第23話 【遊技大会】先鋒の姉
俺達が建物から出てくると、先ほどまでの暴動は治まっているようで鎧姿の豚鬼や小鬼が暴れていた魔物たちを次々と打ち倒す草刈り場になっている。
どうやら門の前に居たような装備のしっかりとした魔物は、そこらをウロウロしている魔物と比べてレベルの上がった強い魔物らしく、この町の治安維持をしているようだ。
周囲を見回せば硬貨を叩きつけて落とす遊びに魔物と興じていたらしいアルテが、勝ったのか大量の銅貨と銀貨を握りしめてこちらに近づいて来る。
『いや~、儲かった! ガルト王国の硬貨じゃないけど、中々面白い遊びだね!』
『情報に無い要素なのだけど、どんな遊びだったの?』
『机に並べた絵柄無しの硬貨を手持ちの硬貨でぶっ叩いて落とすだけ! そんで、たくさん落とした方が使った硬貨を総取りだって!』
『……モンスターと話せたという事?』
『フィーリングで! 地下で大会をやるらしい!』
『地下はボスモンスターが居る闘技場だったはずなのだけど……』
ローズがそんな楽天エルフから色々と聞きだすと、すっかり変わっていそうなダンジョンの中身に頭が痛そうにしている。
そんな彼女へ追い打ちをかけるように、おねえちゃんが期待に緑の目をキラキラとさせて見つめた。
『ローズぅ! 遊びの大会に行くの? 私もやりたいなぁ~!』
『チェルシー。そうと決まったわけじゃなくて……』
『でもでも、ぼすもんすたーの居る場所で大会があるんだよねぇ? 行こうよ~』
『…………仕方ないわね。行ってみましょうか』
言い募るおねえちゃんに根負けしたらしいローズは溜息を吐くと、切り替えるように近くの建物に踏み込んだ。
そして、机で例の遊びをしているらしい小鬼や豚鬼を避けながら奥まで進んでいき、カウンターで金貨を並べている身なりの良い豚鬼の前に金貨を叩きつけた。
『確か……。こうだったかしら?』
金貨を叩きつけられたカウンターの上に並べられていた金貨たちは跳ね上がり、数えていた豚鬼が苛立ったように、四本の指を立ててにらみつけてくる。
『なるほどね。人数分必要……と。よしっ』
ローズがそんな豚鬼の反応に対してさらに三枚の金貨を積み上げると、頭をぼりぼりとかいた身なりの良い豚鬼が四枚の木札をカウンターに滑らせた。
それを無言で受け取ったローズは目を細めると、俺達に配ってくれる。
俺達が木札を配ってもらっている間に立ち上がったらしい身なりの良い豚鬼は、天井からぶら下がっているロープを次々とリズミカルに引っ張った。
がたがたと床板がまくれ上がり規則正しく整列し、独りでに組みあがっていく。
整列していた床板が無くなるころには、何もないスペースだった場所に地下への階段が現れた。
両手を上げて地下への階段へ突撃しようとした小鬼は身なりの良い豚鬼に蹴っ飛ばされて、転がるように店から逃げ出していく。
小鬼とは違い木札を見せつけた豚鬼は、身なりのいい同族から特に何もされることなく地下へ降りていく。
『これを買わないと、はいっちゃダメなんだね~』
『そうみたいだね。おねえちゃん』
それを見たおねえちゃんは、今さっきローズから貰った木札をどや顔で見せつけて地下へ進んでいく。
アルテはいつの間にかいなくなっていたので、もっと先に行ってしまったらしい。
二人が先に行ってしまったので置いてけぼりになった俺とローズは顔を見合わせると、その後を木札を掲げながら追いかける。
木製の階段はすぐに終わり、長々とした石製の階段を駆け足で降りていく。
しばらく降りていると光の差し込む出口の前に、見慣れた桃色の髪を見つけて駆け寄る。
『おねえちゃん。早すぎるよ!?』
『凄いよクロ~。まるでアレスの闘技場みたい~!』
俺の苦言をどこ吹く風と聞き流したおねえちゃんは、光で満たされた出口の方を指差して興奮している。
アレスは俺達の故郷の近くにある都市で大きな闘技場がある所だ。
段々と目が慣れてきた俺にもその様子が見えて来ると、その光景に呆然としてしまう。
そこにあったのはたくさんの光の魔道具で真昼の様に照らされた地下闘技場だ
俺達が入った場所は複数ある入り口の一つらしく、他の入り口から続々とモンスター達が木札片手に入場している。
此処からでは反対側しか見えないが、見える範囲の観客席はほとんどがモンスター達で埋まっており、もしもあれらとまとめて戦うことになったら撤退も視野に入れるべきだろう。
観客席に囲まれた高台にはただ一つの机が置かれていて、一匹の小鬼が金貨を片手に挑戦者を待ち構えている。
その様子に目を輝かせたおねえちゃんが腰の袋から金貨を取り出して駆け出した。
『おねえちゃん!?』
『ちょっと、勝負してくるね~』
『確かに闘技場だった時も飛び入り参加方式だったとあるわね』
俺が驚いて呼び掛けると、ちょっと振り返ったおねえちゃんはそのまま行ってしまった。ローズが本を取り出して過去の事を教えてくれるけど、周囲を大量のモンスターに囲まれたど真ん中へ行ってしまったおねえちゃんが心配だ。
観客席から飛び出して舞台に立ったおねえちゃんは、金貨を挟んだ指で待ち構えていた小鬼を指し示す。
おねえちゃんの乱入に大歓声が爆発した。
どうやらローズの言った通り、飛び入り参加方式だったらしい。審判役らしき帽子をかぶった小鬼がおねえちゃんの持っている金貨へ板のようなものを近づけると、板から照射された緑の光が金貨を照らしている。
検査か何かだろうか?
頷いた審判小鬼が待ち構えていた小鬼の方にも同じ手順で検査を済ませるのを眺めていると、周囲に視線を巡らせているローズから声を掛けられた。
『怪しまれているみたいだから、席に座りましょうか。ほら、そこの席が空いてるわ』
『わかった』
言われて周りを眺めてみると、俺達の事を指差したり、見ているモンスターが多い事に気が付く。
確かに出入り口で立ち見をしているのは不自然だった。
空いてる席を見つけたローズに手を引かれて一緒に座ると、隣に誰かが座った気配がする。
魔物の巣窟で隣り合った相手が気になりチラリと目線を向けると、そこには色々な食べ物を抱え込んだアルテが座っていた。美味しそうな匂いのする骨付き肉を押し付けられる。
『や! 買いすぎちゃったんだけど、食べない?』
『アルテ……。魔物の料理なんて大丈夫なの?』
『平気!平気! 材料もドロップ品みたいだし! 火が通ってれば一緒でしょ!!』
もごもごと食べながら、俺達にホイホイと食べ物を押し付けたアルテは、分かるような分からないような理論でローズの懸念を笑い飛ばし、更に面白そうに舞台を指差して続けた。
『ぶはは! 面白い事になってるね!! ぶふ、しかも勝ち扱いになってるし!』
アルテの言葉に視線を舞台の上にうつすと、困ったような顔の審判小鬼がおねえちゃん側に白い旗を上げている。
俺達が席に座っている間におねえちゃんは対戦相手を撃破してしまったらしい!?
しかし、舞台の惨状は本当にアルテの説明した硬貨を弾き飛ばすゲームをやっていたのか不安になる状態になっていた。
テーブルは中心で真っ二つに割れてその意義を失い。
散乱する硬貨は全てくの字に曲がっていて。
対戦相手は背中を地に付けて大の字になっている。
いったい目を離している間に何があったの!?
俺の疑問を他所に、屈強な豚鬼たちが新たな金属製のテーブルを運び込み、帰りに敗者とテーブルの残骸を担いで去って行くと、勝利したおねえちゃんへの挑戦者が飛び込んできた。
今度の対戦相手は豚鬼だ。謎の勝ち方をしたおねえちゃん相手に小鬼から豚鬼に変わったところで勝機があるとは思えないけど、ニヤニヤとしたあの表情を見るに何らかの策があるらしい。
ニヤニヤ豚鬼はもったいぶって背中に隠していたものを掲げて見せた。
その手には手の平並みに大きな金貨を持っている!?
審判小鬼が例のごとく緑の光を当てるけど、普通に合格したらしく一体何を検査しているのか謎だ。
嬉しそうなおねえちゃんに向けてニヤニヤ豚鬼が巨大金貨を突きつけている。
今度はおねえちゃんの活躍をしっかりと見る事を決意した俺は、アルテに貰った骨付き肉をかじりつつ、おねえちゃんと豚鬼が相対する舞台を睨んだ。
……普通においしいなコレ。
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