第20話 女子?男子?
文化祭。一年に一回行われる、今までの学習の生家と遊びを兼ねたお祭り。クラスの連中が浮足立つのもわかる。……が。
「今年は女装メイド喫茶でしょ!?」
「なに言ってんだ。ここは女子がメイドになってそれを眺めるのが文化祭ってもんだろ!」
(なにやってんだあいつら……)
この上もなく不毛な言い争いをしているクラス委員長と副委員長で戦争が勃発している。
内容は委員長は「女装メイド喫茶」で副委員長は「普通のメイド喫茶」だ。俺としては後者をぜひ応援したい。女装メイド喫茶なんて真っ先に俺に白羽の刃が立ちかねないからだ。
自分の中性的な容姿は自覚してる。だからこそ、自分がなるんじゃなくて可愛い女の子がなっているところが見たい。そのためにこの二か月間紳士ぶって生活して勉強してきたのだから。
クラス委員長と副委員長のにらみ合いは終わりそうにない。そろそろ仲介に入ろうか、と思ったとき、イベルテが間に割って入った。
「待って待って! 委員長様、副委員長も、少し頭を冷やしましょう。ここは、私たち女子がメイドになれば盛り上がるし華もあると私は思います」
「イベルテ! 私に逆らうの!?」
「そうだよなあ、イベルテ様。男がメイドになるところなんて誰が見たいんだよって」
「はあ!?」
「まだやるんですか!?」
クラス委員長は公爵家の出身だ。逸れに負けじと食いつく副委員長には敬意しかない。俺なら後々のことを考えて従っていただろうから。
「ほら、言い争わない。女子で反対の人いるー?」
「ボクはいいよ! 楽しそうだし、女の子の格好普段あんまりできないから……」
「わ、私はいいと思います。だってアピールできるし」
何をアピールするのかは知らないが、賛成意見はあっても反対意見はないようだ。何よりである。
「ちっ」
あ、委員長今舌打ちした?
「……しょうがないですね。反対意見がないので、普通のメイド喫茶でいきます」
「うおおおおお!」
「やったぜ! 女子のメイド服ー!」
喜びをあらわにする副委員長と男子たちがハイタッチをしていく。俺のところにも回ってきて、俺はハイタッチをした。カインも嬉しそうで、俺からのハイタッチを受けてくれる。
「一時はどうなるかと思ったけど、普通に文化祭を楽しめそうで安心していた。カインが口を開く。
「僕としては、君のメイド服は見てみたかったなあ」
「なっ……!?」
「あ、勘違いしないで? 変な意味じゃないから。似合うだろうなあと思って」
「そりゃ俺はどっちかといえば女顔だけど、そのためにスネ毛剃らせる気かお前は」
「それは確かに見たくないね……」
さすがのカインもちょっとげんなりした顔をした。そうだよ、それでこそ男子だよ。女子のメイド服、楽しみだなあ。特にイベルテたちのメイド服は眼福だろうし。
そんなことを考えているとき、ぞくりとした気配を感じた。振り返ってみても、そこには壁があるだけで何もない。
「……キルト」
「ああ。何か学園内に入ってきた」
「今すぐ討伐する?」
「俺はできるけど、お前は木刀しか持てないだろ。危険だ、行動を決行してくるまで泳がせよう」
「そこ! 何をこそこそ話しているの!?」
「ってこいつが言ってました!」
「僕!?」
突然話を振られて俺はとっさにカインを生贄にした。すまないカイン。これも学園内に入ってきた何かのためなんだ。
「……まあ、カインなら許します。次は気を付けるように」
「あー! ずるいですよ委員長! 顔面で判断するの禁止です!」
「うるっさいわね! ロミオとブリギッタ舐めてんの!?」
ロミオとブリギッタとは、日本で言う光源氏みたいなもんだ。どこの世界でも似たような物語が語られているんだなあ、と初めて読んだときは思った。
それはいいとして、俺は気配を探る。今暴れられたら本当に困るからだ。
気配は中庭にしばらくとどまったかと思うと、忽然と姿を消した。
なんだろう。この行動既視感がある。
そうだ、ギアーズオブデスティニーでの文化祭イベントだ。三年経って力もついた俺ことキルトがカインに勝負を挑みに来るイベント。そのカインは親友となって隣にいるから、また迎えにきたか抹消しにきたかのどっちかだろう。
面倒なことになりそうだ。先生に説明するわけにもいかないし、カインたちもできるなら巻きこみたくない。俺一人でもう十分倒せるはずだ。
でも、万が一もある。カインくらいは連れて行ってもいいかもしれない。他五人は危ないから、隠れていてもらおう。今度こそ前みたいに無茶をさせないために。
「それじゃあ、先生に許可とってくるから。採寸は裁縫特異な人に任せるわ。男子、間違っても胸とかお尻とか触らないように」
「触ったら委員長に殺されるんでしませんよ……」
ふん、と鼻を鳴らして委員長はクラスを出ていった。それを見送った男子と女子がぶつかりあう。
「第一、男子全員メイドになれなんて言ってないじゃん。そこはキルトくんとかそのあたりがすればいいだけで」
「はあ? お前らそう言われるキルトの気持ち考えたことあんの? あいつ顔は確かに女顔だけど男だぞ?」
中には俺に告白してきたやつもいたくせに何か言ってやがる。でも今回は味方してくれるなら不問に伏そう。
にしても、さっきから聞いてても俺が女装する前提なんだけど、何か狂ってないか? 俺は男で、ちょっと女顔なだけでぱっと見で男とわかるレベルだ。そんな野郎のメイド服見ても何も楽しくないだろうに。
ああ、そうか。女子の中には腐ってるやつもいるもんな。そいつらからすれば俺は格好の的というわけだ。……まさかカインも腐ってないよな? さっき結構塩対応だったから大丈夫だと思うけど。
「はあー? そっちこそキルトくんの何がわかるっていうの? 可愛いは正義なんだよ?」
「男にとっては可愛いって言われるのが屈辱なんだよ、いい加減分かれ!」
男女の言い合いが激しくなってきたので、そろそろ止めなくては。当事者の俺が止めれば落ち着くだろう。
まったく。俺はため息をついて男女の間に割って入っていった。
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