第7話 【森の拠点】伐採の姉

 降り立った崖下は平地になっていたけれど周囲を垂直の岩に囲まれていて、背の低い木が生えている以外は何もない。道を間違えたのだろうか?


 その様子はまるで崖のカーテンだ。


 迷うことなく進むローズが背の低い木をかき分けて踏み込んでいくと、カーテンには隙間があり光が漏れている。俺が考えたことを察している彼女は、軽く振り返ってニヤリと笑った。


 ドンドン先へ進む小さな背中を追う。


 俺達の目に飛び込んできたのは、まばらに木が生えた岩場だ。所々で土が露出していて、そこに草が生えて草むらになっている。


 何かを見つけたおねえちゃんが飛び出して、草むらの草をドンドン引っこ抜き両手いっぱいに持ってきた。


「やったぁ! これでしばらく安心だね~!」

「おねえちゃん何を……ずいぶん持ってきたね?」


 黄色い花の咲いているそれはギザギザの葉が目立つ薬草!?


 俺がかなり太い根っこを採取用のナイフで切り落としてあげると、おねえちゃんは袋の中にしまい込んだ。根っこはまた生えてくれると嬉しいので地面に埋める。


 腕を組んだローズが少し考えこむと推測を話してくれた。


「本の情報が古いのかも。ここは長い間ブレイクされていないダンジョン。繁殖して生息域を広げていてもおかしくないわ」

「驚きだね! お手軽に回復できる草が生えているダンジョン! 良い場所だ!」


 ダンジョンが人間に対して対抗策を出してくるのは有名だ。


 長く生き残っているダンジョンは生き残るために殺し間を作り罠も設置し、モンスターに命乞いや逃走からの不意打ちなどの人が嫌がる行動をさせる。


 これも有用さをアピールする事でブレイクされないように進化していった結果なのかもしれない。


 モンスターの体が欠損せず、親玉が群れを率いて、そして……レベルアップする。


 そんな危険なダンジョンが今まで生き残っていたのは、有用すぎる特性を惜しんだ開拓者たちがブレイクしないで維持し続けた結果なのだろう。


「これは目玉として期待できるわ! この近くに拠点を設置したいところね」

「わわ! まだまだ下の段にもいっぱいあるよ~!」


 草むらの先は崖が階段のように連なっていて、黄色い花がたくさん咲いている。


 これが全部薬草なのだろうか?


 額に指をあてて思案顔なローズが、周囲を見回している。


 何かを見つけたのか小走りで駆けていくその背中を追えば、かなり長そうな下り坂を見つけたみたいで頷いている。


「この坂は水場に繋がっているはずよ。食器も洗いたいし行きましょうか」


 #####


 坂道の先はローズの言う通り、大河のほとりに繋がっていた。


 バックから取り出した袋から食器や金網を引っ張り出し、皆で手分けして洗う。木製の食器は水に浮いてしまうので注意だ。


 ついでに周辺を観察する。


 長めの草の生えた広場はモンスターが居ないためか静まり返っていて、少し先には一メトルほどの段差や上り坂があり、それぞれが森に繋がっている。


 上り坂の先にある森は入り口が岩に挟まれていて、封鎖が容易そうに見える。付近に水場もあるので拠点を作るのに良さそうだ。


 洗い物を乾している間に見てみようと立ち上がると、小さな手を拭いているおねえちゃんに声をかけられた。ガントレットは洗い物と一緒に干してある。


「どこ行くの〜?」

「良さそうな所があるから、様子を見てくるよ」

「おねえちゃんも行くよ〜!」


 俺のやろうとしている事に興味を持ったのか、おねえちゃんは俺の手を取ってズンズン森へ進み始めた。同じレベルのはずだが出力に差があって引きずられ気味だ。


 そのまま坂を登り森に踏み込んでいく。後ろを振り返るとローズとアルテが手を振っていて、食器の様子を見てくれるらしい。


 おねえちゃんと二人で近くの森を探検だ!


 岩の間を通り抜けると、その場所は周囲を岩と大木で塞がれた天然の要塞になっていて拠点を作るのに良さそうだ。多少の隙間は木を伐採して埋めてしまえば良い。


 奥の方は大河と繋がっているのか水場になっていて、魚まで泳いでいる。


 大木の影になっているために薄暗いのは難点だけど、空を飛ぶドラゴンから見つかりにくいというのは大きな利点だ。ドラゴンも理由無く森に突っ込んだりすることは無い。


 おねえちゃんと顔を見合わせる。


「凄く良さそうな所だね~!」

「そうだね。おねえちゃん!」


 おもむろに普通の剣を抜いたおねえちゃんは邪魔そうな小さい木をばっさばっさと斬り倒し始めた。大木の枝葉が覆っているせいか小さいけど何をするにしても広いスペースの確保は重要なのだ。


「クロ~。手伝って~!」

「わかったよ」


 ガントレットを外しているおねえちゃんの代わりに、木を纏めて一カ所に集めるのは俺の仕事。一応皮の小手を付けているので素手のおねえちゃんよりは安全だ。


 おねえちゃんの伐採した木を運びながら、斬り倒す様子を眺める。


 緑の目で真剣に斬り倒す木を見つめながらもその小さな口の端は上がっていて楽しそうだ。桃髪のショートヘアを振り乱し、次々と小さい木を伐採している。


 俺たちの帰りが遅いのを心配したのか、ローズとアルテも森の拠点にやってきた。


 二人が来た時にはもう小さな木は全滅していて、両手を組んでその大きな胸を持ち上げているおねえちゃんがどや顔で迎え入れた。


 その様子は髪がちょっとはねていて可愛らしい。


「すごいでしょ~! クロと見つけたんだよ~!」

「良いね! ドラゴンの対策も……多分大丈夫!」


 上を空色の目で見上げたアルテは、ちょっと不安になるけどドラゴンの専門家として十分な評価をしてくれた。


「街を作るわけでもないし十分ね! ここを森の拠点とするわ!」


 おねえちゃんのちょっと乱れた髪を手櫛で整えてあげたローズが宣言する。


 早速一つ目の拠点予定地を決めた俺達だが、疑問があるので聞いてみた。


「拠点の資材や建築労働者はどうするんだ?」

「周りを見渡してみて? 資材の山よ! そしてここには四人の大戦士が居るわね?」

「なるほど……」


 俺の疑問は一発で解決されて、要するに自給自足で色々と用意すると言う事らしい。俺達は重機並みの出力を持つ大戦士だ。


 ここに大戦士が四人いると言う事は重機四台……!


 俺の聞いた話だと開拓はもっと大人数でやるものだったのだが、大戦士四人というマンパワーで全てを解決するつもりだ。


「早速だけどアルテとクロには、そこに集めてある細木の枝を落として棒に加工してもらうわ。チェルシーは私と一緒に魔導車を回収に行くわよ」

「了解だ」「やったるぞ!」

「は~い!」


 ローズの号令で俺達は動き出した!


 と言っても俺のやることは単純な棒の作成なので気を張るほどの事じゃない。バックから取り出した鉈を使って、木の枝を落としていく。


 ちょっと長めの枝は蒼いナイフで少し傷つけ、追撃効果で裁断する。


 そんな地味な作業を高速で繰り返していると、隣で同じことをやっていたアルテが飽きたのか木の棒を組み合わせ始めた。二本の棒を交差させるように突き立ててそこらで引っこ抜いた草で縛ると、同じものをもう一つ作って最後は交差部に枝を乗せる。


 これは……簡易のかまどだ!


 乗せている枝に持ち手を通せば空中に浮かせた鍋を良い感じに火であぶることが出来る!


 思わず俺が拍手すると、思った通りポットの持ち手に枝を通して火にかけ始めた。ポットの中には近くの泉から汲んできた水を流し込み、燃料は集めた葉っぱや枯れ枝を使っている。


「魔道具は便利だけど勿体ないからね! そろそろ帰ってくるだろうからお茶にしよう! クロ君! 茶をよろしく!」

「なるほど……。了解だ」


 バックを開いて簡易茶を探す。


 開拓はまだ始まったばかりなので、お茶でも飲んで落ち着いて行こう!

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