第18話 イベルテの仇

 予想通り中央で戦っていたもう一チームは消耗していて残り二人しかいなかったので、ありがたく俺がいただいた。


 息が上がっているもう一チームのメンバーは女子で構成されており、羨ましい限りだ。カインがいなければ知らない女子を入れてハーレムできたのに。


「質問があるんだけど、いいかな?」

「な、なによ……」

「もう一チーム残ってるはずなんだけど、詳しいこと知らない? 俺たち最後に戦場に入ったから状況がよくわからなくて」


 俺が前に出ると、女子生徒たちは顔を見合わせて頷く。な、なんだ。なんかあったのか。


「戦場に入る前、キルトくん狙いだって言ってたよ。なんでも女の子を取られたから復讐してやるんだって」


 あいつらか! イベルテに手を出そうとして俺が追い払ったやつら。確かにこの二チームの中にその姿はなかった。


 じゃあ、男女混合チームか。そんなクソ野郎に幼馴染のイベルテを渡すつもりは毛頭ないが、そいつらが残ってるなら俺は全力を出すしかない。


「イベルテ」

「な、なに?」

「お前の屈辱を晴らすときが来たみたいだぜ。ほら、戦場に入る前に絡んできた男たち。あいつらのチームらしい。ペアはもちろんイベルテに変更だ。魔法の準備、できてるよな?」

「う……うん! もちろんよ!」


 イベルテは顔をぱあっと明るくさせて頷いた。アルトリアはふふ、と笑うと俺の隣から離れる。なんだかずいぶんおとなしいな。いつもならここで喧嘩が始まりそうなもんなのに。


 アルトリアの代わりに俺の隣に立ったイベルテは、アルトリアがしていたように俺の手を握って笑った。


「こんなふうに手を繋ぐのは幼いころ以来ね」

「今でも十分幼いと思うけど……」

「もう! そこはそうだねってかっこよく言うところでしょ!」

「そ、そうだね」


 イベルテの勢いに押されて言ってはみたものの、これでいいのか? なんか情けない気がしないでもないけど。


「さあ! 残り一チームも倒すわよ! みんな、ついてきて!」

「その必要はないぜー」


 上からの声を見上げると、木の上に七人、ペイントボールを準備してにやにやと笑いながら見下ろしてくる七人がいた。


 俺の魔眼が分析をする。身体能力向上の魔法を全員かけられている。下手に刺激すれば負けるのはこちらだ。


 それにしても、気を取られていたとはいえここまでの接近を許すなんて。とんだ失態だ。魔眼持ちが聞いて呆れる。


 だが、俺には分析がある。魔眼を見開いて七人の身体強度を見る。イベルテに絡んでいた三人が一番強く、他は魔眼を発動した俺以下だ。そんなに焦る必要はない。


「どうした? イベルテが恋しくなったのか?」

「仲良さげに手ェ繋いじゃって、俺たちに見せつけてる? そういうところが最高にイラつくんだよ。その子をこっちによこして、おとなしくやられろ。いくら試験一位といってもこの人数相手は無理だろ?」


 舐めくさってくれるな。俺の魔眼もおとなしくしているから舐められていると見た。本気、出してもいいかもな。


 俺はイベルテの手を離して魔剣を創造する。そして身体能力をマックスまでブーストし、瞬時に七人が乗っていた木の根元を切り裂いた。


「う、おおおおお!?」


 どしん、という重い音を立てて倒れる木から飛び降りてきたところを魔剣を持って迫り、喉元に当てる。命を取るつもりはない。相手が混乱して変に暴れなければだが。


「リーダー!」

「この……っ!」


 倒れた木から復帰してきた他のメンバーが俺に向かってペイントボールを投げる。俺はそれを縦に瞬時に斬って液体を左右に分かれさせ、リーダーとやらにペイントボールをくっつけることに成功する。


「はい、脱落」

「お前ら、何やってる! こいつはもう無理だ、他のやつを狙え!」

「……まあ、野蛮でいらっしゃるのね。それならわたしも、多少野蛮になりましてよ?」


 シルヴィの魔法の花が何個か地面に落ちる。茎の部分から根が侵食していき、残りのメンバーの足を絡めとる。


「な、なにこれ!?」

「と、取れねえ!」

「それじゃあさよならってことで! えいっ!」


 ターニャがボールを二個投げて二人脱落させる。


 魔法の根っこをなんとか引きちぎって解放された残りのメンバーがペイントボールを構える。サリナはそれを見て泣きそうになりながら杖を使って風を呼ぶ。


「風さん、助けてええええ!」

「ペイントボールが!」

「うそ!? 何が起こったの!?」


 大商人の娘であるサリナは世界各国を旅するうちに、風の精霊と契約を済ませているはずだ。風を自在に操れるのもそのため。ギアーズオブウォーでは終盤に覚醒する大器晩成型である。


 弱気な言動から放たれる精霊との合体技が強いんだよなこれが。今のサリナは精霊を怖がっていて十分に力を引き出せていないけれど。


 アルトリアが空中に舞い上がったペイントボールを炎魔法で塵も残さず燃やしたところで、イベルテがペイントボールを取り出して一人にボールをぶつける。ナイス判断!


「カイン!」

「わかってる!」


 逃げ始めた残りの三人をカインが追い、ペイントボールをぶつける。これで全滅だ。


「嘘だろ……身体能力向上魔法もかけてたんだぞ……」

「俺たちに勝つにはまだ何年か早いってこと。みんなおつかれ! ナイスプレーだった!」

「キルトこそ、本気出して大人げないったらないわ。……でも、助かった。ありがとう」


 そう言ってイベルテが俺の頬にキスをしてくれる。


 う、うおおおお! 幼馴染とはいえ女の子からほっぺちゅーもらったぞ! しかもイベルテは気が強めな顔をした美少女。そんな子からのほっぺちゅーは貴重だぞ!


 他の四人とカインが固まっている。なんだ、どうした。他の四人は気持ちがわかるとしてもどうしてカインまで固まる必要がある?


「こ、この女たらしー!」

「常々そうだと思っておりましたが、ここまでとは……」

「え? ずるくない? あたしもほっぺにキスしたい」

「は、ハレンチですよ! ほっぺにキスなんて、その、恋人がするものであって……!」

「この時ばっかりは、人たらしも度がすぎると僕も思うな」


 な、なんだよ。幼馴染のキスがそんなに珍しいか? そりゃちょっと浮かれちゃったし顔もほんのり熱いけど、頑張ったご褒美にふさわしいと思うけどな。


 そんな俺を見て、リーダーは立ち上がった。素早く俺のほうに走ってきて、拳を俺の顔面に繰り出す。


 そこまでされては、これは正当防衛だ。俺はリーダーの拳をかわすと、鼻っ面に拳を叩きこむ。


 リーダーは鼻血を出しながら後頭部から倒れる。地面に落ちている葉っぱがクッションになっているだろうから急いで先生に報告する必要はないだろうが、これは怒られるな。


「あと抵抗しておきたいやついる? 受けて立つけど」


 沈黙が降りる。どうやら、リーダー以外に俺に逆らおうとする人間はいないらしい。


「よっし。俺がリーダーとやらを支えるから、みんなで先生がいるところに戻るぞ。派手に木を切っちまったし、謝らないとなあ……」


 俺は魔剣を魔力に戻して消滅させると、気絶しているリーダーの肩を支えた。カインは何か言いたげだったが、黙って他のメンバーが隙を見て暴れないように一番後ろからついてくる。


 俺たちは見事実戦訓練で優勝し、単位を多めにもらえた。


 その日の晩は先生たちが作ってくれたシチューとパンに舌づつみを打ち、今晩は夜這いもなく静かに眠りに入った。


 明日の自由行動、どうしよう。五人と遊ぶのは確定として、そのコースが問題だ。近くにある湖で釣りもいいし、森の中を迷わない程度に探検するのもいい。


 今回は気分もいいから、カインのやつもいていいだろう。何気に功労者だし、それをハブくのはどうかと思うから。


 ああ、明日が楽しみだ。そんなことを考えているうちに、俺は深い眠りに落ちていく。

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