第38話 愛してる(1)
手の甲にソラウ様の手が重なってきて肩が跳ねあがった。
だ、だから、ソラウ様に触られると、変な感じになってしまうから許してほしいのに――!
「ぐ、くうう……こ、ここは……? 私はいったいなにを……」
「あ……倒れていた人たちが目を覚まし始めましたよ、ソラウ様」
「あー、そうだねー……。待て」
チッ、と舌打ちでも聞こえてきそうな表情。
そこから急に険しい表情に変わり、私を庇うように目を覚ました黄色いジャケットの貴族男性を睨みつける。
早く腕輪の聖魔力を満たさないといけないのに、状況が変わったのだろうか?
肩越しに上半身を起こして頭を抱えるその貴族は、ふと自分の腕に光の神の宝具である腕輪がないことに気がついたのか狼狽え始める。
「腕輪が……腕輪がない!? どこに!? あの腕輪で城の結界が強化できると聞いていたのに!? お、おい、誰か私の腕輪を知らないか!?」
「うう……え、な……ルア侯爵様? なにをなくされたのですか?」
「探せ! 私の金の腕輪! ――き、貴殿は、ソラウ・ティファリオ殿!?」
辺りを見回していたら、ようやくソラウ様に気がついた貴族の男性。
同じく上半身を起こした騎士様や文官様などが起き上がるなり、貴族男性に詰められて困惑する。
彼らが貴族男性を呼ぶ、その名前は――あれ? さっき国王陛下がソラウ様に進言されて、いた時に出した名前……確かルア侯爵、だったような?
あの方がルア侯爵様?
ソラウ様を見上げると、非常に険しい表情。
「光の神の宝具の腕輪はこちらで回収しました。なぜあなたがあれを持っていたのか、教えていただけますか? 光の神の宝具は聖女の里に安置されており、場合によっては侯爵を聖女の郷から無断で光の神の法具を盗み出した者として罰さねばならないのですが」
「な!? ち、違う! あれは……その……彼女に……ルビアナに託されたのだ! 『自分はもう永くない、死ぬ前に真の災いが訪れるであろう王城に光の神の法具をかざし、光の結界を張って守ってほしい』と……!」
「真の災い? なんですか? それは」
「し、知らぬ……詳しいことは……! しかし、ルビアナはそう言っていた。一刻の猶予もないから、陛下には事後報告になってでも今すぐに結界を張れ、と」
どういうことなのだろう?
ソラウ様を見ると、やはり険しい表情のままだ。
しかし、ここにきて私にも気になることができてしまった。
ルビアナって……。
「あ、あの、ソラウ様……ルビアナ様、というお名前……」
「うん。君の養母の名前だね」
「ご存じだったんですか」
「一通り調べたからね。……しかし、そうか……なるほどね。侯爵家の方を調べても、聖女に関する情報が出てこないわけだ。君が元々いた時点でもう少し経歴を探っておくべきだった。けれどまさか貧乏伯爵家を隠れ蓑にしていたとは思わなかったな。ルア侯爵、ルビアナというのはハルジェ伯爵夫人のことですよね? 彼女といったいどんな関係なのです?」
ソラウ様が睨むように見下ろしながら詰問すると、侯爵様はギョッとして狼狽え始めた。
そして慌てて立ち上がり「決して怪しい関係では……」と弁解し始める。
しかし、侯爵様の話を聞けば聞くほど、侯爵様が話をすればするほどなんというか……ドツボにハマるというか……。
要訳すると、ルア侯爵様はハルジェ伯爵家の親役。
お養父様の所属する派閥の長なのだという。
その権力を用いて、お養母様といかがわしい、割り切った関係を続けていた。
私はお屋敷にいた頃からほとんどお会いしたことはなかったけらど、お養母様は本当に幾つになってもお若くてお美しい方だった。
お養父様もお養母様にベタ惚れで、お養母様の言いなり。
そのお養母様が……光の神の法具を、持っていた?
それに、セエラ様はルア侯爵様のお亡くなりになっている奥様の娘さんで……?
あれ? でもルビアナはハルジェ伯爵家にいた頃のお養母様のお名前で、お養母様はピンピンしておられたと思うし?
あんまり会えていないから私が知らなかっただけで、実は体調がよくなかったのかしら?
んんんんんー? 頭がこんがらがってきたー?
「ソラウ様、どういうことなのでしょうか? 私、訳がわからなくなってきたんですけど……お養母様が侯爵様の奥様でセエラ様のお母様でお亡くなりになっている……? え、ええ? お養母様はお亡くなりになっているんですか?」
「落ち着け〜。要するにルア侯爵は君のお養母さんと浮気してたってこと。で、セエラ嬢は不貞の子ってこと。もっと言うと君のお養母さんは君を誘拐してきた聖女の里の聖女。調べによると君のお養母さんは後妻で、レーチェ・ハルジェとマルチェ・ハルジェは前妻の娘らしいよ」
「え……」
驚いてソラウ様を見上げた。
えっと、それは……つまり――
「お養母様が私を里から連れ出した聖女で、レーチェお姉様とマルチェ様の継母で、浮気しててセエラ様の実母ということですか!? 盛りすぎでは!?」
「一個も盛ってないよ。それよりも、侯爵ともあろう方が人妻に子どもを産ませるほどにのめり込むとはね」
嫌味たっぷりで侯爵様に向き直るソラウ様。
侯爵様はしおしおとまたその場に座り込み、項垂れると拳を地面に叩きつけた。
「あ、愛してしまったのだ……! 仕方がないだろう!」
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