第4話 目撃
被害者の女性、もとい少女が暮らしていたマンションの所有者を調べてみると、何かと現れる『ツキメ商事株式会社』だった。そして、投身自殺をしたとされている田中弁護士の自宅マンションも車も所有者も『ツキメ商事株式会社』だった。
それに刺殺体で発見されたヤメ検の宮下弁護士の最後の通話相手も『ツキメ商事株式会社』だった。
しかし、公安からこの会社に手を出すのは禁じられている。すぐそこに手掛かりがあるというのに手が出せないもどかしさにイラついてしまう。
「まったく、これだけ情報が集まっているのに何も出来ないってのはもどかしいですね」
「そうですね。でも、この『ツキメ商事株式会社』自体がどこにあるのかも分かりませんし、公安からの情報を期待するしかないですね。それよりは、一つずつ情報を集めていきましょう」
「それしかないですね。分かりました。なら、次は引っ越した『
「そうですね。では、車に戻りましょうか」
法務局を出てから、しばらく車を走らせ住宅街の入口らしき場所で車を一度、止める。
「住所だと、ここですね」
「へぇ~あのマンションとここに建つ一戸建てを交換ですか」
坂本が不思議がるのも当然だろう。この住宅地では、庭付き二階建て、三階建ての少し豪華な感じの家が並んでいる。しかし、あのマンションで被害者女性が住んでいたのは2LDKで、そのフロアは全て同じ作りだった。つまり、2LDKの部屋が庭付き一戸建てとの交換では、価値的にはお釣りどころか、不足分が発生する筈だ。
「山本さん、住所だと少し先の通りを左に曲がった所です」
「分かりました」
山本は坂本のナビに従い車を進め、坂本から指示された角を左に曲がってから、五軒目の家の前で車を止める。
「住所ではこの家ですが、表札は出ていませんね」
坂本がそう言って、門柱に設置されているインターホンのボタンを押し、門扉の前で待つ。
しばらくして、インターホンの向こうから「はい?」と返事が返されたので、「草薙さんのお宅でしょうか」と確認すると「そうですが、何かご用でしょうか」と聞かれたので、インターホンのカメラに警察手帳を見えるようにかざす。
「すみません。警察の者ですが、少しお話を伺えないでしょうか」
坂本がインターホンに向かってそう言うと、「少々お待ち下さい」と言われたので、門扉の前で待っていると玄関が開かれ若い男性が出て来た。
「中へどうぞ」
男性にそう言われ、山本達が門扉を開け、家の中へと入る。
玄関でスリッパを渡され、居間へと案内されるとソファを勧められる。
「失礼ですが、草薙さんで間違いないですか」
「ええ、私は『
「すみません、お歳を聞いても?」
「歳ですか? 歳は二一歳になったばかりですね」
「では、この家に越してくる前の十年前は一一歳だったということですね」
「そうなりますが。もしかして、聞きたい話ってのは、あの事件のことですか?」
「はい。出来れば、ご両親に何かお話を聞ければと思ってきたのですが、どうやらご不在のようですね。よろしければ、また日を改めてお伺いしたいと思いますが「覚えてますよ」……え?」
山本が話を聞きたいと思った両親はどちらも不在の様なので、日を改めようとソファから立とうとしたところで、目の前の男性が、当時小学生だったであろう男性が覚えていると言う。
「覚えている? 失礼ですが、当時は小学生ですよね。とても起きていられる時間だったとは思えないんですが?」
「そうですね。家に刑事が来たときも両親が相手していましたからね。俺だって、言いたいことがあったのに親から『お前はいいから』って、奧にやられてね」
目の前の青年が言う、当時の警察に『言いたかった』という内容に興味を惹かれた坂本が、更に情報を引き出そうと青年に質問する。
「その言いたかったこととは?」
「あの殺されたお姉さんのことです。あのお姉さん、キレイで所謂私の初恋です。私がたまに塾とかなくて夕方のちょっと遅いくらいに帰ってくると、ちょうど出勤時間のバッチリメイクに綺麗な服を着たお姉さんとすれ違うことが多かったですね。あの前の日も偶然会って、ボ~ッと見惚れていたら、お姉さんが私に言ったんです。『大きくなったら、来てね!』と」
青年の話を聞いていた山本には違和感があった。それは、少年が帰宅するときに彼女が出勤していたということだ。
「出勤……ですか?」
「そうです。多分、夜のお店なんでしょ。その時は分からなかったけど、あのお姉さんは多分ホステスだったんでしょうね」
「そうですか。では、『来てね』と言われたと仰ってましたが、お店の名前とか聞かれてますか?」
「店の名前ですか。あ! そうです。その時に名刺をもらいました。ちょっと待ってて下さいね」
そう言って、青年はソファから立ち上がると二階へと駆け上がる。おそらく自室だろう。
「なんだか、話が繋がって来たような気がしますね」
「ええ。ですが、私達が関係者に会っていると分かると何か妨害されるかもしれませんね。ですので、止められる前に掻き集められる情報はなんでも拾っておきましょう」
「ですね」
坂本が話しを終わらせたところで、青年が階段を下りてくる足音がした。
「お待たせしました。ありましたよ。コレです」
「お借りします」
山本がそう言って、青年が差し出した名刺を受け取る。
「写真撮ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
坂本が青年に許可を取り、スマホで名刺の表と裏を写す。
坂本から名刺を受け取った山本がそれをジッと見る。
そこには彼女が勤めていたであろう店の名前『ジュリア』と、住所に被害者の源氏名である『うらら』が記載されていた。
お礼を言って、青年に名刺を返すと、青年が実はと切り出す。
「私、見たことあるんですよ。たまにあの……彼女の部屋に入っていく男の顔をね」
「「本当ですか!」」
山本と坂本がソファから立ち上がり青年に迫る。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。ちゃんと話しますから」
「「すみません」」
青年に謝り、ソファに座り直すと、それを待っていた青年が話を始める。
「さっきも言ったように、私はお姉さんとすれ違うのがよくありました。そして、お姉さんが男と一緒に帰ってきたのを見ることもありましたし、休みの日には昼過ぎに男と一緒に部屋から出てくるのも何度か見かけましたね」
「そのことを警察には?」
「言ってません。っていうか、言わせて貰えませんでしたね。親から『子供には関係ない』とだけ言われたので。それで、なら私が言いに行くって思って、警察が来るのを待っていたんですけど、それ以来警官が訪ねて来ることはなかったですね」
「そうですか。では、その男の顔は今でも覚えていますか?」
「ええ、なんとなくですけどね」
「分かりました。では、今から署の方で「坂本警部」……なんでしょうか?」
「今から署に呼んでも遅くなります。こちらの都合で拘束する訳にもいかないので、まずは予定を確認しましょう」
「ですが……」
「そうしてもらえると私も助かります」
なんとか協力してもらおうとしていた坂本だが、青年から日を改めて欲しいと言われては無理を言えなくなる。
「分かりました。では、その男の人相を確認したいので数時間程度ですが、署の方でお付き合いしていただければと思います。草薙さんの都合のいい日をこちらまでご連絡願います」
山本が名刺を取り出し、携帯電話の番号を記入すると青年に渡すと坂本も同じ様に「お願いします」と名刺を渡す。
思ったより収穫があったと少しだけ顔が綻んだ山本が青年に礼を言ってソファから立ち上がると、坂本も軽く会釈してから立ち上がる。
そして、玄関で「ご連絡おまちしております」と言ってから、もう一度だけ会釈して玄関を出る。
玄関から出る山本達を見送った青年はソファに座りテレビを点ける。
「もう、十年なんだ。本当にキレイだったなぁ。あのお姉さん」
『まだ、犯人が不明とのことですが……』
テレビで流れていたのは、弁護士が公園で殺された事件について、レポーターが警察関係者にマイクを向けているところだった。その様子を見て思わずぼやいてしまう。
「へぇ~警察も大変だね。今日来た二人はコレじゃなくて、十年前のことを調べていたみたいだけど。警察の中もいろいろ大変そう……ん? コイツ、見たことがある気がする」
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