第六章 告発
第1話 許可
両手を後ろ手にして頑なに手錠を嵌めさせないようにしている千原管理官に向かい山本は「往生際が悪いんですね」と揶揄うように言う。
その言葉に千原管理官は更に顔を赤くするが、ここまで証拠を出されてしまえば反論する余地もないだろうと山本達は思っている。
だが、千原管理官の目はまだここからの逆転を狙っているようにも見えた。そこで山本は〆とばかりに千原管理官の父親でもある代議士が復活することを疑っていないのだろうと思い、千原管理官に対し「無駄ですよ」と告げる。
「何がだ! 私はまだ終わっていない。パ……父も疑いがあると言うだけで立件された訳じゃない! すぐに私を救い出してくれるハズに違いない。そうなれば、お前らはお終いだな。ふははは」
「まだ笑えるなんて凄いですね」
「ふん、言ってろ。もうすぐここの電話が鳴って私は解放されるだろう。ああ、そうだ。そうに違いない」
「……えっと、大丈夫ですか」
これだけの証拠を積まれてもまだ強気でいられると、山本達の方が実は間違えているのかと思えてしまう。だが、坂本はそんな強気な千原管理官に大丈夫なのかと声を掛ける。
「何がだ。私の正気を疑っているのか?」
「はい。だって自分の保身の為に四人も殺しといてまだ父親が助けてくれるなんて夢をみているんですからね。そりゃ、正気を疑うってもんでしょ。もしかして、精神鑑定での情状酌量とか狙っているんですか?」
「お前!」
「坂本警部、その辺で」
「そうだな。これ以上の自白が難しいのなら、正式に逮捕状を取ってからの取調室にご案内する方がいいのかもな。もう、用意はしているんだろ」
「ええ。ですが……」
坂本は山本に窘められ、捜査一課主任が正式に手続きを済ませてからにしようかと言えば、山本の歯切れが悪くなる。すると千原管理官が勝ち誇ったように無理だろうと言う。
「ふふふ、逮捕状は請求出来ても判事が許可を出す訳がない」
「あ、その辺は大丈夫です。私共も千原管理官と関わりの深い方にお願いするようなことはしませんから。まあ、その方も……ねえ」
「おい、まさか……」
「だって、一人じゃ淋しいでしょ」
「おい、どういう意味だ?」
山本の歯切れが悪かったのは単に逮捕状の許可をくれそうな判事を探すのが苦労しそうだということだった。そして、千原管理官が仲間がいるからと安心していたが、そのお仲間も一緒にと考えていることを話す。そして、これから過ごす刑務所の中でのアドバイスなども山本は話し始める。
「実刑を受けた後は警察関係者や法務関係者は中の受刑者達に人気だそうですよ。それこそ色んな肉体接触があるらしいですよ。ですが千原管理官一人じゃ無理でもお仲間と一緒ならなんとかやっていけるんじゃないですか。まあ、同じ場所になるかは分かりませんが。それに千原管理官みたいに痩せている方は色んな意味で人気者みたいですから、よかったですね」
存外に「自分のお尻を守れたらいいね」と山本が千原管理官に言うと、千原管理官も知らず知らずの内に後ろ手にした自分の手でお尻を隠すような仕草をする。
「電話……鳴りませんね。どうしたんでしょうね」
「ふ、ふん! もうすぐだ。もうすぐ鳴るはずだ」
「そうですか。じゃあ、その間に主任、これお願いしていいですか」
「どら」
山本は束になった逮捕状を捜査一課主任に渡す。捜査一課主任は受け取った逮捕状の束をペラペラと捲ると「四件か。まあ、そうなるか」と呟くと席を立つ。
「ちょっと席を外すな」
「お願いします」
「ああ、俺は中身を確認して判を押すだけだから。すぐに済むよ」
山本は部屋を出る捜査一課主任を見送ると千原管理官に向き直る。
「これで逮捕状の請求が出来ますよ。お待たせしましたね」
「ま、まだだ。まだ分からん!」
「まだ、そんなこと言っているんですか。一人二人ならパパの力でなんとかなったかもしれませんが、四人は無理でしょ。いや、お腹の子や身代わりで冤罪になった人も数えれば六人だな」
「巫山戯るな!」
「え? 急にどうしたんですか」
「何もかも私が悪いのか!」
「はい?」
千原管理官が坂本の言葉に急に激昂し、言葉を荒げる。
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