第24話 転機(1)
夏の前期も終わりに差しかかった週末。
本日は旦那様のお屋敷にお泊りに来ました。
ソラウ様に一応相談したんだけど、お手紙には「はあ? 勝手にすればぁ?」とのこと。
手紙の文面からも拗ねてるなぁ……と伝わってくるのが……可愛い。
唇を尖らせてそんなふうに言っているソラウ様の姿が容易く想像できて、その上そんなふうに思うなんてなんというか、私もなかなかに重症、なのかもしれない。
早く帰ってこないかなぁ、なんて――やっぱり重症だよね。
「いらっしゃいませ、リーディエ様。旦那様がお待ちです」
「あ、えっと、は、はい。お邪魔いたします」
アスコさんに出迎えられて、旦那様のお屋敷に招き入れられる。
先に「リーディエ様のお部屋にご案内しますね」と三階の一室に案内された。
例の、あの二部屋の繋がった、クローゼットがお部屋のあの部屋。
「こ、ここを? あの、私の……?」
「はい。旦那様がそのままリーディエ様にお使いいただくように、と。どうぞお気になさらずお使いください」
「で、でも、あの、ちょっと広すぎて……」
「このようなお部屋の過ごし方も教養と思いください。聖魔力を持つ者はそれなりの待遇を受けることが多いのです。今はソラウ様を派遣してほしい、という依頼ばかりですが、聖魔力と膨大な魔力量を誇るリーディエ様にもいずれそのようなお声がかかることもあるでしょう。そうなれば他国に国賓としてここよりも豪華なお部屋に宿泊することもあるでしょう」
「は、は!?」
最初は「アスコさんってばなにを大げさな……」と思っていたけれど、最後に『他国の国賓』と言われて色々と吹き飛んだ。
なんで私が、と口をパクパクさせるとにっこり微笑んだアスコさんが「聖魔力を持つ方は数少なく、魔力量が多い方は王都以外の主要都市の結界
そのソラウ様の弟子で、聖魔力も魔力量もあるからいつかは――という想定をしているのだそう。
「そ、そんな、私は
「ええ、もちろん本職は
「え、ええ……!?」
「それでは、私は昼食の準備をしてまいります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
「あ……は、はい……」
アスコさんがダイニングを出て行く。
入口にいたシニッカさんが実父であるアスコさんが出ていくと、私の座っていたソファーに歩み寄ってくる。
「ソラウ様の留守を狙われましたね」
「え?」
「旦那様はソラウ様を溺愛しておりますが、今回はリーディエ様です。ソラウ様がリーディエ様から離れている隙に、リーディエ様の能力を利用しようとされるのでしょう。なにを言われても、ソラウ様に相談してみる、と挟んでやり過ごした方がよいのではないでしょうか?」
「……え、え?」
なんで? どうして?
困惑が隠せない私に、シニッカさんがハッとした表情になる。
そして私の隣に来てから、床に膝をついた。
「実は、リーディエ様の魔力量を図ってからソラウ様に『公爵家ではなくリーディエ様の意思を最優先にできるように』と命を受けておりますの。私の立場では雇い主の公爵家を最優先にするべきなのですが、ソラウ様がおっしゃっていることもよくわかります。なにより、私は
「シ、シニッカさん……」
手を握られて、見上げてくるシニッカさんに告げられた言葉が胸を満たしていく。
胸の熱がそのまま喉、顔、目にせり上がってきて、そのまま涙という形で流れ落ちる。
そんな私に、シニッカさんが優しく、しかし少しだけ仕方なさそうに微笑む。
ソファーの隣に座り、額を寄せる。
「リーディエ様はまだよくわかっておられないようですが、聖魔力自体持っている人が珍しいんですよ。大きな町に一人か二人。王宮魔法師にも二人しかおりませんし、王宮治癒魔法師は二十人しかいないんです」
「え!? そ、そんなに少ないんですか!?」
「そうですよ。他にも宝石を
「…………」
シニッカさんの諦めたような目で涙が引っ込んだ。
あんなに在庫処理に困るほどポンポン宝石や魔石を
ああ、ううん……やっぱりそうですよねぇ?
宝石自体、高級品ですものね?
「さらにそれそ細工する
「そ、そうなんですか。そんなに……少ないんですね……」
「ですから、リーディエ様が思っている以上に
「では、もしかして……」
「はい。国としては聖女様が現れる前にソラウ様にもっと国外に行ってもらって、他国に恩を売りたいのだと思います。この国の民であり、聖女様と同等の魔力量のあるリーディエ様を、この国に現れた聖女様と言い張ってこの国の聖女として祭り上げるようとするでしょう。そうなれば
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