第2話 開始
「どうですか?」
「え……あ、山本さん」
そんな軽い調子で戻って来た山本が坂本に話しかける。
坂本が自分の腕時計で時刻を確かめると、既に夕刻を過ぎていた。
「山本さん、どうですかじゃないでしょ。殆ど、何も言わずに出て行ったキリで……」
「まあまあ、とりあえず夕食を買ってきたんで食べましょう」
「もう、分かりましたよ。でも、ちゃんと話して下さいよ」
「まあ、そうですね。でも、その前に食べましょう」
「ハァ~もう、いいです」
作業中のパソコンを脇にどかして、テーブルの上にスペースを作ると山本が用意した夕食を並べ、各々で食べ始める。
「それで、盗撮画像からは何か分かりましたか?」
「それがですね、盗撮画像と思われるファイルがいっぱいあり過ぎてなんとも……」
「え? 何故です。田中の亡くなった日の前後に絞ればいいのでは?」
「それが、フォルダがグチャグチャで……日付毎に管理もされてないので……」
「ふぅ~ちょっとパソコンを貸して下さい」
「はい……」
山本がパソコンを開くと田中の亡くなった日の前後が作成日のファイルを検索する。
「え~と、引っ掛かったのが、二十くらいですか。じゃあ、亡くなった日の……ああ、これくらいかな」
「へ~そんな方法もあったんですね」
「……私より若いんですよね?」
「すみません。パソコンより、タブレットとかスマホの世代なので」
「……」
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません。あ、これでしょうかね」
山本が見ていた動画を拡大して、坂本にも確認させる。
「……落としてますね」
「そうですね。顔はイマイチ不鮮明ですが、分析に回せばなんとかなりそう……ですかね」
パソコン上では田中が何者かの手によって、部屋のベランダから落とされている様子が映されていた。
「まあ、雰囲気的にはあの人っぽいですね」
「え? 本当ですか?」
「ええ。ほら、ここを見て下さい」
山本がそう言って動画を一時停止して、落とした人物が晒している首筋の辺りを拡大させると特徴的な痣が映っていた。
「なるほど。なら、これだけでもイケるんじゃないですか?」
「そうですね。でも、これだけじゃ単なる弁護士殺害ですが、過失にされてしまうかもしれません」
「あ~親の権力ってやつですか」
「はい。なので、私の方では、その親の権力を失わせる方向で動いてみました」
「あ~それが昼間の単独行動の理由ですか」
「ええ、ちょっと秘密のお友達なので坂本さんには紹介出来ないので……すみません」
「いいですよ。山本さんの交友関係の広さには口を出す権利もありませんので」
「ありがとうございます」
「それで、その単独行動の成果はどうなんですか?」
坂本の問い掛けに山本は自分の腕時計に目をやると、「そろそろでしょうか」とスマホを取り出すと同時に着信音が鳴り出す。
山本はスマホを操作すると、スマホを耳に当てる。
「はい、山本です」
『……は、大丈夫だ。そちらでも……いい』
「分かりました。では、こちらでも作業を進めていきます」
『分かった。今後もいい情報があればお願いしたい』
「ええ。その辺はお任せ下さい。では、失礼します」
山本がスマホでの会話を終わらせると、坂本を見る。
「明日にはこの証拠映像を持って警視庁に顔を出しましょうか」
「え? いいんですか?」
「はい。上からの圧力が掛かることもありませんから」
「そうですか。ちなみにどんな手を使ったのか種明かしをする気はありますか?」
「あ~それも明日には分かりますよ」
「本当ですか?
「本当ですよ。まあ、楽しみにしていて下さい」
「分かりました」
翌朝、山本と坂本は普段よりも早い時間に警視庁へと向かう。
「監視はいいんですか?」
「多分、相手もそれどころじゃないんでしょうね」
「それがなぜ分かるのかは、今聞いても教えてはもらえないんでしょうね」
「それも含めてすぐに分かりますよ」
山本はそう言って笑うと通りかかったタクシーを止め、坂本と一緒に乗り込む。
タクシーから下りた山本達二人は捜査一課主任が待つ会議室へと向かう。
会議室の扉を開けるとそこには捜査一課主任と……千原管理官がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます