第二章 焦燥
第1話 捜査
『○○公園にて刺殺体が発見。被害者は宮下輝彦』
「え? 山本さん、今のは……」
「坂本警部、そういうことなんでしょうね。まずは現場に行きましょう」
一報を聞いて、坂本が山本に確認すると、山本がそれを肯定する。
現場に向かう車中で坂本が山本に質問する。
「これって、やっぱり関連しているんでしょうか?」
「坂本警部、思い込みは危険です。ですが、無視は出来ませんね。頭の片隅にでも置いておく程度にしといた方がいいでしょう」
「そうですね、分かりました。でも、どうしても拭えないんですよね。でも、今回はハッキリと刺殺と分かる状況で、側に被疑者らしき人物もいないのでは、早期解決という訳にもいかないでしょうね」
「ええ、ですが……被疑者があがるでしょうか」
「どういうことです?」
坂本が自分なりの考えを話した後に山本が零す。
山本が言うには、まず凶器を特定出来るかもしれないが、発見は困難だろうと言うと坂本も納得する。それに宮下が殺される動機も不明なままだろうと。
「動機ですか」
「ええ、今までの宮下の周囲で宮下に殺意を持つような者が見つかるでしょうか」
「それは捜査次第ではないでしょうか」
「はい。そうなんですが、これらのことを理由にお蔵入りする可能性もあるんじゃないかと思うんです」
「つまり、
「はい。これまでのことを鑑みると十分に考えられるんじゃないかと私は思っています」
山本の話を聞いて坂本は『あれ?』と思う。
「山本さん、今回のは今までの事は一旦、置いて考えると言ってましたよね?」
「あ……そうでした。ダメですね私としたことが、どうしても流れで考えてしまいます」
「山本さん、いっそ自分達は、その線を追いかけてみませんか?」
「つまり、別行動を取るってことですか」
「はい。もう私も宮下に関しては、田中との関連を疑わないってのは無理なので。それにホンボシなら他の人が捜査してくれるでしょうから」
山本の口から『ホンボシ』と出るが、本来の意味ではないのだろうことは坂本にも分かる。多分だが、裏で操作しているであろう人物が用意する犯人のことだろうと。
「はぁ……まあ、私達二人だけなら、許可されるかも知れませんが、まずは捜査方針が固まるまでは大人しくしてましょうか」
「分かりました。それで、現場はどこなんですか?」
「新宿です」
「え? そこって……」
「はい、いわゆるハッテン場ですね」
「そうなると、宮下は……」
「それは分かりません。調べるしかないでしょう。あ、着きましたね」
車を止め、現場である新宿の公園に入る。
「あそこが現場でしょうね」
山本が指差す方向を見ると、既に死体は移送された後のようで、数人の鑑識と刑事で周辺を探している。
「さて、私達も参加しますか」
「はい」
山本達も凶器、または殺人の証拠となる物を探すために腰を屈めて捜索に参加する。
「はぁ~何も出ませんね」
「まあ、分かってはいたつもりですがね。本当に何も出ないとは……少し凹みますね」
昼も過ぎ、午後三時を回った所で、撤収となったところで愚痴った坂本に対し山本も愚痴ってみる。
所で捜査本部が立ち上げられたと聞いた二人は、とりあえずはとその本部へ向かう。
十七時から捜査会議が開かれると聞き、その間に遅い昼食を済ませる。
「まだ時間が早いですが、行きますか」
山本に言われ、坂本も残りを急いで食べ終わると本部である会議室へと向かう。
「ここですね」
所轄警察署の会議室へと入ると、すでに判明している被害者の名前や状況などがホワイトボードに書かれていた。
坂本が自分の手帳に書かれている宮下の情報と照らし合わせて、その内容を確認する。
「自分達の集めた情報と対して変わりはありませんね。それに目新しい情報もありません」
「宮下の発見されたのは早朝でしたね。なら、あの公園にいたのは何時頃からなんでしょうね」
「それはどういうことですか?」
「坂本警部も気付いていたでしょ。あそこはいわゆる……」
「でしたね。そんなところにあんなオジサンがいたら……目立ちますよね」
「そういうことです。そう、考えると人が多い夕方以降ってのは考えづらいですよね。そうなるとパートナー探しの人がいる時間帯も難しいでしょうね」
「ってことはですよ。そのパートナー探しの人達がいなくなる時間帯ですか」
「ええ、午前二時以降ってところでしょうか」
「はぁ……で、山本さんはなんでそんなことを?」
「まあ、色んな知り合いがいるとだけ、言っておきましょう」
「色んな……ですか……」
「ええ、色んな……です」
二人がホワイトボードの前で好き勝手な意見を言っている内に捜査会議が始まる時間となり、続々と人が集まってくる。
ある程度の席が埋まると、ホワイトボードの前に設置された長机の前に幹部と思われる人物が座っていく。
所轄の署長、捜査一課課長、警視庁から管理官、捜査一課主任が並ぶ。
「これから捜査会議を始める。まずは被害者の情報から」
「はい、被害者は宮下輝彦。性別は男性、年齢は……」
「次に死因を」
「はい、死因は左胸を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死で、凶器は周辺を捜索しましたが、まだ見つかっておりません」
「次に殺された要因は? 怨恨、強盗、行きずり、何か分かったことはないか?」
「はい、宮下の弁護士事務所、及び関連企業、親族に対し現在、調査を行っております。また、検事時代の事件に関しても、担当事件の容疑者等を中心に怨恨がないか捜査中です」
「ふむ。現時点では何も分かっていない。そう言うことですね」
「はい。申し訳ありません」
説明を聞いていた管理官と思われるまだ若い男が面白くないと言った感じで呟くと、横に座っていた捜査一課の主任が謝罪する。
「なんですか。あの偉そうなのは」
「同じキャリアじゃないですか。仲良くしておいた方がよいのでは」
「冗談じゃないです。あんなのと一緒にしないで下さいよ」
「では、現時点での成果は無しと言うことですが、一刻でも早い犯人逮捕を期待している。解散」
「「「はい!」」」
ガタガタと一斉に席を立ち刑事達が会議室を出て行く。
残った山本と坂本に気付いた捜査一課主任が近付いてくる。
「お前達、確か宮下を探っていたよな」
「ええ、少し気になることがありましたので」
「そうか。それで、今回の件で何か繋がりはあるのか?」
捜査一課主任にそう言われ、山本と坂本は目を合わせる。
「いえ、それはまだ何も掴めていません。ですが、捜査を認めてくれるのであれば、何か掴める自信はあります」
「はい、必ず探してみせます」
坂本の勢いに捜査一課主任が一瞬たじろぐが、すぐに気を取り直し、二人に向かって「なら、しばらく好きに動いてみろ」と話す。
「え、いいんですか?」
「ああ、お前も聞いてて分かったろ? 今は何も分かっていない状況だ。それにお前達が嗅ぎ回っていたのが原因で起きたかもしれん。そうなるとだ。一番近い場所に居るのはお前達なんじゃないかと思ってな。これも俺の刑事としての勘だ。とりあえずは好きにやってみろ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ああ、後、『報連相』も忘れずにな」
「「はい」」
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