第22話 【認識偽装】制圧の姉

 俺達の踏み込んだ場所は通路になっており魔道具らしきもので明かりが灯っていて中々明るい。見回してみれば出てきた部屋と同じ側に扉が並んでいて複数の部屋があるようだ。


『準備は良い?』


 俺達が侵入した部屋は角部屋だったみたいなので、ローズが俺達に声を掛けてから隣の扉を開いた。おねえちゃんとアルテはローズの左右で鈍器を振りかぶり準備万端。


 部屋の中には豚鬼がポツンと立っていて、俺達を見て固まっている。


 そんな無防備な豚鬼へローズの早撃ちが炸裂した。腰から一瞬で手のひら大の機械槍を抜き放ったローズは豚面と胸を撃ち抜き、もんどりうって倒れた所に更に頭部に撃ち込む。ローズの早業におねえちゃん達は音を立てないように拍手している。


 この機械槍は妙に炸裂音が小さい、気を付けていないと聞こえないほどだ。


 何度も撃ち抜いているのになかなか消えないなと思っていると、ローズが手のひら大機械槍をクルクル回転させて腰のホルスターにしまった後、自慢げに教えてくれる。


『この機械槍の弾薬は昏睡の魔法が込められた睡眠弾なの。魔法が効くなら確実に制圧できるから、このダンジョンの急所が無い敵には効果的なはずよ』

『凄い武器だな。音が小さいのは?』

『それはタートルの技術提供で作った静音器のお陰ね。破壊力は落ちるけど、機械槍の炸裂音を抑えてくれるわ。睡眠弾に破壊力は無関係だから問題ナシ! クロ、早速で悪いけど止めを刺してみてくれる? 情報が正しければ……』

『了解だ!』


 白目をむいて固まっている豚面に対して、蒼いナイフによる連続攻撃を敢行する。


 するとナイフの追撃効果が連続で発動して豚鬼は消え去った。動けない状態とはいえ俺の手で精鋭のB級モンスターを撃破できた感動に打ち震えていると、そんな俺を無視してローズがドロップ品である金属のチェーンをじゃらりと拾い上げた。


 チェーンに繋がれた板をローズが俺に見せてくれる。


 こういったものは軍や衛兵の認識票として首にかけておくものだと聞いたことがある。この板には豚面が描かれており豚鬼の認識票と言ったところだろうか。


『……事前情報と同じね。クロ、これを人数分頼むわ』

『何に使うのか想像もつかないけど、了解だ』

『それは集めてみてからのお楽しみね』


 #####


 その後、何カ所か部屋を開けてはローズが同じように制圧して俺が倒すという流れを繰り返し、並んでいた部屋を全て制圧する頃には四つの認識票を集める事に成功していた。


『じゃあ、みんな、これを首にかけてみて』


 最後の部屋で、集めた認識票を俺達に一つずつ渡してきたローズは自分自身で首にかけて見せると、俺達が同じように首にかけたのを見て頷いた。


『ローズぅ! このチャリチャリを付けてると何かいいことがあるの~?』

『そうね……。説明しておきましょうか』


 大きめに作られた豚鬼用のベッドに腰かけたローズは、胸元にぶら下がるチェーン付きの認識票をつまみプラプラさせながら、肩にかけている弾薬ポーチの中でも大き目な場所から引っ張り出した本を開き説明を始める。


『この本によると豚鬼の認識票を身に着けていれば、モンスター達は私達の事を豚鬼だと認識するわ。堂々と街中を探索できる訳ね。当然だけど、こちらから攻撃を仕掛ければ普通に反撃されるから、気を付けて』

『モンスターなりきりアイテム! 面白そうだ!!』


 指を立てて理由と結果、そして気を付けるべき事を教えてくれたローズの説明に、両手を上げて喜んだのは空色の目を輝かせたアルテだ。


 おねえちゃんも緑の目の間にしわを寄せて首を傾けながら、大事な所は理解したらしく『攻撃は仕掛けない~、攻撃は仕掛けない~』と繰り返している。


『行くわよ!』

『は~い』『楽しみだなぁ!』『了解だ』


 ベッドから立ち上がり部屋のドアを開けたローズの号令に続き、全部の部屋を制圧したこの階を後にする。角部屋から一つずつ部屋を制圧したのだが、最後の部屋の扉の隣には下りの階段があり、そこから下の階へ降りられるのだ。


 自信ありげなローズは姿を消すマントを畳んでポーチに放り込み、堂々と階段を下りていく。俺は少し心配なので丸めたマントを後ろ手に持ちながら、何となく音を鳴らさないように抜き足差し足とローズの後について行く。


 おねえちゃんとアルテも俺の真似をして妙な事になっているけど、ずんずん進んでいってしまうローズは気にすることなく下の階にたどり着いた。


 下の階で帳簿らしきものをめくっていた豚鬼がこちらの事をちらりと見てくるが、すぐにこちらへの興味を失ったのか紙をめくる作業に戻っていった。


 その様子に興味津々なアルテが紙を覗き込みに行っても、鬱陶しそうに手で払われるのみと大して反応をしてくることも無いので、ローズの言っていたように俺達の事を豚鬼だと認識していると思ってもよさそうだ。


『凄いねぇ~!』

『一応、言葉を聞かれると敵対してくるらしいから。首輪はしたままで行きましょ』

『言葉を話すのは、ダメと言う訳か。アルテ?』

『おっ先に~! こりゃ面白そうだぞう!!』


 ローズの言葉におねえちゃんと一緒に背筋を伸ばしながら、早速外への扉を開けて探索へ飛び出すアルテを追いかける。

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