第8話 原作主人公は眩しい
後日俺はみんなと王城に招かれ、陛下から勲章を賜った。よくやった、と大きな手で撫でられて、頑張ろうと思えた気がする。
それからみんな忙しい間を縫って王城に集まっては庭で遊んだ。王城で出されるお菓子は格別に美味くて、自分もいいものを食べているはずなのにここまで違うのかと愕然としたことすらある。
そんなことをして過ごしていたらあっという間に三年。ノース兄さんは家督を継ぐために領地に赴き、本格的な経営と運営を学び始めた。屋敷に帰ってくるのは年に一回。兄さんの誕生日の前後三日間だけだ。
いつもいてくれた人がいなくなって寂しいと思うこともある。だが、俺にはみんながいる。両親だってメイドたちだっている。兄さんは兄さんなりに頑張って、いずれ戻ってきてくれるだろう。
ここからは俺の個人的な認識だが、俺は男女問わず無意識に好感度を上げているらしい。
いじめられている女の子を助けたり、悩んでいる男の子の悩みを聞いてあげたりしてたらいつのまにか好かれて、中性的な容姿も相まって、さすがに女の子のほうが圧倒的に多いが告白されるようになったのだ。
そこで俺は改めて自分の容姿が優れていることを知る。ノース兄さんは美形だった認識があったからいいが、俺にまでその余波が来るとは……。
「かわいいからいい」
と言われる屈辱の何たることか。この世界に整形技術があるなら顔を普通に戻したい。
国立聖モンドル学園に入学した俺たちは全員同じクラスになり、ときに喧嘩し笑いあいながら過ごしていた。みんな優しいから、俺も優しくし返す。そうすると友情がさらに深まって、お互いが大事な存在になっていくのが嬉しかった。
昼休みの机に突っ伏してそんなことを考えていると、肩を叩かれた。顔を上げると、そこは俺以上に顔の整った金髪碧眼の美少年が立っている。
「や。機嫌が悪そうだね、キルト」
「お前はいいよな。いっつもキャーキャー言われてて」
「それはキルトも同じだと思うけどなあ……」
「俺は男の声援なんて欲しくないの! 女の子だけがいいの!」
するとカインはけらけらと笑った。俺は鼻を鳴らして机に突っ伏す。
カイン・エールゴードン。この世界の主人公であり、いずれ魔王を倒す男だ。俺の憧れの主人公であり、よき親友。ポジションはそんなところ。
こいつはとにかく顔も性格もいい。完璧超人だ。剣技もそれなりにできるし、とにかく主人公だからかモテる。俺とどっこいどっこいだ。
主人公らしく正義感が強く、曲がったことが嫌い。弱きを助け強きをくじく。それを地でいっているカインがモテないはずがない。
「あ、カインだ。なにしてるの?」
「ターニャか。キルトのお守りをしてたところだよ」
「……お守りってなんだよお守りって」
「あれ? キルト機嫌が悪いの? 頭撫でてあげるから元気出してよー」
ゆっくりと撫でられると気持ちいい。女の子の柔らかい手、万歳。
「ターニャ、どうしたの?」
「キルト機嫌悪いんだって」
「えー。キルト大丈夫だよ。あたしたちはキルトのこと応援してるから」
「そうです。カインさんより前に出会ったあなたを放っておけません」
「またカインが告白されたからって機嫌悪くしてるの? 私たちがいるじゃない。ほら」
俺の机を四人が囲み、イベルテが手を差し出してくる。それを取ると、じんわり熱が伝わってくる。心地いい。
「キルト、またカインに意中の女性を取られたのですか?」
「な、なんで知って……あ……」
「あれ……。僕、知らない間にキルトを失恋させてた?」
「そうだよ! お前に告白した子がちょっと気になってたんだよ! 美少年は嫌いだぁ……」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
カインがやはりけらけらと笑う中、他の五人がなぜだか凄んでいる。あ、あれ? どうしたのみんな。
「キルト、好きな子いたの?」
「こんなに女子が近くにいるのに?」
「いや、近いからこそそういう気分になれないっていうか……。みんな大事な友達だからさ」
「ふーん。へー……」
「な、なんだよ」
女子たちの視線が怖いと思ったら、みんな鞄から何か取り出そうとしていたのを隠した。なんだ、何かくれる予定でもあったのか?
「なあ、なんだよそれ」
「鈍感なあなたにはあげませんわ」
「えっ」
「シルヴィ殿下の言う通り。女の敵に与えるものなんてないわ」
「イベルテまで!?」
なんか俺がふて寝してた原因が悪いみたいだけど……。普通失恋したら落ちこまない? 女子は恋は上書きというからわからないのか?
「はあ。これからはカインと仲良くしようかしら」
「そこまで!?」
「冗談よ。でも身近な女性を敵に回すと怖いのよ。それはよく覚えておくように」
「はい……。ごめんなさい……」
なんでかはわからないが、女子軍に怒られているらしいのでしゅんとしておとなしくする。それを見たカインが大笑いをして俺の背中をバシバシ叩く。
「あっはっはっはっは! 残念だったね、キルト」
「まだ終わりじゃない!」
「次は実技の授業だ。そろそろグラウンドに行かないと先生に怒られるぞ」
「げっ……」
そういえばそうだった。実技の先生、めっちゃ怖いんだよな……。
カインと邂逅したことでゲームが動き出した。イベント通りなら、ここで俺はカインと当たり負けるはずだ。そうしてカインをライバル視して、どんどんドツボにはまっていく。
だが俺はすでにカインの親友だ。負けたらやっぱり悔しいが、親友に負けるなら悪い気はしない。それに俺の魔眼も自在に操れるようになった。勝つビジョンはあっても、負けるビジョンはない。
俺たちは運動着を持ってそれぞれの更衣室に入り着替えると、グラウンドに面している一階の大きなガラスの扉からグラウンドに出た。
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