第14話 カフスボタン作り(2)


「満タンになるまで入れていいんですか?」

「いいよぉ。満タンまで入れると細工が進化するの面白いよね」

「はい。やってみますね」

 

 ソラウ様に見守られながら魔石の祝石ルーナに聖魔力を注いでいく。

 こんなに小さいのに、普通の宝石の祝石ルーナの数倍以上の魔力を取り込み、台座や金具部分まで行き渡らせると黄金の光を帯びたイメージが浮かび上がった。

 指先でそれをなぞると、イメージ通りの形に変化する。

 ソラウ様はさらに祝石ルーナに人差し指をあてがう。

 すると、祝石ルーナの中心にあった効果のわかる灯った光が家紋の形になった。

 な、なにこれすごい。

 

「これが……」

「んふふふー。すごいでしょ? これが家紋入れ」

「こうやるんですね。……家紋はやっぱり難しそうです」

「ほらほら、カフスボタンは二つで一セットなんだから、もう一個」

「は、はい!」

 

 そうだった。

 差し出された魔石の祝石ルーナを台座に取りつけながら聖魔力を注ぎ続ける。

 一回やった作業だからか、かなりスムーズにできるようになった。

 

「うんうん、ちゃんと魔力が視えてるから上手に入ってるね。……そういえばさー、王宮とかでも祝石ルーナの装飾品つくるの手伝いに行くと王宮勤めの魔法師でもこの程度の大きさの魔石の祝石ルーナを細工させると、二つ目に魔力切れを起す奴がいるんだよ」

「そうなんですか?」

「王宮魔法師ともあろう者が情けないよねぇ」

 

 えっと……それは……。

 ソラウ様は私に魔力量を図った時の結果を教えてくれなかった。

 でも、今のその話を聞く限り、私の魔力量って王宮魔法師様よりも多い……?

 ソラウ様の魔力が多いのはドヤ顔で自慢していたのでよくわかるのですが、まさか私も?

 二つ目の魔石祝石ルーナも、問題なく進化イメージまでたどり着いた。

 それもソラウ様が家紋を入れて完成させてくれる。

 

「うん。これなら父さんがパーティーにつけて言っても問題ないねぇ」

「本当ですか? よかった……。えっと、それじゃあ……」

 

 どうやって渡そうかな、と思っていたら「ラッピングしたら届けさせるよ」と指輪を入れる箱の中に完成したカフスボタンを入れる。

 どうせ本宅から毎日使用人数名が掃除に来るのだから、と言われて「あ、そうか」と納得した。

 そうだよね、ちゃんと行き来している正式な使用人の方がいるのだから、そういう方に頼めばいいんだよね。

 なに直接手渡す気になっていたのだろう。

 

「で?」

「はい?」

「俺の分も作ってくれるんだっけ? なんか父さん用のも簡単に作ってるし、俺のも魔石祝石ルーナで作ってもらおうかなー」

「え? あ、は、はい。やってみます!」

 

 ものすごくわくわくしている表情だなぁ!

 なにかソラウ様の好奇心に火を着けるようなものがあったのだろうか?

 ソラウ様が作業場から持ってきた青い魔石の祝石ルーナは先ほど旦那様のカフスボタンを作ったものよりも、少し大きいのだけれど?

 

「これはなんの魔物の魔石なんですか?」

「アイスウルフという狼型の魔物だよ。群れで襲ってくるから一回の戦闘で二十個くらい手に入るんだ~」

「……、へー」

 

 しれっと言っているけれど多分とんでもないことしているんだろうなあ、というのがひしひし伝わってくる個数だなぁ……!?

 一回の戦闘でニ十頭の狼が魔物に襲われているってことですよね!?

 こ、怖、す、すご……!

 

「ちなみにアイスウルフの魔石には氷耐性アップと氷魔法効果アップがあるよ」

 

「え? なんだか、あの、戦闘用みたいに聞こえるんですけれど……?」

「戦闘用だよ。光の季節は魔石集めに行くし」

 

 魔石集めに行くという名目の魔物討伐ですね?

 なるほど、ソラウ様の中で魔物はイコール魔石なんですね。

 と、とんでもない人ですね本当に~~~!

 

「わかりました。あの、でもカフスボタンにするんですか?」

「そう。手元に漬けておく装備の一つ。これ以外に雷耐性と雷魔法効果アップの腕輪もつけるよ。それはもう自分で作ってある!」

 

 攻撃特化だ……。

 

「と、とりあえずやってみますね」

「うん。頑張ってね」

 

 とか言いながら、テーブルに腰かけてわくわくしたキラキラ目で見下ろしてくる。

 なにか観察対象になってしまっているけれど、自分でやる、贈り物を作りたいと言ったのだからやりますとも。

 しかし、手に取っていざ台座に取りつけながら魔力を注ぐ段階になって驚いた。

 さっきのロックゴーレムの魔石とは比べ物にならないほどの魔力が入っていく。

 魔物によってこんなに差が出るものなの?

 

「へー、面白い。[祝福]してもこんなに魔力が入るんだね」

「そ、そうですね?」

 

 なんだかメモを取っておられる。

 ああ、あのキラキラした目はそういうことなのね。

 

「もしかして魔石の祝石ルーナにどのくらい魔力が入るということを調べています?」

「うんそう。自分だと正確にわからないからさー」

「あはは……」

 

 そういうことなら仕方ない。

 じーっと観察されているのがちょっと緊張するけれど、この魔石の祝石ルーナがソラウ様を守ってくれるなら――

 

「できました」

「うん、見せて」

「はい」

 

 魔力がこれ以上入らなくなった。

 それをソラウ様に渡すと、ソラウ様は[鑑定]を行う。

 どうなんだろう?

 ちゃんとできたと思うんだけれど……。

 

「うん、完璧。魔力量は60は入っているね。ふーん、さっきの魔石も40入っているし……やっぱり魔物のランクによって魔石に入る魔力も変わるんだ~」

「ソラウ様は祝石ルーナに入った魔力もわかるんですね」

「うん。自分で使った魔力を計測しながら細工するのはよくわからなくなるんだよ。たくさん一気にやっちゃうから」

 

 ああ~、それぽーい。

 

「もう一つもやりますね」

「うん」

 

 持ってきてあったもう一つの魔石の祝石ルーナにも細工を施しながら魔力を注ぎ続ける。

 魔力の入るスペースは石の端の方。

 なんだかどんどん入っていくのが面白い。

 そうして満タンになった祝石ルーナは進化のイメージが浮かぶ。

 

「……よし! できました!」

 

 イメージを反映させる。

 狼の縁の金具。

 金具も青く染まった。

 差し出すとまた受け取って[鑑定]したソラウ様は目を細める。

 

「うん……ありがと」

「――――」

 

 カフスボタン二つ、ほっぺにくっつけて満面の笑みで私にお礼を言ってくれた。

 あれ、なに?


「よ……喜んでいただけてよかったです……?」


 ソラウ様はいつも通り可愛い。

 でも、かっこよく見えた。



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