第3話 関連
坂本が言った名前に山本が反応する。
「宮下?」
「ええ、これです」
坂本がスマホの画面を山本に見せる。
「『弁護士 宮下輝彦』か。聞いたことはないですね。この名刺がどうしました?」
「ほら、佐藤さんがどこかからか仕事をもらっていると話してましたよね」
「そうですね。確かにそんなことを言ってましたね。もしかして、その弁護士が?」
「ええ、この事務所から仕事をもらっていたのかも知れません」
「でも、そんなことがあるんでしょうか」
「私もよくは知りませんが、提携とかあるんじゃないでしょうか。あとですね……」
坂本がスマホを操作して『弁護士 宮下輝彦』で検索した内容を表示させる。
そこには『宮下法律事務所』のHPが表示され、設立した年は八年前、経歴として検事を辞職後に弁護士として登録し法律事務所を開設したと書かれていた。
「ヤメ検か……」
「それとですね、こういうのもありました」
坂本がスマホの画面をスライドさせると、そこには『ツキメ商事株式会社』と担当の名が書かれた名刺が表示されていた。
「他は、生命保険の外交とかでしたね」
「なるほど、では田中と関係がありそうなのが、この二つということですか」
「ええ、特に企業所有のマンショとか車とかが与えられていると考えれば、この『ツキメ商事』あたりでしょうか」
「確かに……怪しいですね」
「はい。調べる価値はあるかと思います」
坂本が少しだけ鼻息も荒く山本に話しかける。
「分かりました。では、一度戻って整理しましょうか。そして宮下や商事会社についても調べてみましょう」
「はい!」
心なしか少しはしゃいでいるようにも見える坂本と一緒に本庁へと戻る。
「ちょっと、山本さん。どこに行くんですか?」
「あ、ちょっとですね。宮下って名前の検事に少しだけ思い当たることがありまして確認したいんですよ」
「そうなんですね。じゃ、急ぎましょう!」
坂本が山本の腕を取り、資料室へと急ぐ。
~資料室~
「これがそうなんですか?」
「ええ、私が警察官になったばかりの頃に立ち会った事件です。そして、これもろくな捜査も行われずに被疑者は無実を訴え続けていましたが、最後には独房で自殺しました。……あった、これです」
山本が指した箇所には被疑者の担当弁護士としての田中の名前と担当検事として宮下の名前が記載されていた。
「この二人は顔見知りだった……そういうことですか」
「ええ、恐らくこの事件を切っ掛けに知り合ったのでしょうね」
「ですが、田中は国選弁護士として、この事件に関わっていたのですよね。知り合ったと言っても担当検事と国選弁護士の立場だと顔見知り程度だと思うんですけどね……」
山本も坂本の疑問に対し頷く。
「そこなんですよ。田中もこの事件の後に事務所を設立してますし」
「宮下はこの二年後ですね。定年退職には早過ぎる年齢ですよね。確か、HPに掲載されていた年齢から逆算しても四十歳そこそこでしたし」
山本も検事という職業に関して詳しい訳ではないが、定年退職してから弁護士になったとしても遅くはないと思っている。それなのに四十前半での弁護士へと転身したことが気になり始める。
切っ掛けは田中の投身自殺が早々に決着したことだった。しかし、今は田中の投身自殺自体も疑わしい。また、十年前の事件も気になり始める。
「もしかして、始まりは……」
「どうしました?」
「いえ、こうなると田中のことも自殺なのかと……」
「確かに。あるはずのない借金に、事務員から聞いた田中の性格にマンションや車とかも含めた金の流れ……調べれば調べるほど闇の中ですよ」
「……」
「田中の周囲をもう少し調べてみましょう。まずは部屋と車の名義人ですね。車は監視カメラの映像からの車種とナンバーから割れるでしょう」
「そうですね。調べてみましょうか」
「はい!」
資料室を出ると、今度は繋がりがあると思われる『ツキメ商事』を山本は自分に宛がわれたノートPCで検索する。
PCの画面には検索結果が表示されるが、そこにはツキメ商事に関する情報は何も表示されなかった。
「当たりはナシですか」
「ええ、全くですね」
坂本がPCの前でガックリしていた山本に話しかける。
「と、なると……」
「ええ、外に行くしかないですね」
「じゃあ、お昼もついでに済ませましょうか」
「それもそうですね」
坂本の提案に山本も承諾し、外出することにした。
「まずは法務局ですね。なら、昼食もその辺りですませましょうか」
「いいですね」
山本の提案に坂本も頷き電車に乗り込む。
「山本さんは刑事になって長いんですか?」
「そうですね。かれこれ八年程度でしょうか」
「へぇ結構長いですね。どこの所轄からの引き上げなんですか?」
「いえ、私は最初からここへ配属されました」
「そうなんですね。警視庁に直で配属なんて凄いですね」
山本は坂本の言葉に少し引っかかる。そして、自分で言った八年という言葉に多少の違和感を覚える。
「どうしました?」
「あ、いえ。別に……」
坂本に様子を聞かれ慌てて返事をする山本だが、一度気になると自分でもどうしても拭えない疑問が心の奥底に澱として積もっていく。
「まさかな……」
昼食を済ませた後に法務局に出向き田中が住んでいた部屋の所有者を調べると、そこには『ツキメ商事株式会社』と記されていた。
「ビンゴですね」
坂本が嬉しそうに山本に言う。
「ええ、ですが。ここからが大変ですよ」
「どういうことですか?」
「まあ、ついでに会社の登記情報も調べましょうか」
『ツキメ商事株式会社』の登記情報を出してもらい確認した山本が坂本に住所を指差し問い掛ける。
「この住所は本物でしょうか?」
「どういうことです?」
「ほら、この住所……存在しませんよね」
「あ! 確かに。ってことは……プンプンしてきますね」
「車も同じだとは思いますが、一応確認しておきましょう」
「はい!」
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