第14話 【嗅覚探索】閃きの姉
むくりと顔を上げたおねえちゃんは何かを思いついたように笑うと腰に下げている袋へ手を突っ込んで何かを探している。
ようやく何かを見つけたのか引き出された手には魔石、魔力を秘めた石が握られていた。
「魔力があればいいんだよね~? 交換できるかな?」
「おねえちゃん、魔石は結構高級だよ?」
魔石は魔道具のチャージに使えるドロップ品なので高価だ。おねえちゃんが引っ張り出したのは、ローズから魔導鎧の予備魔力として渡されている魔石である。
高価と言ってもここは砂漠の真ん中なので買ってくれる人は誰も居ないのだが。
金貨をそのまま食べるようなおねえちゃんの思い付きを聞いていると、ローズと話をしている以外の銀の像が近づいてきた。
□魔力は有れば有るほどありがたい。そのアイデアを採用させてもらおう□
「交換してくれるの~?」
ローズと話しながらこちらの話も聞いていたらしいタートルは、おねえちゃんの思いついたことに前向きらしい。
□その通り。セーフモードにも限度があるので、こちらとしても助かる□
「頑張るよ~!」
タートルの色よい返事を聞いたおねえちゃんは両手を振り上げて復活すると、ヘルメットに押しつぶされた変顔イノシシの口の中で満面の笑みを浮かべている。
銀の像はタートルの声を届けるだけの存在だと思っていたけど、どうやらそれぞれで話も聞けるみたいだ。
「これと同じ匂いを探せば見つかるよね~」
「魔石に匂いがあるのかな?」
魔石の匂いを念入りに嗅ぐと、おねえちゃんは頷いた。
「わかるよ~! クロ、行ってみよ~!」
「ドロップしてたのかな? わかったよ、おねえちゃん」
□非常用出口は外に繋げてある。迷子になると困るので私も同行しよう□
盗まれた物も気になるけど、今は目の前のことをやっていこう。タートルも案内を引き受けてくれるみたいなので外に出発だ。
歩き出した俺達の前に上からアルテが飛び出してきた!
「面白そうな事をしているね! 僕も仲間に入れて!」
「アルテも来る~?」
現役のドラゴンキラーがガルト王国精鋭の前で手を貸しすぎると良くないらしく、アルテには後詰めとして亀の中で待機してもらっていたのだ。
ローズが言うには政治らしいんだけど、今一つ良くわからない。
近所付き合いみたいな奴かな?
アルテの降りてきた木を見るとちょっとしたツリーハウスのような物になっていて、部屋は与えられていたのによっぽど暇だったらしい。
銀の球に変形して転がるタートルについて行こうとすると、その事に気が付いたローズが話を中断して何かを投げてくる。
「外に行くなら忘れ物よ! 夜の砂漠は寒いからね」
投げられたのを受け取ると俺のマントだ。
おねえちゃんとアルテの二人は元々ドラゴン装備を着たままなので、危うく俺だけ寒い思いをするところだった。
ローズはあの緊急時に目ざとく拾ってきてくれたらしい。
「ありがとうローズ」
「忘れている様だったからね。朗報を期待するわ」
ローズの激励を受け、かなり先に行っている二人と銀の球を追いかける。
#####
夜の砂漠は月の光を反射して薄い紺色に見える不思議な場所で、昼とは違って空気が冷えているのか地平線に見える夜空との境界はくっきりしている。
振り返れば大口を開けたタートルの頭だけが砂漠の中から飛び出していて、喉の奥から伸びる照明の赤い光が俺達の背中を照らしていた。
外に出てからじっくりと周囲の匂いを嗅いでいたおねえちゃんは、何かに気が付いたらしく慣れない砂地にちょっと手こずりながらも走り出す。
すぐに慣れたらしいおねえちゃんは、器用に魔導鎧のスラスターを使うことで砂煙を上げて駆け出した!
「おねえちゃん!?」
「わはは! 置いて行かれないように急ごうか!」
俺とアルテは顔を見合わせると、銀の球と一緒に砂がかからない様に大きく迂回しながら後を追っていく。
永遠と続く薄紺の青い砂地を駆け抜けて切り取られた暗い影の様な砂丘を飛び越え、岩場を横切って進んだ先でおねえちゃんは立ち止まった。
何故か腰から蒼い剣を引き抜いて振り上げると何もない場所目掛けて振り下ろす。
砂丘の影にあった岩場は周囲の砂地ごと切り刻まれた。
そこには見慣れたダンジョンの入り口がある!?
擬態していたらしい岩に手足の付いたようなモンスターが、変わり果てた姿になって消えていく。
後には石ころが残されていて、おねえちゃんがそれを拾う。
「この匂いは魔石だよぉ。ダンジョンもあったね~」
「ダンジョン……?」
「ダンジョンの中にダンジョン! 面白いね!」
ダンジョンは好きな場所へに移動する特性があるけれど、まさかダンジョン内に移動しているなんて思いもしなかった。
思えば森のダンジョンに来たときも一度発見したきりだったけれど小鬼が居たりして、あの小鬼もダンジョン内のダンジョンから出てきたヤツだったのだろうか?
そう考えると意外とこういったダンジョンも多いのかもしれない。
そんなことを考えているとアルテに肩を叩かれた。
「急げ! もう先に行っちゃってるぞ!」
「おねえちゃん!?」
「クロ~、こっちだよ~!」
俺が声を上げるとおねえちゃんが薄暗いダンジョンの前で振り返り、手を振って俺のことを呼んでいる。
おねえちゃんが突き進むダンジョンの中へ俺も駆け出した。
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