第15話 【新米迷宮】困惑の姉

 石造りの通路では岩が規則正しく一列となり不自然な並び方をしている。


 立ち止まったおねえちゃんがそれを見つめて首を傾けた。


 俺も一緒になってその一列になった岩の様子を眺める。じっと見つめていると時々ピクリと動いたりするこの岩は、ダンジョン前でおねえちゃんに切り刻まれた奴と同じモンスター……だと思われる。


「クロ、これってさっきのモンスターだよね~?」

「そうだよ、おねえちゃん。きっと人が来たことの無いダンジョンなんだね」

「そうなんだ~!」


 ダンジョンは経験を積めば積むほど厄介になっていくが、逆に誰も人が入った事のないダンジョンは色々と雑なのだ。


 このモンスターも綺麗に整列したままで擬態をしている。


 にっこり笑いながら素早く近づいたおねえちゃんは、不意打ちしてきた岩モンスターの腕を抜き打ちの剣で切り払うと、がら空きの腹を抉り潰した。


 おねえちゃんは整列している岩を次々と斬り潰していく!


 その場にいたモンスターの群れは何の抵抗をする事も出来ずに消えていき魔石っぽい黒色の石が残された。


「おねえちゃん、凄いよ……!」

 □素晴らしい! 装甲を抜く剣なのか?□


 俺と一緒にタートルもおねえちゃんを称賛している。中々分かっている奴だな!


「おねえちゃんの斬撃には【徹甲】が乗ってるんだよ」

 □なるほどな。例のスキルか□


 【徹甲】を使うには「徹れ」と発動句を唱えながら剣の背で叩く必要がある。


 だけど、おねえちゃんのスキルであるウェポンマスターは、本当は発動句や動作を必要とする能動スキルを好きに使うことが出来るのだ。前に見せてもらった時は弓スキルを投げナイフで発動していた。


 どこまで出来るのか謎な効果対象と効果範囲の広すぎるスキルだ。


 岩相手には【徹甲】が大活躍だし俺が倒すとレアドロップが出て魔石が出なくなってしまうから、俺の仕事は昔の様におねえちゃんの荷物持ち。


 落ちている石を拾い集めては袋に詰め込むのだ。


 勢いに乗ったおねえちゃんはずんずん突き進んでいく。


「いいねぇ! 僕も少しは働こうかな!」


 その様子を見てアルテもやる気になったみたいで、突き進むおねえちゃんと一緒になって薄暗い通路を腕を振り振り進んでいくと、新しく見つけた岩が何かをする前に持ち上げてしまい他の岩へ投げつけた!?


 勢いよくぶつかった岩はどちらも砕け散り、消えて黒い石だけが残された。


 雑魚モンスターでは二人の進軍を全く止めることが出来ない。

 

 その後をジャラジャラと魔石入りの袋を手に持った俺と、銀の球状態で転がるタートルが追いかける。


 #####


 道中の雑魚モンスターをおねえちゃんとアルテがどんどん打ち倒していくと、ついには関門である中ボス部屋の扉までやってきた。


 中ボス部屋では雑魚モンスターではなく精鋭モンスターが待ち構えているはずだ。


 ローズの話だと外みたいな開放型ダンジョン以外はこういった場所が同じように用意されている為、ダンジョンの源流は全部同じと考えられているらしい。


「もっと集めるよ~!」

「ええ!?」


 おねえちゃんがやる気満々で扉を押し開けていく。


 もっと集めると言っても袋はもう一杯だよおねえちゃん!


 パンパンになった袋を中身を零さないように両手で抱え、扉の先へ進むおねえちゃんについて行く。


 部屋には両足を両手で抱えて縮こまっているかなり大きな岩のモンスターが居て。


 侵入者な俺達が入った事に気が付いたのか、勢いをつけて立ち上がり両手を斜め上に挙げるポーズを見せつけてきた。


 そんな恰好を付けている岩人形にハズレドロップの石を持ったおねえちゃんと、何やら楽し気に石を持っているアルテが飛び込んでいく。


 袋を両手で持っている俺と帰り道の案内役である銀玉タートルは観戦だ。


 岩人形は飛び込んできた二人へ両手を振り上げて叩きつけてくる。


 大きな岩の体の割には中々に素早い攻撃だったが、岩相手に慣れてきた二人はすれすれで回避するとそれぞれが地面に叩きつけられた手に飛び乗った。


 そのまま二人は腕を駆けあがり岩人形の頭をこぶし大の石で強烈に叩きつける。


 二人の同時攻撃に一撃で頭が砕け散り、岩人形は仰向けになって消えていく。後には大きめな魔石が残された。


 転がっている魔石を嬉しそうに拾い上げたおねえちゃんは、振り返り微笑んだ。


 ゴロゴロと近づいてきた銀玉タートルが規模の大きいことを俺達に告げてくる。


 □いい狩場だな。ここへの道を作ろうか。協力を要請したい□

「何をすればいいの~?」

 □ここまでのルート上の砂丘を数カ所ほど散らして欲しい□

「良いよ~。ごちそうを楽しみにしてるよ~!」


 美味しいご飯が食べられそうなことを確信して上機嫌なおねえちゃんは、早速ダンジョンの出口に向かって走り出した。


 ぐんぐん遠くなるその背中を魔石を落とさないようにしながら追いかけていく。


 道中で擬態している岩モンスターを見かけたが横を通っても反応してこないのでそのまま通り抜け、通せんぼしている岩モンスターはアルテが石で打ち砕いたり、おねえちゃんが剣で一刀両断にしたりしている。


 そんなこんなで人に慣れていないダンジョンから出てきた俺達は、今度はタートルの先導で薄紺色の砂漠を行く。


 □この砂丘を散らして欲しい□


 しばらく砂漠の道を歩いた後、砂丘の前で止まったタートルがお願いしてきた。

 その頼みに応じて、おねえちゃんは蒼い剣を抜き放つ。


 近くで見る夜の砂丘は、まるで暗幕の様に暗く月の光を遮っている。


 振り上げられた蒼い剣は光り輝いて、振り下ろしと共に斬撃が放たれた。


 斬撃の激流が振り下ろされる!


 紺色の暗幕が斬撃の流れに切り裂かれると、遮られていた月光に照らされて一気に周辺が明るくなる。結構近くにタートルの頭が見えるので、かなりのショートカットだ。


 タートルの口から次々と銀玉が転がってくる。彼らが道を作るのだろうか?


「ごちそうが食べられるね~!」

「……そうだね! おねえちゃん」


 おねえちゃんは俺が持っている山盛り魔石の袋を見て大変喜んでいる。確かにこれだけあれば色々とサービスしてもらえそうだ。金貨にしたら何枚分かな。


 妨害を受けたせいで色々と問題は山積みだけど、おねえちゃんと一緒なら何とかなるに違いない。


 何やら集団で道を固めながらダンジョンへ進んでいく銀の玉集団とすれ違いつつ、タートルの口へ歩いて行く。

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