第36話 迫るもの



 お城に行くのに一度屋敷に行くのかと思ったら、私を抱えたままソラウ様は杖を取り出して呪文と呟く。

 足元に魔法陣が現れて今度はなにが起こるのかと思っていたら、真っ白なドラゴンが現れた。

 目を丸くすると、そのままツカツカ頭を下げたドラゴンの首に跨る。

 え? 待って? 待ってください? まさか?

 

「そのまさかですかー!?」

 

 しかも騎士数人とロキア様、セエラ様、マーキア様も光の玉で囲みドラゴンの背に固定する。

 途端に飛び上がる、純白のドラゴン。

 聖魔法ってドラゴンをどうこうすることができるんですか!?

 っていうか、シニッカさんとオラヴィさんは置き去り!?

 あっという間に王都に入り、貴族街を超えて王城が見えてくる。

 これって迎撃されたりしないんですか、と思ったが、特になんのアクションもなく白いドラゴンは城門の中に降り立った。

 

「な!? ソラウ様!?」

「いったいどうされたのですか!?」

「シエレラの森に影樹が出現したという報告が今し方きたのですが――」

「もう伐採した。それに伴う報告で国王陛下に一秒でも早く報告するべきことがあるから呼び出して。国の存続に関わる」

「え!? は、は、い! すぐに!」

「そらと、王子殿下とナントカの令嬢は別々の部屋に入れて出さないように。あとで中にあるものを浄化しないといけない。他の聖治癒魔法師ではダメ。国王陛下の判断が出るまでは閉じ込めておくように」

「え? は、はい。わかりました」

 

 サクサクと集まってきた騎士様たちに指示を出して、私を抱えたままドラゴンから降りると「もう立てるでしょ」と言ってきた。

 どういう意味なのかわからないまま地面に下ろされると、ちゃんと自分の足で立つことができる。

 あれ? さっきまで力が入らなかったのに?

 

「聖魔力を少しずつ流し込んでたから、歩くくらいは大丈夫だろう。このまま国王陛下に面会して、君のことも含めて今回の遠征の結果を報告する。元々なにもなくても明日には報告に来る予定だったし問題ない」

「そ、そうなのですか」

「本当は君に国王陛下を会わせるのは君の意思を聞いてからにしようと思っていたんだけれど、今君を目の届かない場所に置いて置けない。だから名乗り出る必要はないけれど今は俺の近くにいて」

「う……は、はい」

 

 本当は今ソラウ様の側にいるのが緊張するというか、バタバタしたくなるというか、走り出したい衝動が大変というか!

 でも、隣にいてもらえることが嬉しい。

 私のことを気遣ってくれているのが伝わってきて胸がムズムズする。

 いったい、私はどうしてしまったんだろう?

 相変わらず顔が熱い。

 さっきまで不通だったから、熱が出たわけではないと思う。

 ソラウ様が近くにいる時だけ? どうして?

 

「ソラウ様、そちらの女性は?」

「俺の弟子」

「では、その肩が最近話題の祝石ルーナ細工師の……!」

 

 城内に入ると城の衛兵がつき添うように一緒に歩いてくる。

 そこで私のことを、ソラウ様は弟子として紹介してくださった。

 しかし、私って話題になってるの? どんな話題? なんか怖いんですが……。

 

「お、おい、ソラウ殿! 我々を浄化するという話は……我々はなにか呪われているのか……!?」

「――マーキア、ロキア殿下につき添っておいて。ナントカっていうその令嬢も部屋から出さないようにね。なんならその令嬢は地下牢でもいい。影樹を生み出したのはその女だから」

「は、あ!?」

「落ち着いてください、ロキア様! とにかく殿下はお部屋でお待ちください! お、叔父様! あとで絶対に来てくださいよ!?」

「わかってるよー」

 

 ドラゴンから下りてきたロキア様のことをあしらって、迷いなく進んでいくソラウ様。

 そういえばロキア様とセエラ様には浄化が必要、とおっしゃっていたけれど……なんの浄化だろう?

 

「ソラウ様、陛下がお会いになるそうです。会議室へお越しください、と」

「二階東ね。こっち」

「は、はい」

 

 私の歩幅に合せてくれているけれど、ソラウ様は立ち止まることなく廊下を進み階段を上る。

 一緒に来る衛兵の数も増え、とある大きな一室の扉の前にたどり着くとソラウ様はなんの躊躇もなくその扉を開いた。

 中にいたのは数人の貴族と、王冠を被った男性。

 言われなくても偉い人しかいないというのがわかる。

 扉の脇の壁に移動して、押し黙った。

 ダメだ、ここは。私が口を開いていい場所ではない。

 

「突然の申し出に対応していただきありがとうございます、陛下」

「うむ……確かに突然であったが――そなたが国の行く末を左右する事態とまでいう話、聞かせてもらおうか?」

「実を言えば明日報告予定でしたが、影樹の出現でちんたらしていられないとわかりました。ルア侯爵家に人を送って、侯爵と侯爵夫人を捕え、屋敷を探させてください。もはや無関係で言い訳が通るものではない。侯爵家が聖女の里から盗まれた光の神の宝具を持っている可能性があるのです」

「……一から説明せよ。そういうことだ?」

 

 それは本当に言葉足らず過ぎます、ソラウ様!

 ひやひやして見ていると、ソラウ様は昨日私にしてくださった話を簡潔に素早く、国王陛下たちに語って聞かせる。

 話を聞いた陛下たちの表情は、どんどん厳しいものへ変わっていく。

 

「それで、セエラ様が持っていたペンダントが光の神の宝具ということか」

「亡くなった母君の遺品と言っていましたが、持ち出した聖女が死んだというのならそれは今まで光の神の光が漏れぬよう保管を担当していた聖女がいなくなったということです。一刻も早く回収しなければ、王都の中で影樹が無限に生え続ける事態になります。今こうしている間にも、影樹が発現しても不思議ではない」

「な、なんだと!? へ、陛下! すぐにルア侯爵家へ騎士団を派遣いたしましょう!」

「う、うむ……し、しかし……」

「陛下! ご指示を!」

「ソラウ様のおっしゃる通り、国の存続にかかわりますぞ!」

 

 陛下を責めるように叫ぶ貴族の方々。

 光の神の宝具はあと二つ。

 確かに場所がわかっているのなら、早く回収しないととてもまずい。

 どうして陛下は歯切れが悪いのだろう?

 その理由は、険しい陛下本人からもたらされる。

 

「ルア侯爵夫人は存命だ。ロキアに紹介されたセエラ様は確か養女のはず。ソラウ殿の言う”亡くなった母君”とは実母のことだろう? まずは侯爵を呼び出し話を聞くのが確実ではないか?」

「――――」

 

 陛下がそう言った瞬間、貴族街に隣接する城壁が爆音を響かせた。



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