第7話 告発

「坂本警部、本当にするのですか?」

「はい、それが私なりの落とし前ですから」

「ですが……」

「山本警部もヤリ過ぎと思われますか?」

「坂本警部……」

「山本警部……互いに警部なのですから、やめませんか?」

「ハァ~ただ慣れないもので」


 山本も今までの流れで坂本警部と呼んでしまったが、坂本が言うように互いに警部なのだから階級呼びはおかしいと気付かされた。


「と、言う訳で私は今まで通り『山本さん』と呼ばせてもらいます」

「分かりました。では、坂本さん「いやいやいや」……え?」

「そこは私が後輩になるのですから、敬称は不要で」

「はぁ……では、改めまして。坂本……君」

「山本さん」

「すみません。これは私のクセみたいなものなので」

「クセならしょうがないですね」

「はい。すみません。え~では、坂本君の言いたいことは分かります。当時は加害者家族としてなんの関係もない人達に謂れのない被害を受けたのですから」

「そうなんですよ」


 山本も坂本がされてきたことを思えば暗にヤリ過ぎではと思う気持ちを引っ込めるしかない。


「ですから、私は父が起こしたとされる殺人事件に対し再審請求を行い、まずは父の無実であることを証明したあとに千原とそれに積極的に関与した連中に対し告発します」

「長い戦いになりますよ」

「覚悟しています」

「その間は千原昌行の刑が執行されることはありませんよ」

「その分、苦しめばいいんです」

「それは警察官としてはどうかと思いますが、まあ十年分の恨みつらみに関しては少しだけしか晴らされないのもどうかとは思いますがね」

「山本さんも分かってくれますよね」

「まあ、少しは……」

「これでも範囲を狭めたんですよ」

「狭めたとは?」

「それはですね……」


 坂本が言った『範囲を狭めた』と聞いた山本は何の範囲を狭めたのかと気になり問い返す。


 坂本が言うには、父が犯罪者として報道されてからは、家の回りにはただ見物している者や加害者家族に対して一言文句を言ってやろうと思っている者に加え、『謝れ!』『死んで詫びろ!』などのイタズラ書き、中には投石などされることもあったと言う。


 坂本はそれらのことをしてきた連中で顔など素性が分かるものはメモに残し、いつか見ていろと考えていたことを話す。


「なるほどですね」

「ええ、時効と言って逃れられるかもしれませんが、裁判記録として残すことが私には重要なので構いません」

「それら全てを『告発』するということですか」

「はい。それが私なりの信じてあげることが出来なかった父に対する謝罪です」


 そういって少し恥ずかしそうに、でもとても誇らしげに笑う坂本警部を見て山本も何故か嬉しくなるのだった。


 ~完~

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告発 @momo_gabu

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