第8話 【錬金術師】整地の姉

「見た目は羽の無いドラゴンだったけど、グラスラプトルはC級モンスターにあたるわね。グラスラプトル・リーダーはB級が良い所かしら?」


 おねえちゃんにくっ付かれているローズがスケッチブックに緑色のドラゴンを描き、箇条書きで所感をつけ足している。モンスターの姿は伝聞で伝わることが多いのだが、彼女の趣味の一つである絵のおかげで大変に分かりやすい。リーダーと思われる大き目の個体も角付きで描かれている。


「すぐに逃げようとしたよね~!」

「そうね。少し面倒そうな特性だわ」


 おねえちゃんが絵筆によって姿を現していくラプトルたちを輝く目で見つめながら記憶を語れば、同意したローズがリーダーについて書き足す。拾ったドロップ品についても多種であったのでリストの様に書き並べた。


「こんな所かしら?」


 スケッチブックを両手で広げたローズが全体像を眺めて頷いている。


 その後ろには丸太や四角い木材が山のように積まれていて、これだけあれば岩の隙間を塞いだ上で色々と作れそうだ。


 魔導車で帰ってきた二人だったが、おねえちゃんは両腕に立木を抱えて大道芸の様に大量の立木を引っ掛け歩きで持ち帰ってきたのだ。少し前の戦闘でまとめて切り払った立木を通りがかりに持ってきたらしい。


 丸太に加工したのは俺とアルテだが、その一部をおねえちゃんが蒼い剣で切り裂き製材してくれた。


 その成果が俺達の座っている椅子と金属カップを置いている机だ。


 机は数枚の製材した木材を並べ天板にして、丸太に乗せただけの単純な造り。

 椅子は丸太を流用した簡易のモノだが、お尻にはグラスラプトルの皮を敷いている。


 俺達の用意しておいたお茶と、魔道具で砕いたリンゴを飲みながら開拓の休憩中。


 リンゴは時間が経っていたので水分が抜けてシャリシャリしているけど、おねえちゃんが幸せそうなので問題は無いな!


 俺も金属のカップに入っているお茶をすすれば、さわやかなリンゴとお茶の香りが入り混じっていて落ち着く。


 少しリンゴのすり身を分けてもらったのだ。


 アルテはもうお茶を飲み切って、泉の魚を眺めている……と思ったら釣り上げた!? いつの間にか竿を作って釣りに勤しんでいたみたいだ。切り落とした小枝を使って魚かごも作っているし準備が良すぎる。


 流石は森育ちだ。


 鋭い赤い目で周囲を見回したローズが椅子から立ち上がり、小休止の終わりを告げる。アルテの事を見て半目になったが、何かを思いついたのか俺と同じく小柄な体で軽々と身長と同じ程度の丸太を持ち上げて魚を見せびらかす楽天エルフに近づいていく。


「お休みは終わりね。さて、資材が揃ったし……簡単に整えましょうか!」


 そして池に突き刺した!


 突然の凶行に空色の目を見開いて驚くアルテへとニヤリと笑って告げる。


 「釣りも良いけど、桟橋はいかが?」

 「むむむ! あったほうがイイネ! 僕がやるよ!」


 提案に頷いたアルテも両腕で丸太を持ち池に突き刺し始めた。一本の長い棒を使い直列になる様に突き刺している。


 今度は俺とリンゴのすり身をフォークですくっているおねえちゃんに顔を向けたローズは、長めの丸太を抱えて誘ってくる。


「モンスターが入り込めないように隙間を埋めてしまいましょう? 特にチェルシーにはが有るわ」

「わかったよローズぅ!」

「了解だ!」


 俺とおねえちゃんも丸太を抱えて隙間を探すローズについて行く。


 道すがらローズは崖の時にわかった事を簡単に教えてくれた。


「もしかしたら私の制作物はスキルで強化されてるのかもしれないわ」

「それはまた開拓に役立ちそうだな」


 効果がどうとか言っていたのはそれが理由なのか!


 前からローズには魔道具のチャージや作戦の立案と頼っていたが、ついに道具まで作り始めるとなると頼もしい。

 うんうん唸って考えていたおねえちゃんは絵本の中に出てきた存在の事をローズに重ねたみたい。


「絵本に出てきた錬金術師みたいだね~!」

「そうね! そんな風に名乗ってみるのも良いかもしれないわ」


 絵本に出てくる錬金術師は色々なものを作っては皆に分け与えてくれる人で、錬金術師の出てくるお話は子供に読み聞かせる物語の定番だ。


 そんな存在にそっくりな力があったらしいローズに、おねえちゃんのキラキラとした視線が向けられていてちょっと嫉妬する。羨ましいぞ。


 そんな話をしていたら岩の隙間まで到着した。


 切り替える様にローズが表情を引き締めると、おねえちゃんにを伝える。


「チェルシーには岩の外側を切り裂いて空堀にしてもらうわ。まずはそこを直線にお願い」

「いいよ~! よいしょ!」


 そのお願いに快く頷いたおねえちゃんは、蒼い剣を引き抜いて振り上げ輝かせた。


 斬撃の激流が振り下ろされる!


 ローズの指示通り地面に深い溝を切り裂いた直線は一メトルほどの深さと幅で地中に埋没していた岩もお構いなしに切り裂いている。


 俺も眺めているだけでは手持無沙汰なので、ナイフで削り尖らせた丸太を岩の隙間の地面に別の丸太で叩く事で突き刺す。


 そんな作業を繰り返していると拠点予定地の周辺は自然を用いた砦のような姿になり、簡単には入り込めない状態に出来た!


 外回りはある程度固めたから次は内側だ。


 まずは池に桟橋を作っているアルテの様子を見に行く。

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