第17話 実戦訓練開始

 俺たちはチームになり、武装を先生からもらって森の茂みに入っていった。


 先に全チーム入っていっていたから、俺たちはそのぶん不利だ。どこから狙われているかわからない。


「どうする? これから」


 小声で呟く。茂みに隠れながら進んでいくと、アルトリアが口を開いた。


「気配遮断の魔法なら弱くてもいいなら使えるけど」

「本当か!? それなら使ってくれ」

「おっけー」


 アルトリアは空中に指で文字を書くと、虹色の粉が俺たちを包む。それが消えたと同時に、みんなの気配が薄くなったのを感じる。


「制限時間は十分。それまでに全部のチームを退治できないと私たち反動ですごく目立っちゃうから」

「十分あれば余裕だろ」


 俺には自信があった。今ごろ各チームで潰しあいが起こっているころだ。俺は魔眼を発動し、周囲の分析を始める。


 北東に一チーム潜伏していて、中央で二チームが戦闘中。もう一チームは不規則に動いているから迷子にでもなっているのだろう。


 いや、そう見せかけて奇襲を仕掛けてくるかもしれない。魔眼で常に場所を把握しながら動く必要がありそうだ。


「音はあまり立てないように。俺の魔眼で位置把握してるけど、他のことに気を回すと途切れちゃうからな」

「はーい」


 アルトリアはわかっているのかわかっていないのか、カインよりも前に立ってゆるい坂道を降りていく。そして坂を下りきった少し先の地面に片手を当てると、どふん、という音がして人が三人くらい入りそうなほどの大きな穴ができる。


「おい、アルトリア。げほっ。大きな音を立てるなって……」

「落とし穴だよ、落とし穴。こういうところに設置してあるもんなんだよ。小さいころそれに引っかかったの忘れた?」


 想えば、六人で遊んでいたときにアルトリアが魔法で作った落とし穴にはまって怒ったことがあったっけ。すぐに近くの大人に救い出されて事なきを得たが、あのときの屈辱は忘れがたい。


「忘れてない。……まあ、アルトリアがトラップ処理してくれるなら、今のところのパートナーはアルトリアかな」

「……っ! そ、そうでしょ! これでも宮廷魔術師の家系だからね!」


 アルトリアはない胸を張って自慢する。それを笑って流していると、俺のセンサーに一チーム引っかかった。


 アルトリアを庇うように抱きしめて落とし穴に落ちない方向に倒れる。俺たちがいたところはペイントボールでべちゃべちゃになっていて、もう少し感知するのが遅れたら二人とも脱落していたところだった。


「ちっ。キルトかよ!」

「どうせ魔眼で俺たちの気配探ってたんだろ。キルトは魔眼なけりゃたいしたことないから」


 何だと。今、なんと言った。


 確かに俺の強さは魔眼に裏付けされたものも多い。でも小さいころから鍛えてきて身体能力は同年代以上だと自負しているし、剣の腕も魔法も自分で会得したものだ。


 言い返してやろうと口を開きかけたとき、カインが俺の前に立つ。な、なんだかすげー怒ってないか? お前が悪口言われたわけじゃないんだぞ?


「今のを取り消せ」

「やーだよ。おらっ! ペイントボールくらえ!」


 カインはペイントボールの間を縫って一人に近寄ると、懐に忍ばせていたペイントボールをぶつける。これで一人脱落だ。


「みんな! 今だよ!」

「なんだかわかんねーけど、カインナイス! アルトリア、立てるか?」

「う、うん」

「お望み通り、魔眼でぶちのめしてやるよ! オープン!」


 俺は魔眼を発動させ、身体能力を上昇させる。そして高く飛び上がり、懐に忍ばせていたペイントボールを何個か取り出して高速で木々の間に隠れている他のメンバーにペイントボールを的中させる。


「なんだよそれ、卑怯だろ!」

「こんなところに落とし穴こしらえて袋叩きにしようって魂胆も十分卑怯だがな!」

「ペイントボール、飛んでけー!」


 サリナが風魔法でペイントボールを自在に操り、逃げ出していた残りのメンバーにペイントボールをぶつける。ナイスフォロー!


「なんだよ、なんだってんだよお……」

「だからやめようって言ったじゃん。魔眼持ちに落とし穴一つで挑もうなんてさ」

「俺たちの勝ちだな。サリナ、ハイタッチ!」

「は、はい! はいたっち!」


 サリナは緊張と高揚感からか舌足らずになっていたが、ハイタッチは普通にできた。サリナが活躍してくれて俺は純粋に嬉しい。ハイタッチをして気まずそうにもじもじして顔を赤くしているのも可愛い。初心なんだな。


 カインはまだ怒っているようで、目の前で腰を抜かしている男子の胸倉を掴んでぎりぎりと持ち上げている。


「ひっ、ひぃ……!」

「キルトに言った暴言を取り消せ」

「カイン! そんなこと俺は気にしてないからさ、離してやれよ。怯えちゃってるじゃん」

「でも……」

「俺が気にしてないんだから、カインがそこまで怒る必要はないってわけ。他のみんなはやられてない?」


 後方にいたイベルテたちが頷く。みんな無事だ。ペイントボールの一滴もついていない。


 俺はそれにほっとして、まだ胸倉を掴んでいるカインの手を離させると話しかける。


「なあ、聞きたいことあるんだけど」

「な、なんだよ。お前なんて怖くないぞ!」

「そういうことじゃなくてさ、他の三チームのこと教えてくれない? 俺たち、さっき戦場に入ったばっかりなんだよね」

「誰がそんなこと……」

「聞こえなかったのかい? こちらが聞きたいと言っているんだ。答えろ」


 お前まだ怒ってんのかよ。怖すぎだろ。こいつの親友やってて大丈夫かな俺……。


「ひっ! い、言う! 言うから! 睨むなよ!」

「最初からそう言っていればいいんだよ。で、どうなの? 何か知ってる?」

「今戦ってる連中はよく知らない。順当にぶつかって今も戦ってる。わからないのは、今もそこらへんをぶらついてるやつら」

「ぶらついてる?」


 ぶらついているというのはどういうことだろう。優勝すれば大きく単位をもらえる実戦なのに。漁夫の利を得ようという魂胆か?


「俺たち、そいつらと会ったんだ。戦いを仕掛けたんだけど、素早い動きで逃げていった。何か目的がありそうだぞ」


 ふむ。その情報を信じるなら、狙いは俺たちという可能性もあるか。注意しておくことに越したことはない。


 俺の魔眼のセンサーから中央で戦っていた片方のチームの反応が消えた。辛くも勝利したというところだろう。こちらは万全だ。叩くなら今しかない。


「貴重な情報ありがとな。じゃ、俺たち行くから。先生によく拭いてもらえよ」


 俺はそう言ってアルトリアの手を引いて中央に向かって歩き出す。アルトリアが声にならない絶叫をあげた気がしたが、気のせいだろう。……もしかして俺、意識されてる?


「ずるいですわアルトリア! お待ちになって!」

「そうだぞ! ボクも負けないんだから!」

「サリナ、行くわよ。こうなったキルトは行動が早いから」

「は、はひ……!」


 四人の後をついてくる形でカインがついてくるのを確認して、俺はアルトリアの歩幅も考えながら中央に歩いていった。

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