第6話 【能力判明】早食の姉

 岩の割れ目から出てきた俺達は見晴らしのいい崖の上で昼食をとる事にした。


 俺がちょうどいい大きさの平たい岩の上にバックを下ろすと、そこからおねえちゃんが魔道具を取り出して発動する。


 俺達の周囲に何かが弾かれる音が連続で鳴り響き、その度に金色に輝いた。


 おねえちゃんが発動した虫よけ魔道具の力で弱めの障壁が発生して、細かい虫が押し出された音だ。


 新たに虫が弾かれる音を聞きながら岩の上に携帯コンロの魔道具や脚付きの金属網を組み立て、焼肉の準備を完了する。


 黄色の発火用ひねりを回転させて、携帯コンロに火をつけた。


 おねえちゃんがバックから探し出した鞘付きの調理用ナイフを引き抜き、アルテの持ち上げているドラゴン肉を綺麗な所からスライスしてくれる。

 ウェポンマスターの効果なのか華麗なナイフ捌きですいすいドラゴン肉を厚切りスライスしていくおねえちゃん。


 木製のトングを使いスライスしてもらった肉を加熱された網の上に並べていくと、油が弾ける音と一緒に香ばしく焼ける香りが漂ってくる。


 素早くひっくり返すと良い焼き色がついていて旨そうだ。


 その調子でお肉を次々とひっくり返しているとローズが大きな木皿と人数分のフォークを取り出してくれたので、そこへ良い感じに焼けた肉を取り分けていく。


 ドラゴン肉はとんでもなく柔らかいのでナイフは不要だ。


 おねえちゃんがナイフ片手にドラゴン肉をスライスしながら、もう一方の手を器用に使ってフォークを華麗に扱い、俺の取り分けたお肉を分解して食べやすくしていく。


 そのフォークさばきは高速で俺のお肉を取り分ける速度と遜色そんしょくない。


「おねえちゃん、凄いよ……!」


 これもウェポンマスターの力だというのか、そのフォーク先は繊細せんさいにお肉を一定の大きさに分解していて芸術的だ……!


 #####


 芸術的なフォーク捌きは食事の時にも発揮されて……。


 高速でおねえちゃんの口へと誘われていくドラゴン肉は、肉汁すら零れていない。山のように用意したお肉は凄い勢いで無くなっていく。


 手を止めておねえちゃんの食事を眺めていた俺の耳にローズの警告が聞こえる。


「あんまり食べ過ぎると戦士でも太るわよ?」


 前に聴いたことのある警告だ。


 なぜ人は同じあやまちを繰り返してしまうのだろうか?


「どうしよ~…………食べ過ぎた……」


 フォークを置き頭を抱えるおねえちゃんにローズが提案した。


「だったらちょっと運動しない? 記録によると良い場所があるのよ」


 

 食べ切れ無かったドラゴン肉をバックの中に放り込んだ俺達は、ローズに誘われるままに崖の近くまで足を運んでいる。


 見下ろしてみると崖にはいくつか足場があり、上手くすれば下まで行けそうだ。


 振り返ってニヤリと笑うローズは赤い魔導鎧をバックパック状の待機状態にすると、ここに来た目的を話す。


「この崖の中腹に傷を癒す植物があるらしいの。来て早々の戦いですり傷がついたから、効果を確かめるついでに癒して行くわ。飛行じゃなくて飛び降りていけばそれなりの運動にはなるでしょ?」

「はぁい! 頑張ろう~!」

「そんな不思議草があるんだ! 面白いトコだね!」


 その目的に気合を入れているおねえちゃんと、世にも珍しい傷を癒すという草に興味を持ったアルテがかなり乗り気になっている。


「了解だ」


 おねえちゃんがやりたい事こそが俺のやりたい事なので、当然俺も賛成だ!

 それに火の粉でちょっとした火傷を負っているので、俺にも分けてもらえたらありがたい。


 ローズが足場に向かって飛び降りていくので、その背を追う俺とおねえちゃんも魔導鎧を待機状態にして飛び込んでいく。


 待機状態の魔導鎧は展開状態と違って重量が分散していないのでそれなりに重いが、戦士としてかなりレベルの高まっている俺達にとっては大した負荷では無い。


 岩がむき出しになった足場を踏みしめては、次の足場へ飛び降りていく。


 高い場所で足場から足場へと飛び降りるのは神経を使うので、額に滲んだ汗を拭いながら追う。足場はダンジョンの構造物の為か苔は生えていないけど、しっかりと平らな所を探さなければすべりそうだ。


 途中の足場で何かを見つけたローズがしゃがんで観察しているので集合した。


 ちなみにアルテは飛び降りるどころか崖を走り回っていてかなり先を行っていたが、俺達の異変に気が付くと回り込むようなような動きでこちらへ駆けのぼってきた。


 ローズが本を出して挿絵と生えている草を見比べている。


 頷いたローズが草をナイフで刈り取ると集まった俺達へ見せてくれた。


「これが薬草と呼ばれている傷を癒す野草ね。単体でも効果が有るけど他の特殊な野草と組み合わせることで効果を増す特殊な植物よ」

「そうなんだ~! 可愛いお花だね?」


 見せられた野草はギザギザの葉をしていて黄色い花が咲いている。


 ローズはその野草を弾倉ポーチから取り出したすり小鉢とすり棒で、花ごとすり潰すとペースト状になった薬草を手の平に出来ていたすり傷にぬってみせた。


 森で伏せた時に尖った物に触れてケガをしたのだろう。


 薬草をぬられた傷は劇的な反応を起こした。緑色の光を放ちながら薬草と共に傷が消え去っていくのだ。


「本に載っていたより効果が強い……?」


 その効果に俺達もだが情報を教えてくれたローズも驚いた。赤い目を丸くした彼女は消えた傷をこすってみたりして首を傾けていたが、何らかの思い当たる理由があったのか頷いて俺達を見回し告げてくる。


「私のスキルについて、後で話すことが出来たわ」

「わかったよローズぅ!」

「了解だ。俺も分けてもらっていいか?」

「たしかローズはクロと同じくエラースキルだったね! 朗報を楽しみにしてるよ!」


 俺も薬草をぬってみると緑の輝きと共に、ちょっとただれていた肌が癒された。


 だいたいの不思議な事態はスキルか魔法が関わっていて、スキルについては都市にある発掘魔道具によって名称が分かるので、そこから判断することが出来る。


 でも俺とローズの場合は少し特殊。


 おねえちゃんのウェポンマスターは分かりやすい名前なので簡単にその凄すぎる効果範囲が分かるけど、俺達は効果の分かりにくい名称であるエラースキルと呼ばれるスキルだったのだ。


「今は探索を優先しましょう」

 

 すり鉢とすり棒を弾倉ポーチに片づけたローズは小さな背を向けて、近くなってきた崖下へ飛び降りていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る