第33話 光の神の宝具(1)
「だ、誰ですか?」
こんな時に質問することではないのだろうけれど、マーキア様の叫んだ名前に聞き返してしまう。
マーキア様も目を丸くして「あ、王太子殿下と殿下と一緒に消えた女生徒」と教えてくださった。
ああ、あの二人がそうなんだ。
と、呑気に考えていたら枝がますます私とマーキア様の方に近づいてくる。
根本に閉じ込められているのは、王太子と、王太子殿下と消えた女生徒。
二人とも気を失って漂うように影樹の中に閉じ込められている。
苦悶の表情を浮かべているし、身動きが見えるので死んではいないと思うけれど……やんごとない身分の方が目の前にいるのなら、なんとか助けて差し上げた方がいいわよね。
でも、どうしたらいいの!?
このままだと私とマーキア様も取り込まれそう、だよね!?
「クロスライトニング・ジャッジメント!」
「ッ!? ソラウ様!?」
空からソラウ様が振ってきた。
私とマーキア様の前に着地した途端に、黒い枝は光の十字架に一掃される。
じゃら、という金属音。
私が作った腕輪が袖から見える。
使ってくれているんだ……!
「叔父様~~~!」
「鬱陶しいよ! なんで影樹が移動してるの、意味わかんない! 足でもついてるの、この影樹」
「叔父上、根元にロキア様と例の女の子が!」
「ハア?」
しがみつくマーキア様の顔を押しのけて、影樹の根元を見るソラウ様は目を見開いた。
私が恐る恐る「生きておられますよと聞くと「一応ね」とやる気なさそうに返事が来る。
そうこうしている間に周辺はまた新たに生えた黒い枝に囲われ始めた。
「ソラウ叔父様、ロキア様――と、セエラ嬢を助けないと」
「ああ、そういえば”聖女の血を引く聖女”とかいう触れ込みなんだっけ。聖女なら影樹を弾け飛ばすくらい余裕だろうに、それをできないってことはその程度なんだろうけど」
「え? 聖女?」
あのピンク色の髪の女の子は聖女なの?
聖女の血を引く聖女?
それって、もしかして私を里から連れ出した聖女の娘さんということ?
だとしたら、私の親戚?
「――――通りで。おかしいと思った。こんなところに影樹は生えるわけないもん。光の神の宝具の使い方を見誤ったね」
「え?」
しばしの沈黙。
もごもごと増えていく影樹の枝が、また大きく成長して私たちの周りをゆっくり囲んでいく。
ソラウ様はなにかをじっくり観察して、大きな杖を持ち直す。
その呟きに私とマーキア様は顔を見合わせたが、ソラウ様が見たこともない真面目な表情で杖を前方に構えたので押し黙る。
「清浄の風を纏い、清水を啜り、聖火で浄化され、聖域と成せ!」
ものすごい量の魔力が杖を伝って地面に流れ込むのが見える。
地面についた杖の柄から魔方陣が広がり、影樹を包み込むほどに大きくなるとソラウ様が杖を片手持ちになって影樹に向かって突き出す。
「リー・サンクチュアリ!」
魔方陣が連鎖して、空にまで広がったところでソラウ様が魔法真名を叫ぶ。
雲の間から差し込むような光のカーテンに包まれた影樹が、上から消えていく。
根元まで消えた影樹から、ロキア様と女の子が解放されて地面に倒れる。
マーキア様が慌ててソラウ様の後ろから飛び出し、ロキア様の無事を確認しに向かう。
「これだけ派手に[サンクチュアリ]を使っていればすぐに騎士も現着するだろう。リーディエ」
「は、はい?」
滅多に私の名前を呼ばないソラウ様に名前を呼ばれて、肩が跳ねた。
手を差し出され、なにも思わないままその手を取る。
私の手を掴んだソラウ様が少女の方に歩み寄った。
しゃがんでその胸元から、王冠の形をしたネックレスを持ち上げる。
「ソラウ様……? 未婚女性の胸元に未婚の殿方が触れるのはいかがなものかと!」
「違う違う、そうじゃない。見て、これ」
「ネックレスですね?」
「叔父様、そのネックレスがどうしたの?」
「聖女の里から盗まれた、光の神の宝具の一つだよ。それをネックレスに”細工”されている」
「「え!?」」
口を手で覆う。
この小さなネックレスが、光の神の宝具……!?
「聖女にしかできない加工だ。と、なるとやっぱりこの娘の母親は聖女の里から光の神の宝具と君を拐わかした、罪人聖女である可能性が高まったね」
「そ、そんな……」
「待って待って待って! どういうことですか、ソラウ叔父様。光の神の宝具だの、罪人聖女だの……」
「先に国王と父さんに報告する。でも、その前にこのまま聖域から出すとまた影樹が生まれてしまう。リーディエ、細工師としての仕事をお願い」
「は、はい。はい!? こ、ここでですか!?」
立ち上がったソラウ様に、光の神の宝具という王冠の形のネックレスを手渡された。
細工師として、仕事!? 工具もなにもないのに!?
あわあわしている私に容赦なく手渡されるネックレス。
でも、触れた瞬間「あれ?」と固まる。
これ、わかる。聖魔力が足りていない。
王冠の形がまだら模様になっているから、ここに聖魔力を注いであげて――
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