようやく外に出れば、砂漠の日差はさんさんと照り付けていた。


 ローズがハンドル横にあるスイッチを押すと、魔導車の周囲に薄い光が纏わりついて砂を弾いてくれる。


 眩しいので胸ポケットからサングラスを取り出して装着すると、おねえちゃんも座席に備え付けてある袋からサングラスを引っ張り出して装着して楽し気にしている。


「モンスターの街に行ってみよ~!」

「楽しみだね。おねえちゃん」


 魔石の取れるダンジョンの前を通り過ぎ、銀の像たちが地面を固めている場所を越えて、砂海をぐんぐん進んでいく。


 大きな車輪は砂地に捕まることなく、俺達を目的の場所へと運んでくれる。


 次のダンジョンは街らしいけど、どんな街なのか楽しみだ。




 ――あとがき――

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


 今回の章もおねえちゃん達が大暴れしました。


 砂漠でデッカイ魔物をこれまたデッカイ機械が叩き潰したりもありましたが、ブルポン協商連合の嫌がらせで宝珠が奪われたのでお休みです。


 次の章はタートルで力押しする予定だったダンジョンへ少数精鋭で行きます。


 ローズの自作魔道具でモンスターの街へ潜入です!


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