第6話 追求
プロジェクターに投影された新聞記事の内容に千原管理官は蒼ざめる。
「そんな……バカな……」
「もちろん、説明してくれるんだろうな」
「ええ、いいですよ。まあ、話せば至極単純なことですけどね」
山本がそう断って話したのは、本当に単純なことだった。店の売り上げが落ちてきたことで金策に困ったクラブのママは「私にも」と千原管理官を強請ってきただけのことで、それに対しこれ以上の負担が嫌になった千原管理官がママを旅行へと誘い出し、人もまばらな観光地で犯行に及んだということだった。
「日付的には田中の前か」
「そうですね、これが切っ掛けになったんでしょうね」
「また、馬鹿なことをしたものですね」
捜査一課主任はそう言うと千原管理官を一瞥する。千原管理官は、右手親指の爪を噛みながら、「まだだ! まだ大丈夫だ。きっとパパが……」と呟き続けている。
「それで、証拠が届くってのはどういう意味だ?」
「それは、ツキメからの贈り物ですよ。あの会社もタダで使われる気はなく、こういう時の為に証拠となり得る物は残していたのでしょう。犯行に使われた車も処分せずに残していたそうですよ」
「クラブママの件は分かったが、宮下弁護士の方はどうなんだ?」
「ああ、それはですね……」
ツキメの連中から聞いた話ですがと前置きして山本が話し出す。
「単純に千原管理官を尾行していただけのことらしいです」
「何故、そのツキメの連中が尾行なんかするんだ?」
「何故って、ママを殺した時点で、またやらかすと考えたんじゃないですか。だから、ツキメの名前が悪目立ちしないように注意していたとも考えられます」
「ふむ、何かあった時には自分達は無関係とでもいうつもりなのかな」
「はい。その為に証拠も確保していたんでしょうね」
「なら、宮下弁護士の殺害に使われた凶器も?」
「ええ。尾行していたので当然、回収済みだそうですよ」
「だそうですよ管理官殿」
「くっ……」
四件の犯行に対し動機も証拠も十分過ぎるほどに揃っていると言うのに自白する様子もない千原管理官を山本はジッと見る。
「そろそろ、ご自分から話してはどうですか? まあ、四人も手を掛けたとあっては大して罪が軽くなるとは思えませんがね」
「……」
「まあ、喋る気がなくても、こちらとしては田中弁護士についてはその身を確保します」
「誰に対してそんなことを!」
「誰ってそこにいる
「坂本警部、混ぜ返さないで下さい」
「……すみません」
捜査一課主任が千原管理官に対し自白するように勧めるが、千原管理官はその口を開こうとはしない。そして、そんな態度に捜査一課主任は田中弁護士殺害の被疑者として確保すると言い、それに反応した千原管理官は憤慨するが、坂本警部が茶茶を入れる。
「まあ、戯れはこんなところでいいでしょう。では、千原管理官……手を出してもらえますか?」
「何をするんだ! 私が誰か分かっているのか!」
「ええ。投身自殺に見せ掛けた田中弁護士殺害の犯人ですよ。あなたも見ましたよね?」
「……」
「往生際が悪いんですね。仮にも警視でしょ。引き際も大事ですよ」
「五月蠅い! 私のパ……父が誰か分かって言っているのか?」
「ええ、分かっていますよ。ですが、今は失脚間近ですよね。ツキメの資金や力を親子で好き勝手に使った結果、それを面白く思わない勢力に落とされたんですよね」
「ぐ……」
「はい、分かって頂けましたか。では、手を前に出して下さい」
「……」
山本は腰に着けていた手錠を弄びながら、千原管理官に手を出すように言うが、一向に手を出さない千原管理官に対し、坂本警部がまた茶茶を入れてくる。それに対し憤慨した千原管理官が父である千原議員を引き合いに出すが、彼もまた失脚寸前の身であることを改めて説明すると、また無言になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます