第26話 【爆撃令嬢】空襲の姉
地下空間の崩落から逃れる為、俺たちは出口への階段を駆け上っている。
ようやく外への光が見えたと思ったら、くぐもった衝撃音と共に土砂が降り注ぎ出口を塞いでしまった。
でも大丈夫だ。
「いっくよ〜! そぉれっ!」
おねえちゃんの抜いた蒼い剣が光輝き、出口を塞いでいた瓦礫を吹き飛ばす。
強引に切り裂いた出口から見えたのは、変わり果てた魔物都市の姿だった。
雑多な建物で埋められていた都市は炎上しており、都市外周を囲む都市壁も一部か崩れ落ちている。
炎上し崩れ落ちる様子はまるで攻め落とされる寸前の都市だ!
「ちょっとクロ、あれが見える?」
「あれか……。? 人?」
ローズが指差した先の青空に、ポツンと黒点が見える。
黒点は段々と大きくなり、人の形に見えてきたぞ。
魔導鎧を着ているわけでも無いのに人が空を飛んでいる……!
「ローズ! 私が貴女を悪の道から、引き戻して差し上げますわ!」
一気に近づいて空中で静止した影は、空飛ぶお嬢様だ!?
豪華なドレスをはためかせながら青い髪を振り乱し、ワケのわからない事を言っている。
「ローズぅ。知り合いなの〜? 悪いことはあんまりしちゃ駄目だよ~」
「残念ながら、ね。思い込みの激しい子だったけど。さて、どの件かしら?」
それを聞いたおねえちゃんが口元に手を当ててコショコショと尋ねると、ローズは空飛ぶお嬢様を見上げながら赤い目を細めた。
思い当たる事があるの!?
反応がないことに痺れを切らしたのか、空飛ぶお嬢様は杖を向けてきて――
「倒してでも貴女を止めてみせますわ!
「遠距離攻撃が来るわ! 杖の直線上から退避!」
ローズの指示でとっさに散開すると、杖先から飛び出した無数の白い光弾が俺達の出てきた建物の残骸に次々と着弾して爆発。
一瞬で建物の残骸をガレキの山に変えた。
ものすごい威力だ!?
「
物陰に隠れた俺たちをいぶり出すためか、空を飛び回りながら光弾を乱射するお嬢様。
店は吹き飛び、石畳の道は砕け散り、地下施設が崩落したのか一部の地面が建物ごと沈んで、長期間かけて作られたであろう魔物都市はたった一人の魔法使いによって崩壊していく。
ローズと一緒に物陰から物陰へ隠れながら、空飛ぶお嬢様を観察する。
「何とかならないのか?」
「あの子、シャルロットは何度も命がけでレベルを上げた魔法使いだから、魔力量がとんでもないの。機械槍程度だと、常時展開しているマジックバリアーが抜けない」
「好き放題暴れる魔法使いは、そんなに厄介なのか……」
魔法使いの才能、魔力を持つ者がレベルを上げるのは、かなりリスクが高い。
リスクが高い理由は魔力持ちがレベルアップした時、極端に魔力量が増えて魔力制御の限界を超えてしまうからだ。
魔力制御の限界を超えてしまった魔力は暴走を起こして体を害する。俺が話に聞いた所によると……体が破裂するらしい。
レベルを上げが命がけな魔法使いは、基本的に後方で魔道具を作成するのが仕事のはずなんだけど……。
「ローズ。あのお嬢様、妙に戦い慣れてないか?」
「シャルロットは海外から留学してきた戦闘貴族よ。レベルアップを回避しながら戦う方法を習得しているわ。要するに魔法対人戦闘の専門家ね」
お嬢様は油断なく飛び回り、時々仕掛けているおねえちゃんの斬撃流やアルテの誘導矢を余裕持って回避している。
「なるほど、使ってる魔法が都市を一気に破壊しているのは、そういう訳か」
「この膠着状態はチェルシーとアルテが手加減しているのもあるわ。私の知り合いだから、出来るだけ傷つけないようにしているみたい」
魔法使いはリスクが高すぎるので、レベルを上げているとしても一部の例外人物を除き低レベル。その分戦士と比べて肉体強度が低いから、下手に攻撃を直撃させると致命傷になってしまうのか。
何とか捕まえる方法は無いのか……。
「ちょっと! クロ!?」
「はもっ!?」
少し物陰で考え込んでいたら、いつの間にか俺は柔らかいモノに包まれていた。
なんだ!?
「おーっほっほ! 捕まえましたわ!」
「もがが!?」
俺の足はいつの間にか地面から離れ、魔導鎧で飛んでいるときの感覚を味わっている。更には背中に手を回され、謎の弾力に顔を押しつけられていて微妙に息苦しい。
これがマジックバリアーという奴なのか?
「んふふ、ちょっと! 息がくすぐったいですわ! よいしょと」
「ぷは! なんてこった……」
俺の顔を腹に抱えていたらしく半笑いのお嬢様が、背中に回していた手で俺の服をつかみ、宙づりにしたのでようやく周囲を確認出来た。
確認は出来たけど、既に俺の現在地は空の上。
しかも魔物都市の全域が俯瞰出来るから、かなりの高度だ。
高レベル戦士になった俺だけど、この高さから落ちて無事でいられる自信は無い。
困ったぞ。捕まえる方法を考えていたら捕まってしまった!?
お嬢様を追尾するアルテの誘導矢が困ったように回転していたけど、諦めたようにアルテの元へ帰って行った。俺も連れて行ってほしい。
命綱はお嬢様の腕一本、俺は心許ない命綱にぷらぷらと揺れている。
「ふふん。これでローズの事情を落ち着いて聞くことが出来そうですわ」
「俺は落ち着かないんだが」
「開拓を許可されたローズと共に居るなら、高レベル戦士でしょう? 高レベル戦士に落ち着かれるのは、大変に困りますわ」
どうやら俺たちについてある程度推測されているみたいで、油断はしてくれなさそうだ。会話で何とか解決するしかない。
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