第9話 カインと試験
グラウンドではすでに実技の先生が待っているところだった。だが、今回はなんだか様子がおかしい。
先生の前に台があり、先生はクリップボードを持って傍らの第二インクとペンを置き、何やら試験か何かをするらしい。
「来たか。こっちまで来て二人一組になれ。これから実技試験を行う」
「えっ……。実技試験、ですか?」
「サリナは実技苦手だったな。だが今後のためだ。鍛えておけば将来商談で揉めたときに使えるかもしれんぞ?」
そう言われるとどうにもできず、サリナはイベルテとペアを組んだ。ああ、ボコボコにされるぞありゃ。
どんどんペアが出来上がっていく中、肩を叩かれる。振り返ると、そこにはやはり眩しい顔面の野郎がいてうんざりする。
「キルト。俺とペアを組もう?」
「なんでだよ。他にもいっぱい残ってるだろ」
「俺はキルトくらいの実力者じゃないと不完全燃焼になっちゃうからさ。ね、俺を助けると思って」
両手を顔の前で合わせてウィンクされると、なんだか毒気を抜かれてどうでもよくなってしまう。俺も弱者をいたぶって勝っても面白くないしな。
「わかった。ペアになる」
「そうこなくっちゃ」
俺たちで最後のペアだったらしい。先生が俺たちを見たあと、ペアになった全員を見る。
「今回は今まで教えた実技の基礎を忘れていないか見る試験だ。相手に過度な怪我を負わせるのは当然失格、単位に入らなくなるばかりか停学処分も待ってるからな。ちゃんと手加減して戦えよ」
「……だってさ」
「俺たちの実力は拮抗してる。大怪我にはならないよ」
努力でここまで上りつめた人間の言うことだと思うと説得力があるな。これも自信の表れか。俺も負けてらんないな。
そんなことを考えていると先生が俺たちのほうを見た。
「説明中に私語をするほど余裕があるみたいだからな。最初はキルトとカインにしよう。台に登るように」
「うえ、初手かよ」
「名誉じゃないか。存分に俺たちの実力をぶつけ合おう」
こいつ、俺のこと好きすぎじゃないか? まあ友達としてだというのがわかるからいいんだけどさ。今は席替えで遠いが、入学式のときは席が隣だったから自然と仲良くなった。
熱血バカと言えば聞こえはいいが、ちょっと脳筋なのが玉に瑕。それで魔眼使った俺ぐらい強いんだからたちが悪い。
「よし。じゃあセーフティのかかった木刀やら杖やらその他を持って行け。大怪我させないための措置だ」
それを聞いた生徒たちが先生の後ろにある木刀やら杖やらを持って行く。サリナの魔法は固有のもので、コインを圧縮した風魔法で打ち出すというものだ。金がもったいないが、普通に風魔法も使えるので杖を持って行っていた。
それを見届けた先生は俺たちを見て言う。
「最初はお前らからだ。それと、殿下、無理はなさらないようにお願いしますよ」
「ええ。お気遣い感謝しますわ。でもこれも真剣勝負。負けないように頑張ります!」
「すべては殿下の意のままに。……よし、お前ら。殿下の前で恥かくようなことするなよ」
シルヴィは存在するだけで特別なオーラというか、金持ちなだけの貴族とは一線を画す何かがある。それを高貴とか品格とかいうんだろうけど、難しいことは苦手なので忘れよう。
台に上がると、黄色い悲鳴が五人以外から上がる。
「キャー! カインくーん!」
「キルトくんかわいいー!」
「かわいいはよけいだ!」
俺が言い返すのをカインはくすくすと笑っている。絶対倒す。何があっても倒す。
俺は周囲が怯えるのにも構わず魔眼を発動してカインを分析する。本当はよくないことだが、こうしないと勝てないのだ。
今回は死線じゃなく、純粋に能力を計測する。九歳にして完成された能力値。体の筋肉。剣の腕前まで数値化できる。
剣の腕前だけかろうじて俺の勝ちだ。この勝負、一瞬の隙を見せたほうが負けになる。
カインが息を吐きながら木刀を構える。一部の隙もない構えに俺はぞくぞくする。こんな強者と戦える機会なんてそうそうないからだ。
「キルトには悪いけど、その魔眼、討ちとって勝たせてもらう」
「やってみろよ。できるものならな」
「二人とも準備はいいな? 始めっ!」
俺たちは素早く動き、一合打ち合って後ずさる。試験であることをまるっと忘れているような気がするが、これも勝負だから仕方ない。
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