第17話 【水上の家】運搬の姉
アルテが語り始めたのは衝撃的な家の作成方法だった。彼女の住んでいたエリンの森では、モンスターが火の魔法を使ってくるために、火事対策として家を簡単に解体可能なパーツごとに作って組み立てていた。
材料は違うが大きなテントみたいなものだ。
それの応用で家のパーツをタートル内の滅茶苦茶成長した木で作成して、ここへ運んで来ようというのがエリン式建築から進化したアルテ式建築だな。
その家の設置場所は特に特徴的で、出てくるアリのモンスター対策として床板代わりに船を並べる事で水上に家を建てるらしい。
家というよりも船の集合体だろうか?
飛行してくるアリも居るだろうけど、ダンジョン内故にそこは仕方が無い。
今のタートル内には人手もいるし丁度良いな!
「じゃあ早速! 水上の家造りを始めようか! 普通に船もあると良いよね!」
「水上に住むの? オーヴァシーを思い出すわね」
ローズの言っているオーヴァシーはマダイジュと同じく東の森の中に在る国で、おねえちゃんが勇者として歓迎されたことのある国だ。
両国はガルト王国の東側にある国家で、そこは魔樹と呼ばれる急速成長する木に領域をすべて侵食されているのだ。
でもそんな場所では人は住みにくいので、色々工夫をして暮らしている。
例えば、オーヴァシーの場合は大きな湖の上に橋をかけたり船を浮かばせることで住む場所を確保しているし、今回騎士を派遣してくれているマダイジュの場合はとんでもなく巨大な魔樹をくりぬきその中で暮らしている。
マダイジュ騎士はその生活環境から木工が得意なはずなので、タートル内で色々と作るのは正解かもしれない。実際ビルに木製の階段を這わせて、いい感じにしてしまっているし。船くらい楽勝だろう。
タートルの方へ砂煙を上げて駆けだしたアルテは、走るのが早すぎてすぐに見えなくなってしまった。
俺達も顔を見合わせると楽天エルフの駆けていったタートル方面へ魔導鎧のスラスターを吹かせて飛びたつ。
八メトル程度の高度でタートルの方面を見ると、その通ってきた跡が浅くて広い谷の様に抉られている。ヒレのような足で歩き回った足跡だろうか。
飛行しながらじっと見ているとローズから通信が飛んでくる。
=気が付いたみたいね。アレはちょっと目的もあって態とやってもらっていたの。
=あの移動跡に目的……?
砂漠についた巨大な移動跡は地平線の彼方まで続いており、かなりの大規模だ。
あんな規模の目的というのもちょっと楽しみだな。そのお披露目を何時してくれるのかは分からないが、この開拓を手伝っていればそのうち見せてもらえるだろう。
話を聞いていたおねえちゃんと一緒に巨大な移動跡を眺めながら飛んでいると、タートルの頭が見えてきた。
その前に降りた俺達を待っていたのは、木材の山だ。
「諸君! ありがとう! 後は任せてくれていいよ!」
「これ位なら、ダンジョンに行くついでみたいなもんです。開拓、頑張ってくださいよ~」
アルテが中に居た戦士たちに手伝ってもらって運び出したらしい。気の良い戦士たちは降りてきた俺達を激励すると、このまま新しく出来た道を通って去って行く。
魔石でも取りに行くのだろうか?
「それじゃ、船と乗せる家を作っていこうか! 設計図? 浮けば何でもいいよ!」
「ええ……」「乗せる家を小さくするか?」「念のため船は大き目にしよう」
残っていたマダイジュ騎士にアルテが無茶ぶりしている。その無茶ぶりにも凄い速度でそれっぽい船が出来上がっていくのだから、彼らは木工に慣れているんだろう。
「こっちで良い~? こっちかなぁ?」
「この重量物を……! 流石は勇者様だ!」
「大丈夫です」
「ありがたい!」
俺達も動かすのに苦労していそうなときに手伝ったりして、重機として貢献しているとそれっぽい船と家のパーツが凄い勢いで出来ていく。手の空いた人が、今日やっつけたグランドワームやタートルの姿を外側になる部分へ彫り込んでいたりして本格的だ。
作業が妙に早いのは、先ほどのグランドワームとの戦いでレベルアップしたのが効いてるのかな?
「ドアはどうする?」
「引き戸で良いか」
「端材を組み合わせれば出来るな」
出入り口のパーツにも通るための穴だけじゃなくて、ご丁寧に引き戸まで付けてくれている。
「クロ~。大丈夫~?」
「うぐ……。大丈夫……やっぱダメかも……ローズ手伝ってくれ……」
「仕方ないわね」
モノが出来れば次は俺達の番だ。大物も無くなってきたので、まずは船を高レベル者特有の不思議パワーで持ち上げて建築予定地へ空輸する。
船で一番丈夫な部分である竜骨の両端を俺とおねえちゃんだけで持つと、俺が重みで潰れそうだったので横で見ていたローズに助っ人をお願いして持ち上げた。
レベルを得る前からおねえちゃんとの力の差は物理的に明らかだったけど、久し振りにそれを再確認する事になった。
ローズとはそこまで差が無い気がするので、もしかしてスキルの力なんだろうか?
そんなことを考えながら三人の魔導スラスターの力で何とか飛び発つ。
想像していたよりも開拓は重労働だな。
本当は大戦士一人の所を四人もいる上、騎士や強い戦士たちの助けを借りてるのにこんな大変だとは思わなかった。
俺達が特別面倒な場所を開拓している気もするけど、面倒だからこそ開拓されないで残っている訳か。ブレイク後でモンスターが居なくなっている間にやらないと、今度はモンスターの妨害付きになってしまう。
グランドワームは流石にあそこまでの大きさで復活しないと思うけど、素の大きさによっては船を浮かべても無駄になりそうだな。
そんなことを思って隣で船を支えているローズの方を見れば、俺が懸念していることを表情から見抜いたローズが自信ありげに通信を送ってくる。
=移動跡を使うの。中々の作戦だと自負しているわ。
例の目的が何とかと言っていた奴か。
楽しみにしていたことを思い出し、船を持つ手にも力が入る。
自信があるらしいローズの作戦を見せてもらおう。
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