第16話 国王陛下の誕生日パーティー(2)


 数日後、光の季節――

 国王陛下の誕生日パーティーに参加したジャスティの横に、マーキアとその父ルディ公爵が並ぶ。

 その視線の先にはプロティファ王国第一王子にして王太子ロキアが愛らしい少女をエスコートしている。

 

「いかがですか? 父上」

「うーん……」

 

 ルディ公爵がジャスティに耳打ちすると、微妙な反応。

 王子の周りにはマーキア以外の側近候補が少女をちやほや褒める。

 それを笑顔で享受する少女の笑顔は、無邪気だ。

 ロキア王子は少女を父王の下へと連れて行き、彼女を「セエラ・ルア侯爵令嬢です。さあ、セエラ」と紹介した。

 ロキア王子に促された侯爵令嬢はお世辞にも美しいとは言えないカーテシーで国王へ頭を下げる。

 

「セエラ・ルアと申します! 初めまして国王陛下」

「父上、誕生日おめでとうございます」

「あ……お誕生日おめでとうございます!」

 

 ロキア王子の言葉に、このパーティーの主旨を思い出したように祝いの言葉を告げた。

 国王の微妙な眼差しが、叔父にあたるジャスティに向けられる。

 甥の国王の眼差しに首を傾げて見せるジャスティ。

 

「……ふむ。確か――聖魔力を持っているのだったか」

「はい。セエラはこの国に英雄聖人ソアラ様に並ぶ功績を上げてくれることでしょう! 彼女は『聖女の里』の聖女の血を引いているそうです!」

「ううん……そう、か。まあ、はっきりと聖女の血を引いている、と記録があるわけではないのだろう? 確証も証拠もないことをわざわざいう必要はない」

「え? あ……も、申し訳ありません」

 

 父王の反応が余程予想外だったのか、ロキア王子は驚いた表情で頭を下げてセエラ侯爵令嬢を連れて御前を離れる。

 王妃が扇で口許を隠し、小さな溜息を吐く。

 

「報告では聞いていたが、想像以上に骨抜きになっているな」

「でしょう? それなのに俺や他の側近候補にも粉かけてくるんだよ。ルア侯爵は権力大好きだから目的がそうとしか思えないんだけれど」

「レッドプロテア王国とも懇意にされているしな」

「ほっほっほっ。二人とも、もう少し小声で話しなさい」

 

 元々かなり小声で話してはいたけれど、ジャスティに注意されて親子はアイコンタクトをしてから目を閉じる。

 その横に、王家の執事が近づいてきた。

 

「聖女ではないな。聖痕に反応はない」

 

 そう伝えると、執事は頭を下げて姿を消す。

 ふう、とジャスティが溜息を吐いて窓の近くの一人かけソファーに腰を下ろした。

 そこにロキア王子と例の侯爵令嬢が近づいてくる。

 確かに、この会場で国王に近い地位の者はティフォリオ公爵家の者だろう。

 ちょうどこの場に親子三代が揃っている。

 

「お久しぶりです、ジャスティ大叔父様。ティフォリオ公爵」

「お久しぶりです、ロキア王子」

「おお、久しいなぁ。わざわざ私にも挨拶しに来てくれるとは嬉しいよ」

 

 笑顔でロキア王子を迎えるルディ公爵とジャスティ。

 同じく笑顔を浮かべて「こんにちは」と挨拶をするマーキア。

 

「あの、初めまして! わたし、セエラ・ルアと申します! えへへ……」

「――初めまして」

「セエラ、こちらは祖父の弟であるジャスティ・ティファリオ元公爵と、マーキアの父君であるルディ公爵だ」

「初めまして。ルア侯爵令嬢」

 

 貴族らしい笑顔で挨拶を交わす。

 その時、ジャスティの後ろから近衛兵の怒声が響いてきた。

 壁が突然ひび割れる。

 

「お祖父様!」

「父上!」

 

 マーキアとルディ公爵がジャスティを庇うように立つがカフスボタンが白く輝き飛んできた壁の破片を弾く。

 

「――!?」

「公爵様! 危ない!」

 

 壁をぶち破ったのはグリフィン。

 大きな嘴を開けてジャスティたちに襲いかかってきた。

 そのグリフィンを聖魔法[ジャッチメント]で浄化するセエラ。

 会場が大いにざわつく。

 すぐに騎士が駆けつけて、ルディ公爵とマーキア、ジャスティを移動させた。

 しかし、すでにグリフィンは瀕死。

 間もなく騎士たちにより、グリフィンは倒される。

 

「セエラ! 大丈夫か!?」

「は、はい。あの、マーキア様、ルディ公爵様、ジャスティ様、お怪我は……」

「あ、ああ……大丈夫ですよ」

「素晴らしいぞ、セエラ! 即座にグリフィンを倒すなんて!」

「いえ、そんな……」

 

 ロキア王子が駆け寄る。

 ふう、とジャスティとルディ公爵が顔を見合わせた。

 ――あまりにも、タイミングが良すぎる。

 まるで最初から仕組まれていたような――

 

「グリフィンを一撃で倒したぞ」

「聖魔力を持っているとはいえ、グリフィンを一撃で倒すというのは……」

「ああ、すごいな!」

「身を挺して公爵様方をお守りするとは、やはり本当に聖女の血を引いているのでは?」

「確証や証拠はないらしいが、もしかしたら先祖帰りの聖女なのでは?」

「確かにソラウ様と同等の【聖女】かもしれないな」

 

 会場がそんな声に溢れる。

 顔を見合わせていたジャスティとルディ公爵、マーキアは溜息を吐いてセエラに感謝を伝えた。

 しかし、その腹の中では疑念が深まる。

 

(これは……『聖女の里』に行く必要があるかもしれんなぁ)


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