第12話 【都市級亀】激突の姉

 一個中隊の魔導鎧は樹木模様の騎士証を身に纏うマダイジュ騎士達だ。


 騎士はレベル五程度の存在だが緑色にカラーリングされたビルド型魔導鎧で武装していて、前衛仕様で盾のような前面装甲が施された六機と、後衛仕様の巨大な砲を二本背負った六機が横二列に並び準備万端に見える。


 全身鎧の戦士達は槍を掲げていて、あの鎧はアレスの衛兵隊だ。


 俺達も暮らしていたことのある都市アレスの衛兵隊は、全員がレベル八以上の魔軍であり戦闘集団としてはこの大陸で最も強いと言われている。ガルトは最強戦士集団の一隊を送ってくれたらしい。


 灼熱の太陽に照らされて景色の歪むほど熱い場所なのに、この二集団は平気な顔で待機している。その理由は精鋭だから……と言う訳では無く、ちょっとしたカラクリがある。


 ここまで来て一つ問題が発生している。


 グランドワームが大人しくついて来たのは良いんだが、おこぼれを貰いに来たらしい赤いアリの軍勢も一緒に連れてきてしまったんだ。羽アリ以外にも地面を駆ける頑丈そうなやつもいる。


 恐らくマダイジュの騎士が無線で連絡を入れてきた。


 =誘導感謝する! 

 =オマケも居るけど大丈夫かしら?

 =多少の雑魚は我等に任せてくれ! 騎士長より全騎士へ! 攻撃開始!


 ローズの確認に返した、自信ありげな返事を証明するように十六機の魔導鎧がアームキャノンの弾幕を展開してアリの軍勢を打ち砕いて行く。


 グランドワームにも少し当たっているが弾かれ、無視されている。


 俺達が集団の前を通り過ぎてもグランドワームは俺達の事を追い続けている。誘導弾を食べさせたことが余程お気に召さなかったらしい。


 =目標グランドワーム! 特殊弾頭発射用意! ……撃てぃ!


 無視して通り過ぎる巨体の横っ腹へマダイジュ騎士たちの撃ち込んだ砲撃が突き刺さるが、大した反応をすることなく通り過ぎようとする。


 不発かと思われた直後に、劇的な変化が引き起こされた。


 撃たれた場所から緑の何かが噴き出すとグランドワームの事を包んでいくのだ。たまらずとぐろを巻いた化け物は岩場に転がると長大な体を絡ませて藻掻きだす。


 赤茶けた装甲からは樹木が生えており、緑の新芽を出しては木になっていく。


 恐らくは魔樹の根を撃ち込んだのだろう。魔樹は高速成長する木で、この大陸の東はあの木に覆いつくされている。マダイジュやその周辺国家は、魔樹の森に在る国々なので魔樹は特産品みたいなものだ。


 特産品の砲弾は特効と言える効果を作戦通り発揮している!


 とぐろを巻く事でバリバリと樹液の甘い香りと共に魔樹が砕け落ちていくが、同時に鎧になっている砂も剥がれ落ち粘液の覆う白い肌が露出した。


 その姿は太った白ミミズだ。


「『槍よ輝け』!」


 白ミミズにアレスの衛兵隊が妙に響く声で攻撃スキルの発動句を唱えている!


 戦士たちの持つ槍は光り輝き、凄まじい勢いで投擲された。

 十本の光の槍は地面と平行に飛んで行きまるで地上を奔る流星だ。

 流星は戦士たちと巨大白ミミズの中心地点辺りで分裂、無数の槍に成り全身に満遍なくへ突き刺さって打ち砕いて行く。

 槍の散弾により周辺の砂海も生き残りの赤アリごと耕され、雨に打たれる水面のような景色が作り出された。


 のたうち回る白ミミズは、自分の真っ赤な血によって彩られていき今度は赤ミミズに変化した。魔物の血が赤いのは人への嫌がらせの一つであり色だけではなく臭いまで人の血と似ているので、周辺は魔樹樹液の甘ったるい匂いと血の臭いが混ざり合いかなり不快な事になっている。


 巨大な赤ミミズは突然、地団太を踏むようにその場で飛び跳ね始めた。


 突然の奇行に呆気にとられていると、赤ミミズが光り輝き大きくなっていく。よく見れば赤ミミズの影ではひき潰されたアリたちが消えるところで、どうやらアリを倒してレベルアップしてしまったらしい。

 

 もともと巨大だったグランドワームはさらに巨大化、地肌が黒くなったのか赤かった身体を赤黒く染めて怒りの咆哮をあげた。


 こんな状況だが、実のところローズの想定内だ。


 ローズの秘策が無線に独特の声を流し、背景を歪ませて姿を現した。


 =□なるほどな。歪なモノだ□


 そこに居たのは散開している衛兵隊や騎士達を影に隠す程の巨大な亀。


 特に特徴的な背中には甲羅代わりに半透明な緑光の泡を背負い、その奥に無数の塔が見透かせる。前後に二つずつある巨大なヒレは甲羅から突き出した長大な金属板で出来ており、それぞれが大地を掃き砕いている。甲羅から突き出した頭は太陽の光を反射して煌めいた。


 騎士と戦士達が灼熱の太陽の下で涼し気だったのは、亀が「こうがくめいさい」とやらで偽装していたからで、本当は亀の影から攻撃していたのだ。


 =□崩れない肉の体か□


 赤黒いミミズへ、ヒレが突き出している穴の隙間から金属音を鳴り響かせて何かが射出される。それは巨大な金属の鎖で巨大魔物に勢いよく突き刺さった。大質量の攻撃を受けた魔物は威嚇の為ではなく、悲鳴を上げる為に花開くように巨大な口を開き咆哮する。


 =□理想的だが、問題もある□


 ジャラジャラと鎖が巻き取られて亀の元へ赤黒いミミズは引きずられていく、巨大魔物も激しく暴れているが巨大な鎖には返しが付いているのか逃げる事敵わない。


 引きずられて巨大な金属板である足に血を塗りたくって叩きつけられた赤黒いミミズは、そのままズルズルとヒレの下へ転がり落ちていく。


 =□潰されたならどうなる? 気になるな□


 無線通信で言葉を垂れ流しながら、淡々と作業するように巨大な魔物を料理するさらに巨大な亀。そのヒレが轟音立てて振り上げられて巨大すぎる一撃が叩き込まれた。


 血と砂がまじりあったものが周囲にまき散らされる!


 すぐに魔物の残した血の跡が消えていくので恐らく撃破されたのだろう。同時に俺達を含めてその場にいた全員が光り輝いた。


 =□これで終わりか、興味深い□


 これは……レベルアップだ!


 長い事危険な相手と戦っていた事による気疲れが消え去り、蓄積された疲労も吹き飛んでいく。何回してもレベルアップは爽快だ。


 魔導鎧の多機能バイザーを上げると明るさの調整が無くなり眩しいが、おねえちゃんとローズの二人もバイザーを上げて笑いあう。


 完璧に役割を果たして見せた今作戦の立役者は、咳払いするような音を出して戦闘中の無線垂れ流しを謝ってきた。


 =□失礼したな。起きる度自問していた故、思考を垂れ流す癖がついてしまった□

 =□定期的に再起動するタイプは大変ですね。当機だったら発狂しそうです□


 その謝罪に横から割り込んできたのは俺達の仲間であるイーグルだ。あいつは少しお調子者な所があるので、変な地雷を踏まないで交渉できたのかはちょっと不安だったりする。


 =大丈夫よ。作戦への協力感謝するわ! 今後も期待しても良いのね?

 =□構わない。久々に働きたいと考えていた。前払いで報酬も貰っている□


 報酬というのは巨大な魔道具コアだ。俺達が前に撃破したドラゴンダンジョンのボスは人の頭よりも大きな宝石をドロップしたので、それで魔道具のコアを作成して巨大すぎる亀への協力報酬兼動力源として提供した。


 協力というのは今回の戦闘だけではない。


 なんとあの泡の中にある塔に住まわせてくれるらしい。


 旧文明の生活というのには興味があるのでちょっと楽しみだ。

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