第三章 確信

第1話 捜索

 捜査一課主任に監視カメラの『抜け』を指摘した後、捜査本部を出てから山本と坂本は車に乗る。

「さて、一応の動機は掴めましたが肝心の証拠が掴めません。どうしましょうか」

「どうしましょうって、調べるしかないんですよね」

「まあ、そうなりますよね。じゃあ、目撃証言から固めましょうか」

「そうなると思って、経歴は手に入れてありますよ。はい」

「随分と手際がいいですね」

 坂本から渡された用紙に目を通し目的とする人物の経歴を一瞥する。

「じゃあ、最初は学校に行きましょう」

 山本がエンジンを掛け、車を走らせると坂本がカーナビを操作して目的の大学を行き先に設定する。

「これで行き先はバッチリですね。じゃあ、道案内はカーナビに任せて私が気になっていることを聞いて下さい」

 山本が前を見たまま頷くのを確認した坂本が待ちきれないとばかりに話し出す。

「私ね、山本さんが言ってたことが気になって、ちょっと調べてみたんです」

「私が? 何を言いましたっけ?」

 坂本は、前に山本が気になることを言ったと言うが、当の本人はそれが何か見当も付かない。

 すると坂本が「ママさんの事故死のことです」と言う。

「まさか……」

「そのまさかですよ。事件自体はよくあるひき逃げ事故として処理されていました。事故に使った車は放置され、犯人はまだ捕まっていません」

「それだけなら関連性を疑うのは難しいんじゃないでしょうか?」

「私もそれだけなら、何もいいませんよ。でもですよ、犯行に使われた車があのツキメ名義ならどう思います?」

 坂本からツキメの名前を出され、山本が一瞬動揺し車が蛇行する。

「ちょっと、ちゃんとハンドルを握ってて下さいよ」

「す、すみません。それで本当なんですか?」

「本当ですよ。ちゃんと調べましたから」

「いえ、別に疑っている訳ではないのですが、どうして今頃……」

「確かになんで今頃……ですよね。言いたくはないですが、殺される方にも何かしらの原因があったと言うことでしょうか」

 それからは互いに無言のまま目的地の大学まで車を走らせる。


「ここか……」

「ええ、ここですね」

 車をゆっくり大学校内へと進み入れると来客用駐車場の空いている所へ車を停め二人が降りる。

「まずは卒業生の確認ですね」

 構内へ入り受付で警察手帳を見せてから卒業生のことを確認したいとお願いすると、しばらく待たされた後に事務室へと案内される。

「こちらが言われた年の卒業名簿になります」

 そう言って二人の前のテーブルに目的とする人物の卒業名簿が置かれる。

「ありがとうございます」

「拝見します」

 事務員に礼を言うと早速とばかりに坂本が率先して卒業名簿に目を通す。

「え~と、あ! これですね」

 目的の人物の名前を見付けると学科と在籍していたゼミの名前、担当教授をメモに書き写していく。

「ちょっと厄介ですね。これだと当時の年齢は未成年ですよ。こうなると数え役満になりそうですよ」

「でも、未成年同士なら一つは減るんじゃないですか」

「あ、確かに」

 事務員を呼んで卒業名簿の礼を言うと、所属ゼミの教授の所在を確認してから、その教授の下へと向かう。


 教授室のドアを山本が三度ノックするとドアの向こうから「どうぞ」と声を掛けられる。

「失礼します」

 そう言って山本がドアを開けると書類に埋もれた机の奧から「適当に座って下さい」と声を掛けられたので、言葉通りにと部屋の中央に置かれた応接セットのソファに腰掛ける。


 数分経ち教授が椅子から立ち上がると山本達が座るソファの正面へ座る。

「お待たせしました。何か卒業生のことで聞きたいことがあるとお聞きしていますが」

「ええ、実は教授のゼミに在籍していたこの学生のことでいくつかお聞かせ下さい」

「ふむ。この学生のことなら、多少は覚えていますよ。でも特に変なことはしていなかったと思いますよ」

「そうですか。では、当時の写真か何かあれば拝見したいのですが」

「写真ですか。写真ね~」

 教授が立ち上がり書棚を指でなぞりながら目的のアルバムを探していると「あ、これですね」と指を止め、一冊のアルバムを抜き取るとそれを手にソファに戻ると「どうぞ」と山本達に差し出す。

「拝見します」

 そう言って山本がアルバムを開くとそこにはまだ、二十歳そこそこの学生が思い思いのポーズで写真に写っている。

「あなた方が言われているのは、この学生ですね」

 教授が一枚の写真に映っている若い男子学生を指す。そして、その写真にはその男の特徴がしっかりと映っていた。

「すみませんが、この写真をお借り出来ませんか?」

「いいですよ。どうぞ」

 教授に礼を言うと坂本がアルバムから写真を丁寧に剥がしてから、一応念の為とスマホでもその写真を撮る。


「ご用件はそれだけですか?」

 山本が教授に礼を言ってアルバムを返すと教授から他に用がないかと聞かれたので坂本を見てから互いに頷くとソファから立ち上がり、もう一度礼を言ってから教授室から退室する。


 駐車場へと戻り、車に乗り込むと山本がシートベルトを締めながら坂本に言う。

「では、これから草薙さんの家に向かって写真を見てもらうとしますか」

「え? 別に行かなくてもいいでしょ」

「そういう訳には行きません。ちゃんと写真を見て確認してもらわないと」

「あ、それなら済みました。昔見た若者で間違いないようです」

「ん? どういうことですか?」

 山本はエンジンを掛けようとした手を止め、坂本に問い返す。

「まあ、ちゃんと確認する必要はあると思いますが、さっきSNSで写真を草薙さんへ送って確認してもらいましたから」

「ああ、そういうことですか。ですが、捜査資料をそう簡単に……」

「事後報告で申し訳ないと思いましたが、この方が早いので。すみません」

 山本は嘆息してからエンジンを掛け、車を駐車場から出すと次の目的地を坂本に設定してもらう。

「なるほど、この写真で真犯人の目星は付いたから、こんどは動機の裏付けですね」

「ええ、そう言うことです」

「でも、ちょっと遠くないですか?」

「そうですね。じゃ、到着まで臨時の捜査会議といきますか」

「それもいいですけど、その前に腹が減りました」

 坂本の返事に山本が笑いながら応える。

「では、道路沿いにあるファミレスか何かで済ませましょう」

「この辺だと何がありますかね」


 最初に見付けたファミレスに入り昼食を済ませると、次の目的地である隣県の大学へと急ぐ。

「今日中に帰れそうですか?」

「普通に飛ばして夜中でしょうね」

「ですよね」

 隣県との県境を示す道路標識を見た坂本が呟いたのに山本が返事をする。


 時間は午後三時を過ぎた頃で、目的地まではあと少しだ。


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