第16話 パーティ分けとハグ

 朝食は軽く卵と葉物野菜のハムのサンドイッチだった。それを胃に入れ、武具を渡されて先生の前に座らされる。


「今日は昨日宣言した通り、この森を使ってのサバイバルをしてもらいます。攻撃方法は簡単。このペイントボールを使ってぶつけられた人は脱落。最終的に残ったチームの勝ちとします。人数的に七人一組ね。それが五チームだから、みなさん決して炎魔法を使ってはいけませんよ。使ったら場合によっては失格です」

「先生、質問が」

「はい、なんでしょう」


 カインが手を上げて質問する。


「七人とありますが、これは先生方が決める組み合わせですか?」

「いいえ、自由に決めて構いません。チームワークも必要ですからね。気の合う仲間と戦いに臨むのもいいでしょう。けど、仲間外れとかそういうのはいけませんよ」


 女性教師は話し終わると、手を二回叩いて促してくる。


「さあ、パーティーを組んで! 仲間外れは許しませんよ!」

「昨日の手筈通り、あの五人と組もう。これで最強パーティ間違いなしだよ」

「違いない」


 おお、珍しくカインが五人のこと忘れてなかった。これは願ったりかなったりだ。大幅な戦力増強だけでなくやっと女の子と一緒に戦える!


 意気揚々と立ち上がって周囲を見回して、俺はある一点を見た。


 イベルテが男子三人組に捕まって嫌な表情をしている。さっそくナンパならぬ引き抜きの始まりか。


 イベルテを引き抜かれるのは困る。アルトリアに劣るとはいえ、貴重な多属性魔法の使い手だ。何より俺の大切な幼馴染である。困っているとあれば助けるのが普通だろう。


「おい」

「ん? ああ、キルトか。何の用だ」

「イベルテ、嫌がってるだろ。その手を離せよ」


 一人の男子生徒が嫌がるイベルテの手首を掴んでいる。イベルテも先生が見ている手前人間に魔法を使うわけにもいかず、力の差で抑え込まれているのだろう。


「あ? イベルテちゃんといっつもいる女顔野郎じゃねえか」

「お前も仲間に入れてほしいなら考えてやらなくもないぜ? 顔面はかわいいしな」

「これが本当の両手に花ってやつ? まあ野郎なのが気に入らないがな」


 なんだこいつら。こっちが黙ってればいい気になりやがって。


「キルト、助けて……」


 あの強気なイベルテの声が震えている。俺はイベルテの手首を掴んでいる男子生徒の力の上をいく力で腕をぎりぎりと握る。


「いってええええ! なんだよお前! 離せよ!」

「それなら先にイベルテの手を離せ。そうしたら離してやるよ」

「わ、わかった! わかったから! ほら、こうすればいいんだろ!」


 イベルテの手首には、強く握られていたのだろう。ほんのり赤い跡がついていた。俺が舌打ちをすると、男子生徒三人は逃げるように去っていった。


「き、キルト、ありがとう」

「当然だろ、幼馴染なんだから。それがいじめられてたら助ける。これ普通だろ」

「キルト……」


 イベルテの目から涙がこぼれて抱き着いてくる。俺はそっと抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてやった。


 するとイベルテは背中に手を回してきて、ぐすぐすと泣いている。ああ、昔こんなことがあったっけ。


 昔、まだ四歳くらいのときに近くの貴族の子にいじめられて泣いていたのを俺も大人げなく魔眼を使って返り討ちにした。そのときもイベルテは多くは語らず抱きついて泣くだけだった。


 懐かしいな。あれからもう五年経つのか。根本の部分は変わってないらしくて、俺は安心する。


 すると、背後から肩を叩く手があった。俺は恐る恐る振り返ると、とってもいい笑顔のカインがそこにいた。ただ笑ってるだけなのに怖いのはなんでだろう。


「キルト、イベルテが傷ついてるのはわかるけど、見せつけてくれるじゃないか」

「お、負け惜しみか? おあいにく様、出会って数か月のお前とは年季が違うわけ。イベルテは俺の大事な幼馴染。いくらカインでもこれだけは譲れないな」


 朗らかな笑顔がもっと朗らかになった。なんだろう、怖い。たぶんカインのことだから仲睦まじい様子を見て笑ってるだけなんだろうけど。


 向こうから四人組もやってくるのを見て俺は泣き止み始めたイベルテを離して四人を出迎える。


「イベルテ!? 泣いてるじゃん!」

「どうしたの? 誰かにいじめられたの!? それならボクがとっちめてくる!」

「まあ、なんと痛ましい……。不届き物を教えてくださらない? レディの扱いとはどういうものかを叩きこんで差し上げませんと」

「イベルテ様、大丈夫です……?」


 こういうときの女の結束は強い。俺も前世で嫌というほど味わってきた。でも今はこれでいい。サリナがポーチからハンカチを取り出してイベルテの涙を拭いてあげている。


「ぐす。だ、大丈夫。他のみんなこそ、足引っ張ってごめんね。二人に合流しに来たのに」

「しょうがないよー。そのぶん実戦で暴れちゃお!」

「え、ええ! そうね! 私たち七人が揃えば敵なしだものね!」


 イベルテも励まされてようやく元気が出てきたのか、いつもの彼女に戻りつつある。


 俺は微笑んでその場を離れようとしたが、怖い笑顔をしているターニャに手首を掴まれる。


「え……?」

「イベルテがいじめられてるから助けるのはいいとして。抱きしめるのはやりすぎなんじゃないかなぁ?」

「だ、だって泣いてたし」

「わたしも今すぐにでも泣きそうですわ。昨日と同じく抱きしめてくださる?」

「えっ、ちょっとそれは」


 泣き真似をするシルヴィに俺がたじろいでいると、他のみんなも泣き真似を始めた。


 結局、みんなをハグして回って落ち着いてもらった。カインがそれを笑顔で見ていたのがいまだに怖い。なんだったんだろう。あれ。

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