第10話 【桃色の夢】注目の姉

 夢を見ている。


 黒煙昇る基地へ闇色の魔導スラスターを吹かし、高速で突っ込んでいく黒い剣が見える。


 ナンバー20だ。


 黒い剣は巨砲背負う桃色の人型を掻っ攫い飛び去っていく。


 =ナンバー20! 撃ち足りないです! まだ撃たせてください!

 =ナンバー6、ターゲットは破壊した。撤退するぞ。


 基地から対空攻撃と思われる枝分かれした青白い閃光が散発的に放たれるが、黒い剣は暴れる桃色の人型を落とさない様にしながら軽々と回避した。


 =ナンバー20、すみませんね。興奮しすぎました。

 =ナンバー6、……気にするな。これで作戦終了だ。


 謝っている桃色の人型を乗せ、黒い剣は青空を飛び去って行く。


 #####


 意識が浮かび上がってくる。


 印象的な夢を見た。


 あのナンバー20が逆に抑えに回るなんて、ナンバーの中にはとんでもない奴も居るみたいだ。

 今までの夢からナンバーは親しい仲間だと思うのだが、ちょっと曲者っぽい仲間も居るらしい。


 しかし今は眼の前のことに対処するほうが重要だ。


 目覚めた俺はおねえちゃんに圧し掛かられたまま、柔らかくて暖かな何かに頭を乗せている。おねえちゃんにガッチリとホールドされているので身動きが取れない。


「おはようクロ。ちょっとくすぐったいのだけど?」


 どうにかおねえちゃんから逃れようと身じろぎしていると上から半笑いの声が降ってきて、上を見ればローズから赤い目で見下ろされている。

 俺はこの状況を作り出したらしい張本人に挨拶を返しながら説明を求めた。


「……おはようローズ。どうしてこの状況に?」

「魔石通信の為に両手が使いたかったの。中々面白いことになりそうだわ」


 ベッドの上でカタカタと魔石通信の文字盤を叩いてるらしいローズは、俺を寝ぼけているおねえちゃんへの生贄に捧げた上、両手を使う為に膝枕で接触を保っていたらしい。


 暖かな何かは、ローズの太股だった事が判明した。


 魔石通信は遠距離の存在と情報をやり取り出来る旧文明の機器をコピーしたもので、文字盤で画面に文字を書き込んで双方向でやり取りする。


 元々は違う動力だったらしいが、魔石で代用したのが名前の由来だ。


 詳しい原理は解明されていない。


 しかし、一瞬で遠方と連絡できる凄いモノなのでローズがどこからか取り寄せてきた。


 値段については怖くて聞いていない。


「面白いことは良いから、おねえちゃんを起こして欲しい」

「仕方ないわね。チェルシー! 起きて!」


 俺の願いを聞き届けたローズは横着して俺を膝に乗せたままで、俺の布団になっているおねえちゃんをゆすり始める。


 目の前で赤いネグリジェに包まれた結構ある胸が揺れてるので、鋼の相棒から送られてきた指令により目を逸らした。


「ふぁ……もうちょっとだけ~」

「アルテはとっくに起きて、魚釣りに行ってるわよ?」


 おねえちゃんは昨晩に新築の桟橋での釣りを楽しみにしていたので、ローズはそのことを引き合いに出して起こそうとしている。俺達の上に乗って布団になる直前までアルテに教わって釣り竿まで作っていたのだ。


「おあよう~ろーぅ、くお……」

「おねえちゃんおはよう」

「おはようチェルシー」


 半分眠っている半目のおねえちゃんが起き出して多分俺達に挨拶をしているので、ようやく解放された俺もローズと返事をした。


 寒がりなおねえちゃんは毛布をかぶったままゴソゴソと着替えを探している。


 そんな様子を横目に起き上がった俺は、一応の気遣いはされていたのでローズに礼を言っておく。


「気を使わせて悪かったな」

「気にする事はないわ。良い物も借りていたし」


 魔石通信を見やりながらニヤリと笑ったローズは、ちゃっかり羽織っていた俺のマントを持ち上げて見せてくる。妙に暖かいと思っていたらドラゴン装備の耐環境で朝の寒さをシャットアウトしていたらしい。


 横を見ればおねえちゃんも青いワンピースを薄着の上からなんとか着て、寝ぼけ目でスライド式サイドドアを開き飛び出していく。ちょっと心配だ。

 

「返すわ。チェルシーの様子を見に行くんでしょ? 私も着替えないとね」

「助かる。ありがとう」


 魔石通信を終わりにしたらしいローズが俺の黒マントを返してくれたので、それを羽織り開きっぱなしのサイドドアを通り抜けて閉めおねえちゃんについて行く。


 建てたばかりなので下草の残る車庫から出て、すぐ近くの泉へ向かう。


 俺が桟橋に併設された小屋まで来ると、橋の上ではアルテとおねえちゃんが釣りに勤しんでいて、先に来ていた楽天エルフが釣ったのか魚かごの中には何匹か魚が入っている。


「中々釣れないな~」

「竿を動かしすぎだって! 落っこちた虫の気持ちになって釣らないとね!」


 目が覚めたらしいおねえちゃんが竿を上下に動かしまくるので、見かねたアルテがアドバイスをしてくれている。前に釣りをしたときは毎日エサを与えられている半養殖な魚相手なので簡単だったが、野生の魚は警戒心が強くて簡単ではないみたいだ。


 そんな長閑な様子を見て和んでいると、蒼いコートに着替えてきたローズが小屋から机と椅子を引っ張り出してきて声を掛けてくる。


「クロ、持ってきたから調理用の魔道具を用意して」

「了解だ」


 ブレイク直後の静まり返ったダンジョンで朝食だ。


 ローズの組み立て直した机に魔道具のコンロをセットして、その上に足つきの金網を置く。


 俺達の様子に気がついたおねえちゃんが、アルテに断って魚を捌き始める。高速で鱗を落とし腹を開くと内蔵を素早く取り払い泉で洗って渡してくれる。


 おねえちゃんはドラゴンの幼生であるウォータードラゴンパピーで、大量のお造りを作った事があるから魚の解体には慣れたもの。


 小さめの魚だが丸々と太っている朝食には十分だろう。


 下処理は済んでいるので、俺のやることは網の上に置き塩を振りかけるだけだ。


 次々と渡される魚をひっくり返し続けていると、引っ張り出してきた丸太の椅子に座ったローズがベッドで言っていた面白い事について教えてくれる。


「この複合ダンジョンの現状について報告したら、チェルシーのおかげでマダイジュとそれに対抗してガルトからも結構な援軍が送られてきそうよ」

「それは頼もしいな」


 おねえちゃんはマダイジュという東の森に在る国家で勇者認定された事があり、認定された目的を達成した現在も感謝と尊敬を集めている。


 マダイジュは目的達成の恩返しとして今回は援軍を送ってくれたらしい。


 それに対抗してガルトからも援軍が来るというのは大変な大所帯になりそうだ。


 木陰の森の中、魚の焼ける香ばしい匂いに包まれているとあの国を旅したことが思い出される。森の中で魚は焼かなかったけど、道中で色々と焼いて食べたのだ。


「次のダンジョンは砂漠よ。拓けた地形だから速攻でボスとの戦闘になる、この援軍は早速こき使わせてもらうわ。必勝の秘策もあるし楽しみね」

「砂漠ってなんだ?」


 分かっている前提で話が進みそうなので、気になった事を聞いておく。するとローズは俺の雑な質問にも楽しげに答えてくれた。


「砂漠というのは砂で出来た海ね。どこまでも砂が続いているわ」

「……厳しそうな地形だ」


 明らかに足を取られそうな危険な地形なので、つい声が出てしまう。


 ローズはそれも質問と受け取ったのか、ニヤリと笑いながら答えてくれた。


「こんな地形こそ魔導鎧の出番よ! 常に飛んでいると魔力消費が激しいから、さっさと終わらせる秘策は用意してあるわ。が旧文明遺構の主との交渉に成功したの」

「流石は! 頼りになる奴だ」


 イーグルは別行動している仲間だ。巨大なワシの姿をした旧文明の魔導機械で、先行して旧文明遺構の主と交渉をしていた。


 それを成功させたのが秘策ということは、旧文明遺構の主が戦いを手伝ってくれるのだろうか?

 首を傾けた俺の表情から考えを察したローズが驚愕の事実を教えてくれる。


「旧文明遺構の主……違うわね、旧文明遺構は都市を背負った機械の亀よ!」





――あとがき――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

おねえちゃん達の活躍を楽しんでもらえましたでしょうか?

今回は森と崖のダンジョンを飛んだり跳ねたり切り裂いたりして暴れまわりました!


もし良ければ下のリンクから★での評価やフォロー、応援をよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330666263373480/reviews


次回からは砂漠のダンジョン編となります!

今後も良ければお付き合いしてもらえると嬉しいです。


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