第13話 カフスボタン作り(1)


 カフスボタンとは男性礼服の袖などに取りつけるボタン。

 使うオニキスにはトラブル予防の効果がある。

 それを祝石ルーナにすることで、実際のトラブルが起こっても被害から逃れられる可能性が上昇する――らしい。

 

「まー、王族や高位貴族の家の中にはカフスボタンの中に家紋を刻んで身分証代わりにするらしいから、祝石ルーナの中に家紋を刻む仕事もそのうちやってもらうかもね」

「どうやるんですか? 祝石ルーナに家紋を刻むなんて……」

「聖魔力で模写するんだよ。使う宝石も高価だから失敗すると弁償だよ~」

「ひええ……!?」

 

 にまにま見ながらそんなことをおっしゃるソラウ様。

 要するに私にはまだ早いっていうことね。

 もう少し言い方ぁ……。

 

「じゃあ、いつも通り細工してみて」

「あ、はい。やってみますね」

 

 ちゃんと魔力視認ができるようになったかな?

 オニキスの祝石ルーナを台座に取りつけながら魔力を通す。

 あ、ずごい。

 魔力が視えるからどこにどのくらいの魔力が入るのかがよくわかる。

 それに祝石ルーナが金色の魔力に満ちている。

 とっても綺麗……これがソラウ様の聖魔力。

 ハッ! 見とれている場合じゃない。

 台座に祝石ルーナの取りつけが終わったら金具の取りつけ。

 あ、ここにも聖魔力が入る隙間がある。

 

「そうそう。結構ちゃんと視えているみたいじゃん」

「大丈夫ですかね? ちゃんと魔力は入れてますかね?」

「うん、隙間なく金具にも祝石ルーナの効果を流していく感じ」

「なるほど?」

 

 そう言われてなんとなくわかった気がする。

 聖魔力を台座や金具に流し、祝石ルーナに込められた魔力を台座に込めた聖魔力を媒介にして高めるのだろう。

 台座や金具にはあんまり聖魔力は入らないけれど、魔力視認ができるようになったことで隙間なく入れるのはたやすくなった。

 

「これで――」

 

 最後まで隙間なく魔力を入れると、頭の中でイメージが浮かぶ。

 これは、なに?

 

「生まれ変わるんだよ。祝石ルーナに込められた[祝福]と、金具のに込められた聖魔力が混じり合うと」

「じゃあ、今頭の中にあるイメージは……」

「完成予想図みたいなもの。反映させるには指先でそれをなぞるだけ」

「……やってみます」

 

 ソラウ様の指が私のイメージを肯定するようになぞる。

 ソラウ様にも見えているんだろうか?

 やっぱりすごいんだなぁ。

 指先でイメージをなぞってみると、本当にシンプルな一本線の台座が三本線になり四角い形に変化した。

 祝石ルーナまで。

 

「これは……!」

「うん。上手くいったね。これが祝石ルーナ細工師の力だよ。もう少し慣れればデザインは任意で帰ることができるらしいけれど、この祝石ルーナが自分の一番輝ける形はこれだよーって教えてくれた姿だからあまりいじらない方がいいと思う」

「あ、でも、二つ作らないといけないんですよね」

「そう。まあ同じ石の祝石ルーナを使っているとだいたいデザインは似たようなものになるから大丈夫じゃない?」

 

 どれどれ、とソラウ様が私の作った初めての祝石ルーナカフスボタンを[鑑定]する。

 多分、今までで一番の出来栄え。

 どうですか、と目で見上げていると「最高品質」と太鼓判をいただいた。

 

「うん、この調子でいっぱい作ってね」

「はい! ありがとうございます!」

 

 できたんだ。

 これが祝石ルーナ細工師としての、仕事なんだ。

 手に戻された成功作を見つめて、胸に湧き上がる達成感に頬が緩む。

 よーし、頑張ろう!

 

 

 

「ふうう……!」

「うん、ノルマ個数達成じゃん。別な依頼あげるから、そっち作ったら? もしくは練習」

「練習! したいです!」

「じゃああっちの小さな祝石ルーナ使ってみてよ。全部あげる。効果が低いから売り物にならないし、依頼が来ている分はもう別にしてあるし」

「いいんですか? ありがとうございます! やってみます」

 

 お許しが出たので、小さな祝石ルーナをカフスボタンにする練習を始めた。

 でも、せっかくだし……いつもお世話になっているソラウ様やオラヴィさん、シニッカさんや旦那様にお礼のものとか作れないだろうか?

 いらないっていうことならソラウ様たちへのプレゼントにしても大丈夫かな?

 

「あの、ソラウ様にカフスボタンを作ってもいいですか?」

「は? 俺に?」

「はい。日頃のお礼にソラウ様とオラヴィさんとシニッカさんと旦那様にも、なにか作ってみたいんですが……」

「ふぅん……まあ、作ってみたらぁ? でも、父さんになにか作るならコッチ使ってみたらぁ?」

 

 と、作業場からソラウ様は紫色の祝石ルーナを持ってきた。

 

「なんですか、これ?」

「魔石の祝石ルーナ。一応元公爵だからねぇ、父さん。ロックゴーレムの魔石で、防御の効果がある」

「魔石の祝石ルーナ……!? い、いいんですか!?」

「いいよ。俺は強いし社交とかしないから、いらなーい」

「えええ……」

 

 拒否られたぁ?

 も、もう、仕方ない。

 魔石の祝石ルーナに集中しよう。

 だって、魔石の祝石ルーナを取り扱うのは初めてだもの。

 小さいけれど、二つの魔石の祝石ルーナをカフスボタンの丸い台座に取りつける。

 聖魔力を流し、台座と金具に満たす。

 そこですごいことに気がついた。

 なにこれ、すごい!

 魔力がどんどん入っていく……!

 

「魔石の祝石ルーナって、まだ魔力が入るんですか!?」

「ああ、結構いくらでも入るよ。面白いでしょ!?」

「へぅ!?」

 

 目を輝かせてテーブル越しに顔を近づけてくる。

 そして「[祝福]で魔石を満たしているのに、さらに聖魔力が入るんだよ~!」とか「魔石の祝石ルーナによって装飾品に加工した時、宝石の祝石ルーナと違って二つから三つの複数効果が出るんだよ」とか嬉々として説明してくれた。

 な、なるほど。


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