第4話 物証
「監察医……それがどう関係してくるんだ?」
「それはですね……」
山本がレーザーポインターで執拗にグルグルと回していたのは監察医の項目で、そしてそれを確認した捜査一課主任は理由が分からないと言い、どう関係しているのかと不思議がるので、山本がそれを補足説明する。
山本が話したのはこの監察医が被害者女性を検死した際に手に入れた物が真犯人が関与している証拠として確かな物で、それを田中弁護士が脅迫するネタの補完材料となったのだろうということだった。
「監察医の名前は『藤森 智也』か。ん? この名前どこかで……」
「ええ。少し前に管理官が逮捕状を請求して確保しようとした人物ですね」
「管理官が……なら、もう確保されたのか?」
「それは……」
「……」
捜査一課主任が監察医の名前を確認した所で、どこかで聞いた覚えがあると言いだし、それを山本が千原管理官が逮捕状を請求してまで確保しようとしていた人物であることを説明する。ならば、その人物は既に確保済みなのかと山本に尋ねると山本は千原管理官を見ながら言い淀む。
「なんだ。まだなのか? その監察医は複数の事件に対してのキーマンなんだろう。ならば、早く確保しないとダメじゃないか」
「そう思ったのですが、何しろ当初は
「お前か!」
「どうしたんですか?」
「ぐっ……」
山本が監察医である藤森を私的に確保したことを明かしたところで千原管理官が激昂するが、それも軽くいなす。
「少し話が逸れたが、その監察医が何を持っていると言うんだ? 現場には証拠もなかったと言うのにそんなに証拠能力があるとも思えないんだが?」
「それはですね……」
捜査一課主任の疑問に対し、山本は坂本にお願いして死体検案書をプロジェクターに投影してもらう。
「今度はなんだ?」
「見て欲しいのはここです」
「ん?」
山本は死体検案書の『妊娠三ヶ月』の項目をレーザーポインターでグルグルとまた執拗に回す。
「妊娠……記者発表ではそこまで言ってなかったと思うが」
「はい。その発表はありませんでした」
「ふぅ、で、年齢が十七歳……マジか!」
「ええ。新聞発表では年齢も二十歳とありましたね」
山本はこの妊娠と十七歳という年齢でホステスとして働いていた事実を脅迫の材料としていたのだろうということと、この監察医も脅迫に加担していたらしいことを付け加える。
「ここまでの情報を隠蔽してねつ造しての警察発表となると、
「ええ。それも捜査を打ち切らせるくらいには」
捜査一課主任と山本の視線が千原管理官に集中したせいか、千原管理官は少しバツが悪そうな顔になるが、言葉を発することはない。
「だが、一つ疑問がある」
「なんでしょう?」
「いくら身内が関わっているとしてもだ。上級職の収入で二人に対し十年間も好いように強請られ続けられるとは思えない。実家がよほどの資産家とかなら話は別だろうが」
「だから、ここでアレが出て来るんですよ」
「アレ?」
「ええ。アレ……ツキメです」
「ツキメが? なんで一企業がここに絡んでくるんだ?」
「簡単ですよ。単なる一企業なんかじゃないからですよ」
「まあ、登録した住所にないペーパーカンパニーならそうだろうがな」
「それが単なるペーパーカンパニーじゃないんですよ」
「ハァ~もう勿体付けずに言えよ!」
「分かりましたよ。いいですか? このツキメはある文字のアナグラムというか、文字遊びなんですよ。いいですか、ツ・キ・メ……このままじゃ分からないと思うので、キを木、メを女として、こうやって文字を組み替えると……」
「おいおい、そりゃ……」
山本はホワイトボードにツキメの文字を書き、それぞれを変換し組み替えてある漢字一文字を書いてみせると、捜査一課主任が慌てて椅子から立ち上がる。
「ええ、もうお分かりですよね」
「お前、それは触ったらダメだろう」
「俺も最初はそう思っていたんですが、親玉がさっき下ろされたでしょ。だから、叩くなら今かと思いましたね」
「まさか……」
「いや、俺は知り合いに少しだけ情報を流して頼んだだけですよ」
「また、知り合いですか……」
捜査一課主任が驚くが、山本はそれに対しては危険性がないことを話すが捜査一課主任は訝しむ。そして、坂本は山本の言葉に嘆息する。
「いやね、『ツキメ』が『桜』と変換されたのは坂本警部のお手柄ですが、この会社と正面からことを起こすのはこちらとしてもデメリットしかないと思ったのですが、どうも探ってみると相手方もこの方々を切りたがっていたようなので、少々面倒臭い取引があったのですが、なんとか関連する情報を頂くことが出来ました」
「切りたがっていた理由ってのが気になるな」
「そりゃあれだけジャブジャブと金を使われたら、疎ましくもなるでしょう。いくら、自分の金じゃないからって言ってもですよ」
「要はトカゲの尻尾切りみたいなものか」
山本の説明に捜査一課主任は千原管理官を見ると、ここまで来て状況が飲み込めたのか千原管理官の顔は少し蒼ざめていた。
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