第10話 魔力検査(2)


 いや、もう、それは私も張り合う気は一切ないですけれど。

 

「なに笑ってんの」

「え、わ、笑ってないですよ」

 

 頬を膨らませているところが子どもじみていて可愛いな、と思ってしまった。

 最初は呆れていたんだけれど、回数を重ねるとそれがこの人の愛嬌として感じるようになってきたというか。

 嫌いな食べ物も多いし、夜更かし寝坊は当たり前。

 放って置けば衣食住も忘れて研究に没頭する。

 すごい人だけれど困った人。

 こうして私なんかにまで張り合ってくるのが、実家で経験した私を虐げることが目的の見下しとはまったく違う。

 だってちゃんと”私”を見て言ってくれるんだもの。

 見下して踏みつけるんじゃない。

 私のこともちゃんと認めた上で、私にも「俺のことも認めて!」ってせがんでいる。

 それがとっても可愛くて、愛おしさも感じるのは仕方ないと思う。

 ……いや、成人男性にそんなことを思うのもどうかと思うけれども。

 

「それに俺は魔力量も多いから、初期魔法だって中級くらいの威力出るんだから!」

「すごいですね~」

「でしょう! すごいでしょう!」

「はい! 本当にすごいですね!」

「ごほん!」

 

 うしろから聞こえてきた咳払いにハッとする。

 いけない、オラヴィさんがいるのを忘れていた。

 ソラウ様のこういうところが可愛くて、ついこうやって甘やかしてしまうのがいけないのだ。

 と言っても、ソラウ様のこういう甘えた態度は身内に発揮されるものらしい。

 私も無事に身内枠に入れてもらえたんだな、とまた喜んでしまったけれど、そうしてお兄様方がするように末っ子甘やかしを私がしてしまうから……!

 だって! だって可愛いんだもの!

 このドヤ顔が可愛くてつい……気づいたら、もう口が褒めてるんですよ!

 

「ソラウ様、リーディエ様の魔力量も測定するのではないのですか?」

「あ、そうだった。次はコッチね」

「はい。えっと、これは……定規ですか?」

 

 オラヴィさんに指摘されたソラウ様が取り出したのは、またも大切そうに布に覆われた大きな定規。

 人の腕くらいの長さで、上に行くにつれ幅がある。

 お、重そうだなぁ。

 

「よいしょと。はい、一番下の丸い石に手を当てて」

「ここですか?」

 

 上の幅のあるところを抱えたまま、もう片手で私に指示を出すソラウ様。

 末端部分にある半球体の石に触れればいいみたい?

 

「うわ!」

 

 ソラウ様が驚いた声を上げる。

 石の場所から、金色の液体のようなものがもこもこと水嵩を増すように瞬く間に上に向かって増えていく。

 目盛りの見方がよくわからないのでこれが多いのか少ないのか平均なのか、私には判断がつかないけれど――

 

「なんだか、すごく綺麗ですね」

 

 金色の水がどんどん増えていく。

 ついにソラウ様の顔の側で止まり、ほとんど満タンなような感じになってしまった。

 

「…………。なるほど」

「なにかまずいんですか、これ」

 

 いかん、ソラウ様が唇を尖らせておられる。

 これはかなりいい結果が出てしまったんだろうな。

 いや、でも、さすがにソラウ様を超えるような結果ではないと思うし……?

 

「うん。もういいよ」

「え? あ、あの、私の魔力量はどのくらい――」

「内緒!!」

「わかりました! お仕事に戻ります!」

 

 涙目で拗ねておられるソラウ様が可愛いのでもう聞きません!!

 

「ええと、では、今日はなにを作った方がいいんでしょうか」

 

 話を逸らそう。

 頬を膨らませながら巨大定規を布の中にしまっていくソラウ様に聞くと、拗ねた表情のまま振り返る。

 ああ、いけないのにきゅんとしてしまう。

 

「今日は君がここ十日で作ってきた祝石ルーナの装飾品の鑑定を一気にやっちゃう。その結果を伝えるから、参考にするといいよ」

「は、はい!」

 

 今?

 と、思わないでもないけれど、ソラウ様も祝石ルーナを装飾品にしていたから、比べられてまたドヤりたいんだろうなぁ。

 

「そういえば鑑定するって言って完全に忘れてたから」

 

 お忘れでしたか~~~。

 それじゃあ仕方ないですね~~~。

 

「んんん!」

「ハッ」

 

 後ろでまたオラヴィさんが咳き込む。

 あ、はい、顔が緩みましたね。はい。これ以上甘やかさないように気をつけます。

 

「じゃあ、君が作ったやつ一つ一つ鑑定して説明するよ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 作り溜めた指輪、腕輪、ネックレス、イヤリング、ピアスの入った木箱を持ってきて、中のものを本当に一つ一つ持ち上げて「このイヤリングは火属性耐性が付与されているから、冒険者協会に卸す」とか「この腕輪は癒し効果が付与されているから、貴族街の祝石ルーナ装飾品店か冒険者協会、どっちでもいい」など卸先も込みで成功したかどうかを教えてくださった。

 そうか……祝石ルーナの装飾品って、作ったら終わりじゃないんだっけ。

 依頼されたものを作っていくとも聞いていたけれど、卸先がいくつもあるものなんだ。

 

「あの、貴族街の装飾品店と冒険者協会ってどう違うんですか?」

「え? まあ普通に貴族は守りのものが欲しがられるけれど、冒険者協会は戦いに有利になるものが需要が高いよ。あとは騎士団。ピアスや腕輪は剣を振るう者には比較的好まれる。王宮魔法師団はなんでも……かな。でも魔法師団も戦いに赴くことが多いし、耐性系の装飾品が好まれるかな~。残念だけれど今のところ王宮騎士団と魔法師団に卸せるレベルの付与効果が出ているものはないね」

「そ、そんなにたくさん卸先があるんですか……」

「え? 言ってなかった?」

「言ってないですよ!?」

「あー、まあ、他にも卸先はあるけれどね。じゃあ、まあ、卸先についてはオラヴィに聞いて。ほら、説明続けるよ」

「う……は、はい」

 

 も、もううう、変なところ適当でいらっしゃる。

 でも、そんなところまで可愛いと思い始めている自分がいるのが……怖い。


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