砂漠のダンジョン

第11話 【砂海の王】誘導の姉

 灼熱の太陽照らす砂漠上空でおねえちゃんやローズと共に下方を注視している。 空中は太陽の光と砂漠の照り返しに歪んでおりドラゴン装備の耐環境が無ければ、早々に干上がってしまうだろう場所だ。


 地響きと共に砂の海を割き、赤茶けた色をした山のように巨大な魔物が姿を現した。巨体が震えると乗っていた大量の砂が砂海へ落ちていく。


 その頭部には目が無く、花の様に開いた巨大な口だけが存在している。


 魔導鎧の魔導スラスター吹かし飛ぶ俺達の事を目が無いのに何らかの方法で見つけた巨大魔物が、こちらへ砂海を震撼させる咆哮あげれば、口の中で不規則に並ぶ無数の牙も震え恐怖心を煽る。巨大魔物の背後で砂海がボコボコと不自然に変形している。


 次の瞬間、砂海から長大な体をうねらせ、大量の砂を巻き上げ飛び掛かってきた!


 =クロ、危ないよ~!


 巨体からは想像もつかない瞬発力からの飛びつきに驚き、動くことが出来なかった俺の事を青黒い魔導鎧を着たおねえちゃんが無線で声を掛けながら捕まえて退避してくれる。


 巨大魔物はその巨大な口で空中をかみ砕き、勢いよく砂の海を爆砕し潜航した。


 頭部の後を追う長大な体を赤い魔導鎧を着たローズがアームキャノンの掃射で追撃するが、相手が巨大すぎて反応してくるほどのダメージになっていない。

 血は噴き出してはいるので効いてはいるのだろうが、複合ダンジョンのモンスターが欠損しないという特性のせいでその流血は血の跡のみを残し止まってしまう。


 =おねえちゃん、ありがとう

 =いいよ~。ローズぅ! そろそろ大丈夫~?

 =……予定の時間ね。このままグランドワームを惹き付けて、誘導するわよ!


 おねえちゃんの確認に頷いたローズは遠くに上る白煙を見て、今までよりも激しく攻撃を加え始める。

 潜っていく長大な体にアームキャノンを撃ちつけながら追随し始めたローズの背中を真似して撃ち込んでいるおねえちゃんと一緒に追う。


 この巨大な魔物、グランドワームは砂漠ダンジョンのボスだ。


 俺達はグランドワームを倒す為の作戦を実行中で、なんとか巨体の猛攻を凌いでいた。見ての通り現状は大した損害は与えられていないけれど、策は整ったらしい。


 潜りながら尾を叩きつけて砂をかけてくる狡猾な攻撃に砂まみれになりつつ、砂中に潜っていく尾ごと俺達を噛みつかんとする砂中を回り込んできたらしい頭部を回避する。


 手が空いてるならばそのまま見逃すおねえちゃんでは無く、蒼い剣を引き抜ぬくと光り輝かせて通り抜け様に振りぬいた。


 振りぬかれた斬撃の激流が長大な肉体を叩けば、体表を装甲の様に張り付いていた赤茶けた砂が破壊され、内部にも届いたみたいで大量出血させる。


 そこを狙いローズがアームキャノンの追撃で被害を拡大させた。


 多少の痛手を与えたのか巨体は一瞬固まったが、何事もなかったかのように再び潜ることで装甲の破壊されていた場所を隠してしまう。


 =ダメね。陸上に打ち上げないと砂で装甲を元に戻してしまうのよ。本の通りだわ

 =こんなサラサラなのに、とっても固いね~。なんでぇ?


 攻撃の効きにくい相手にその理由を語り飛び回るローズに、おねえちゃんが剣を鞘に戻し手についた砂をいじって質問する。


 =ワーム系の魔物は体の表面から粘液を出して、体を守っているの……っよ!

 =そうなんだ~。何だかカエルみた……ローズ大丈夫?


 戦闘中なのに嬉しそうに質問に答えながら、おこぼれを狙って来たらしい赤い羽アリ型のモンスターを空中で蹴り飛ばし、副腕バックユニットに持たせていた赤い機械槍を受け取り墜落していくアリを撃ち抜いたローズ。


 機械槍を副腕に返すと、何事も無かったかのように説明の続きを話す。


 =平気よ。グランドワームはその粘液で砂を固めて鎧にしてるのね

 =困ったね~っ!


 次々と飛んでくる赤い羽アリを抜き打ちの蒼い剣による斬撃流で纏めて切り払ったおねえちゃんが鞘に剣を戻せば、羽アリは瓶詰の何かを空中に残して消え去った。


 ドロップした瓶は砂の海へと落ちていく。


 それに食らい付くようにグランドワームが砂中から飛び出してきた。奴の何らかの感知に瓶が引っ掛かってくれたみたいだ。


 瓶を狙ったので勢いが足りずに頭を差し出す形になるグランドワーム。


 訪れた攻撃のチャンスに頷きあった俺達は魔導鎧の腰装甲を両手で左右同時に押して、搭載されている魔導兵器を起動させた。


 すると背中にある弾薬保管庫の上側がスライドして魔導兵器・誘導弾が現れる。


 多目的バイザーに映し出された捕捉用レティクルを巨大すぎる大口に定めると、誘導先の設定がすぐに完了したので攻撃対象をバイザー横を押す事で決定した。


 魔導鎧の背部装甲から顔を覗かせる形になっていた誘導弾は、攻撃決定によって安全装置が解除されると独りでに飛び出し、大口を開けて俺達が降ってくるのを待ち望むグランドワームの口へ代わりに突っ込んでいく。


 俺は八発でおねえちゃんとローズの二人は四発ずつ、誘導弾が次々と飛び出す。


 グランドワームに飲み込まれた十六発の誘導弾はその力を発揮して起爆、巨体をボコボコと膨らませて爆圧によって強制的に開かされた口からは爆発の度に閃光と煙が噴き出した。


 天を突く形で硬直した巨大魔物の口からは煙が上がっている。


 =倒したかな~?

 =消えないわね。まだ生きてる。気を付けて


 俺の黒い機体が倍の発射数なのはアームキャノンをオミットした誘導弾キャリアーとして試作されていたからだ。


 誘導弾は強力な爆裂魔道具と誘導魔道具を組み合わせた高級な魔導兵器で、ぶつけることで起爆する為に当然ながら使い捨てだ。


 とんでもない弾薬費がかかる装備だが、この化け物の生命力を削るチャンスなので迷わず撃ち込んだ。外が固いなら中身だ!


 通常の魔物ならばこの一撃で肉体が飛び散って撃破完了だけど、この複合ダンジョンの魔物は欠損しないという酷い特性がある。


 固まっていた巨体の魔物は再び動き出すと、しつこくこちらの事を狙ってきた。


 =わぁ。丈夫だね~?

 =悪夢みたいな魔物だね。


 強烈な一撃を食らわせたので、もしかして逃げてしまうのではないかと心配したんだけど杞憂だったらしい。


 誘導弾を警戒しているのか前ほどは積極的に攻撃してこなくなったグランドワームを割と簡単に岩がゴロゴロと転がる砂漠の岩石地帯まで誘導することに成功する。


 そこには魔導鎧一個中隊の十六機と、全身鎧を身に纏った戦士達が集まっていた。

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