第6話 いや、これは就職
部屋の掃除をシニッカさんに任せて、一階の南の部屋に向かう。
屋敷の南は棟が違っていて、匂いが違っていた。
別棟には四部屋分の扉があり、そのうち一つの扉が開いている。
こっそりと開いた扉の中を覗き込むと、宝石がたくさん敷き詰められている木箱がテーブルに置いてあった。
こ、こんな無造作に……。
「あ、あのう」
「来た?」
恐る恐る部屋に入って声をかけると、隣の部屋からソラウ様が顔を出す。
木箱を持ってくるように言われて、言われた通りテーブルから持ち上げて隣の部屋に持っていく。
「そこに置いておいて。で?
「え!? ええと……存在を初めて聞きました」
「どれだけ常識足りないの? 知らないことがどのレベルなのかわからないから、そこから確認した方がいいか……」
唇に指をあてがい、無表情で呟く。
隣室は作業場のようなところ。
狭いけれど、壁一面鍵つきの引き出しがある棚で埋め尽くされている。
作業テーブルには布と、やはり宝石が無造作に置きっぱなし。
だ、大丈夫なんだろうか、これ、本当に。
「じゃあ、まずこの世界のこと――この大陸の名前と五国家は説明できる?」
「は、はい。この大陸はローゼル=イル・ルゥゼ。大陸にあるのはプロティファ王国、レッドプロテア国、タールクール王国、ユリア女王国、カラン魔女王国。五ヵ国の中心……大陸の中心には秘境ネーネ峡谷があり、そこには『聖女の里』がある……と言われています」
「『聖女の里』については?」
「『聖女の里』は、男子禁制の女性だけの……えっと、正確には聖女だけの村。聖女たちは光の神の強すぎる光を吸収して、光の神の妻として世界が真っ白にならないように守っている。数十年に一人、里から聖女が外界に派遣されて溜まりすぎた光の神の力を聖魔力として提供する……」
ちょっと自信がない。
でも「まあ、及第点」と言ってもらえた。
よ、よかった。
「魔物と影樹については?」
「影樹は光の神の後光により生じた影が、樹のように伸びて現世に現れたもの。魔物を無尽蔵に生み出し、伐採するには聖魔力が必要。魔物は光の神より現世に与えられた資源。獣との違いは影樹から生まれ、体内に魔石を持っている点」
「うん。そのへんの常識はあるんだね」
よ、よかった! 褒められた!
「
「は……は、い」
なんかいっぱい喋られた。
えーと、えーと……
聖女にしか作れない?
「ええと……では私はソラウ様のなにをお手伝いしたらいいのでしょうか?」
そう聞いたら、ソラウ様は無表情になって唇を尖らせる。
なんだかいじけたような表情。
「俺、
「はい。……え? 溜まっちゃう? とは?」
「
そう言って、部屋の周りの棚を見回す。
もしかして、この部屋の壁びっしりにある鍵つきの引き出しの中って……?
「
「それは……そう、ですね」
差し出された宝石はルビーというらしい。
手渡されるけれど、確かにちょっとどうしよう、と思う。
ポケットに入れておくのも、なんだかものすごく不安。
せっかくの宝石をポケットに入れっぱなしというのも、なんだかもったいない気もする。
レーチェお姉様やマルチェが装飾品にどんな色のどんな宝石がついているかなどを気にして身に着けていたのを思い出す。
「このまま売ってもいいんだけれど、装飾品に加工した方が売れる。でも、装飾品に加工するには聖魔力が必要で、聖魔力のある細工師は滅多にいないから溜まる一方。で、君」
指差される。
わ、私……!?
「君からは聖魔力の気配を感じる。多分俺と同じ聖魔力を持っている。父さんもそう言っていたしね」
「私が!?」
「信じられないなら調べてもいいけれど、とりあえず俺が作った
「あ、は、は、はあ……。え!? でもあの……私、装飾品なんて作ったことありません!」
「そんなのわかっているよ。贔屓にしている装飾品店の人に来てもらって、注文してもらうからその注文通り作ってもらう。魔石の
「そ……それなら……」
できるのかな?
でも、不安だな。
困り果てている私に「とりあえずやってみて」とルビーを指差された。
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