第4話 画像
山本から言われた坂本がパソコンを操作すると山本達の目の前のプロジェクターには黒ずくめの男が歩いている映像が流された。
映像ではその黒ずくめの男は少し回りを気にしながら、宮下弁護士が殺害された現場である公園へと入って行き、数分後にはその公園からキョロキョロと回りを確認した後に出て来る。
「どうです?」
「どう……とは?」
山本が千原管理官に映像を見た感想を求めるが、千原管理官は眉一つ動かすこともなく山本にどういう意味だと問い返す。山本はまあ簡単に認められたらそれも面白くはないなと適当に返す。
「ですから、この黒ずくめの男ってすごく怪しいですよね」
「そうかな」
「あれ? 管理官殿はこの削除された部分の映像を見ても何も思わないのですか?」
「何って……まあ、怪しいとは思うが……この映像からは顔も何も分からないからな。だから……」
「だから、削除した……とでも?」
「ああ。まあ、私の知るところではないがな」
山本がいかにも怪しいでしょうと黒ずくめの男をレーザーポインターの赤い光で円を描くようにグルグルと何回もなぞるが千原管理官の態度に変化はない。いくらなんでもこんないかにもな格好をした男の出演シーンを削るだろうか。確かにこの映像からは背格好くらいしか分からない。顔はおろか手元も手袋で隠され、年齢を判断しようにもその判断材料がどこにも映っていない。だから、削除した……と、いうには凄く無理があるのだが、ここは荒立てずにそのままやり過ごそう。千原管理官のそんな態度に坂本が一瞬、憤り感じたのか腰を浮かせるが山本はそれを素早く手で制すると、言葉を続ける。
「ふむ。まあ、いいでしょう。で、ですね。こんな見るからに怪しい人物が映っていたので、他にも映っていないかと探してみたんですが……ダメでした」
「そうか。まあ、そう気にすることはない。それで少しは捜査の方は進展したのかな?」
「はい。他の場所の監視カメラの映像でもこの時間帯だけ削除されていることが分かりました。それに元の映像でもどれも上からばかりなので顔が映っているものはありませんでした」」
「そうか。それじゃ、この男のことは結局分からないのだな?」
「ええ。そうですね。監視カメラの映像では分かりませんでした」
「ん? 監視カメラの映像では?」
「はい。周辺一帯の監視カメラを確認しましたが、ダメでしたね。それに通りの個人宅の方にもご協力して頂いたのですが、既に提出済みということで進展はありませんでした」
「そうだろうな。私が指示して集めてもらったのだからな」
「ですがね、監視カメラはダメでしたが、他にも映っているのがあったんですよ」
「は?」
山本は千原管理官に監視カメラの映像では顔を確認することは出来なかったと報告すると、千原管理官は自分が指示したのだから、漏れはないはずだと胸を張る。そして、その様子に山本と坂本は互いに顔を見やりニヤリとする。
「ええ。監視カメラは残念な結果でした。ですがね」
「なんだ。勿体付けずにさっさと話せ!」
「そうですね。例えばですが、この車は分かりますか?」
「ん?」
映像では黒ずくめの男の側を数台の車が通っている。
「その車がどうかしたのか?」
「ええ。監視カメラの映像からナンバーを識別するのに苦労しましたが、なんとか連絡が着きました」
「だから、それがどうしたと言うのだ? 目撃者だとでも言うのか?」
「いえ、目撃者とするには、顔をハッキリと見ることが出来なかったようでそれはかないませんでした」
「そうか。なら、これで話は終わりか?」
千原管理官は山本の話を聞き、黒ずくめの男に関しては何も分からなかったし目撃者も見付かったが証言出来るほど、顔をハッキリと見たわけではないと言われ、なんとか表情に出さないように安堵する。
「ですがね、ご存知の様に最近のほとんどの車にはドライブレコーダーが装着されているのはご存知ですか?」
「ああ、それくらいは知っているさ。だから、それがどうした? さっきから、勿体付けるばかりで何も話が進んでいないじゃないか!」
「ああ、そうでしたね。では、結論から言いましょう」
「早く言え!」
「顔は映っていませんでした」
「は? 散々、勿体付けておきながら結局何も分からなかったのか! 巫山戯ているのか!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。確かに顔は映っていませんでしたが、特徴的なモノが映っていたんですよ。コレなんですがね」
山本が坂本に目線で合図しプロジェクターに映し出された映像には車の中から映された黒ずくめの男がそこにいた。
「ふん。これがどうしたと言うんだ。さっきまでのと何が違うと言うんだ?」
「何が違うって、まずは光量ですね。ほら、ちゃんとハッキリと見えるでしょ」
「……くだらん」
「で、見て欲しいのはここです」
「あ……」
山本は坂本に映像を一時停止の状態にしてもらうと、黒ずくめの男のある箇所をレーザーポインターでグルグルとしつこいくらいになぞる。そしてそれを見た千原管理官の顔が少しだけ青ざめる。
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