第24話 【連戦連勝】銭闘の姉
先程おねえちゃんが謎の勝利を飾って見せた舞台へ、周囲を囲む観客席からモンスターの大歓声が送られている。
舞台の上では豚鬼とおねえちゃんが金属テーブルを挟んで、お互いに勝利を確信した顔で向き合った。
おねえちゃんは小鬼に挑戦した時と同じく、金貨を指に挟む構えで振りかぶる。
対する豚鬼は巨大な硬貨を片手ではきついのか、もう片手も添えて両手投げだ。
『『行け』』
しっかりと見ようと観客席の柵にしがみ付いていたおかげか、声を伝える首輪の機能でかろうじて聞こえてきたおねえちゃんの言葉は、何処かで聞いた覚えのある物だった。
同時に投擲された金貨と巨大金貨は空中で激突。
物理法則を無視したように、巨大金貨をはじき返したおねえちゃんの金貨は、何故か空中で弧を描くとテーブル上へ舞い戻り、次々と不自然な軌道でテーブル上の硬貨をはねとばしていく。
はじき返された巨大金貨は持ち主である豚鬼のニヤついた顔に直撃し、一撃でその巨体を舞台の上に沈めた。
テーブル上の硬貨を全部はじきとばした金貨は、満足したかのようにおねえちゃんの手元へ帰ってくると、その小さな手に収まる。
机以外が第一試合と同じ状況になった舞台に、大歓声が突き刺さる!
『おねえちゃん、凄いよ……!』
『アレはもしかして弓スキルの【誘導】? 硬貨で発動させるなんて』
『ブハハ! にやけ面オークの顔見てよ! にやけたまま失神してる!!』
ローズの言葉でようやく聞き覚えのあった理由がわかった。アルテの弓スキルだ。おねえちゃんがナイフでやっている所は見たことがあったけど硬貨でも出来たのか。
アルテの言う通りにやけ面のまま倒れている豚鬼は、きっと良い夢でも見ているのだろう。
嬉しそうにはじきとばした硬貨と巨大な金貨を拾い集めるおねえちゃん。
踊り狂ったおねえちゃんの金貨に呆然としていた審判は、勢いよく白い旗をおねえちゃん側に上げた。
これでおねえちゃんの二連勝だ!
おねえちゃんの快勝に皮算用を始めたローズに、本来の目的であるダンジョンの攻略を忘れて完全に楽しんでいる楽天エルフ。
『四戦目がボスのはずだけど、この調子なら楽勝ね。遅れも取り戻せるわ』
『いやいや! 次も面白い事をやってくれるはず! 期待してるよ!!』
何だか油断しすぎな気もするけど、俺もおねえちゃんの活躍が楽しみなので二人の事は言えない。
ステージの方を見ると、にやけたまま倒れている豚鬼を先ほどと同じく屈強なスタッフらしき豚鬼が回収していき、今度は黒づくめの小鬼が金貨を握り音も無く現れた。
小鬼にしては素早い身のこなしを見せる黒づくめ小鬼は、あえて相対することなく横向きのまま横目でおねえちゃんの事を静かに睨む。
スタッフらしき小ぎれいな給仕服を着た小鬼がテーブルに新たな硬貨を並べていったあと、例のごとく審判小鬼が緑の光を照射して新たな対戦相手のコインを検査すると、三戦目が始まった。
先ほどの試合をなぞるように、お互いが硬貨を振りかぶって……投げた!
『『行け』』
間を置かずに空中で金貨同士が衝突。
『よしっ! これで……。うん?』
『良く見えるわねクロ。ん? どうかしたの?』
『おねえちゃんの金貨が……!』
今回も同じようになると思っていたら、不思議なことが起こった。
今度も自在に動くと思っていたおねえちゃんの金貨は、何故か相手の金貨にくっ付いたまま沈黙。
『あれぇ?』
金貨はまとめて相手の方へ飛んで行き、両手で受け止められた。
舞台をずりずりと滑りながらも受け止めた小鬼は、不敵な笑みを浮かべる。
その結果に審判役の小鬼は頭上に白旗を上げ、黒づくめの小鬼へ何かを促す様に目配せした。目配せに反応した黒づくめの泥棒小鬼は二枚纏まったコインを懐に入れると、新たにコインを取り出して検査を受けている。
『テーブルの硬貨をお互いにはじけなかったから、仕切り直しみたいね』
『あの小鬼、おねえちゃんのコインを取るなんて。酷い奴だ!』
『大きな金貨の次はくっ付く金貨! 色々とやってくるねぇ!』
小首をかしげながら何事か考えていたおねえちゃんは、ゴソゴソと腰の袋を漁ると先ほど手に入れた豚鬼の手のひら並みな大きさの金貨を取り出した。
丁度お皿を持つような持ち方で、審判役に緑の光を照射してもらい検査してもらったおねえちゃんは不敵な笑みを浮かべる。
おねえちゃんのパワーを知らない黒づくめの小鬼は、無謀にも同じことをしようと口の端を上げながら金貨を振りかぶった。
対するおねえちゃんはハンマー投げの様に体全体を回転させることで、金貨に勢いをつける!
同時に投げられた金貨は、先ほどと同じように空中で衝突した。
直撃させたところまでは流石だったが、小鬼の金貨に衝突したおねえちゃんの金貨は全く勢いを衰えさせることなく進み続け、不自然な軌道でテーブルへ突っ込んでいく。
『あっ、また間違えた~』
そして巨大金貨は次々とテーブル上の硬貨をはねとばすと、おねえちゃんの言い様だと制御を間違えたらしく金属製のテーブルへ深々と突き刺さる。
突き刺さった場所で異音を響かせ回転し続ける金貨の周りがひび割れていく。
巨大金貨が突き刺さった事でついに天板が割れてしまったテーブルは、構成していたパーツを周辺に飛散させながら見る影もない姿になった。
飛んできたパーツで負傷した審判役が膝をつきつつ、白い旗をおねえちゃんの方へ上げる。
おねえちゃんはひょいと避けたみたいだけど、対戦相手はそうもいかなかったみたいで舞台に沈んでいる。
これでおねえちゃんの三連勝!
だけど、ボロボロな舞台の有様が心配になった俺は、次がボス戦だと言っていたローズに聞いてみる。
『本当に次がボス戦なのか? 舞台も審判役もボロボロだけど……』
『大丈夫。闘技場だった時の話だけど、ボス戦は特別なステージになると書いてあったわ』
ローズの言葉と共に揺れ出した闘技場は、生き物のように姿を変えていく。
『『おお!』』
『こういった所は一緒みたいね。ほら! アレがここのボス。デュラハンよ!』
驚く俺とアルテの目の前で舞台自体が巨大なテーブルに変身した後、その中心に光が集まると一体の人型が立っていた。
頭部のない二メトルほどの全身鎧が、脇に抱いている金に輝く兜を掲げてみせる。
見た目からしてアレを金貨代わりに投げちゃうの!?
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