第5話 展開

「くそっ……なんだよ、アイツらは! 田中のことはケリが付いたって言ってたじゃないか! なのになんで、こっちに来るんだよ。田中の荷物は全部攫ったんじゃないのかよ!」

 山本達が出て行った部屋で宮下がイラついた様子でそこら中の物に当たり散らす。

「くそっ、アイツらをどうにかしないと……終わってしまう」

 スマホを取り出した宮下は、どこかへ連絡すると繋がった瞬間に「どうなっているんですか!」と声を荒げる。

『どうしました?』

「私の所に刑事が来た」

 すました感じの電話の向こうの人物に苛立ちを覚えるが、まずは言いたいことを伝える。

『ほう、何が目的か言いましたか?』

「自殺した田中のことを探ってきた。アイツのことは心配するなと言っていたじゃないか! なのに、なんで私の所に来るんだ!」

『聞かれたのは田中のことだけですか?』

「……」

 スマホの向こうから質問された内容に宮下の心臓が『どくん』と跳ね上がる。

『どうしました? まさか……』

「いや、田中と知り合いかどうかを聞かれて、誤魔化そうとしたが十年前の事件で知り合ったはずと言われた」

『……話したんですか?』

「私から話すことはない!」

『そうですか。ですが、感付かれたのはマズいですね』

『感付かれた』と言われ、宮下は自分の心音が早くなるのを感じて、思わず声を漏らす。

「私は……私は大丈夫なんでしょうか?」

『さあ、それはどうでしょう。田中は今以上の生活を望んでしまった為に雲上の世界に行ってもらいましたが……』

「待て! 田中は自殺だと……」

 スマホから聞こえてきたのは予想はしていたが、宮下としては聞きたくはなかった。もしかしたらと思っていたのが、スマホの相手は名言した訳ではないが、自殺ではないと匂わせてきた。

『まさか、額面通りに信じたんですか? 先生が今の場所にいられるのはどうしてなのか理解していると思ってましたが』

理解してわかっている。それは十分に理解してわかっている」

『ならば、こういう連絡が一番マズいと言うのは理解してわかっているんじゃないんですか?』

「あっ……」

『分かったのなら、これで失礼しますね。これからの行動には十分、注意して下さいね。それと、もうこの番号は廃棄しますので。あ、遅いかも知れませんが刑事には過剰に反応しないようにして下さいね。では』

「……」

『プープープー』とスマホから流れる音を聞きながら、宮下はスマホを握りしめながら、自分がしたことを後悔する。


 警視庁に戻った二人は宮下の反応に満足していた。

「山本さん。田中と宮下は繋がりがありましたね。それと、あの繋がりがあったと思われる事件以降に何等かの理由で生活が変わっています。あ、宮下の場合はそれなりかもしれませんが、いくらヤメ検とはいえ、数年であの規模になるものでしょうか」

「坂本警部、思い込みは危険ですが、推測としては私も同意見です。かく言う私もその一人になるわけですがね」

「え?」

 山本の言葉に一瞬、同じ気持ちでいてくれたのではとがっくりする坂本だったが、次に続く言葉に顔が綻び、『恩恵に預かった』と言われ驚愕する。

「まあ、あると言えばあり得る経路ですが、私も……知らない内に恩恵に預かっているのかも知れません」

「そうですか。ですが、山本さんは何かした訳ではないんでしょ?」

「していません。いえ、正確には何も出来ませんでした」

「その見返りが今の位置だと?」

「ええ、弱いですがね。でも、警視庁の捜査一課なんて望んで来られる場所ではないと思っています」

「ちなみにですが、したかったことが出来なかったと言うのは?」

「再捜査というか、洗い直しですね」

「洗い直し?」

「はい。私が現場に到着した時点で全てが終わっていましたが、いくら現場に不慣れな私でも不意に落ちないことだらけでしたから、張り切ったんでしょうね。ドラマみたいに自分が活躍して真犯人を見付けてやるんだ……って」

「それを見とがめられた……そういう訳ですか」

「ええ、派出所の上司……班長から『いい加減にしとけ』と釘を刺されました」

「それが、田中の自殺によって疑問と共に浮上してきたと」

「そうですね。まあ、田中の自殺に不信感を持ったのが始まりでしたけど、探る内に十年前の事件に辿り着くとは私も思ってもいませんでしたが」

 坂本が山本の告白を聞いている内になぜ、山本がここに来たのかその理由がわかった。

「もしかして、事件後に環境が変わっているのが、事件の中核に関わっているということですか?」

「ええ、十分に考えられますよね」

「分かりました。では、順番に調べましょう」

 鼻息が荒くなる坂本を抑えながら山本が苦笑する。


「まずは被害者に容疑者に弁護士に検事。それと担当刑事に鑑識、監察医……」

「それくらいですね。じゃあ、名前を控えますか」

 そう言った山本の横で坂本がスマホで関連書類を捲りながらスマホで撮影している。

「それはマズいと思いますが……」

「ダメなんでしょうけど、この方が早いですからね。それにこういう時ってドラマでもよく邪魔が入るじゃないですか」

 坂本が話し終わるのとほぼ同時に資料室のドアが開かれる。

「山本ぉ! お前は一体、何をしているんだ!」

 係長が部屋に入るなり山本を怒鳴りつける。

『それ、見つからないようにして下さいね』

『分かりました』

「山本ぉぉぉ!」

「は~い、今行きますから!」


 係長に終わった自殺案件を何時までもほじくり返すんじゃない! と小言を言われ、その場をなんとか過ごした山本だったが、ふと思い出す。

「そう言えば、班長はどうしているんだろう?」


 それから二週間たった朝に一報が入る。

『○○公園にて刺殺体が発見。被害者は宮下輝彦』

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