第10話 主人公と対峙
先に仕掛けたのは俺だった。身を低くして下段から突き上げるようにして切りあげる。
カインは寸前のところで顎をそらしそれを回避すると、二、三歩下がって構えなおし、あちらも九歳とは思えない速度で走ってくる。
俺たちは木刀を重ねて力比べの状態に入る。お互いに歯を食いしばって木刀がぎりぎりいうのも構わず刃を押しつけあう。
「力比べは互角、か」
「それなら……」
俺は木刀をずらしてカインの木刀から逃れる。判断はカインも同じようで、すかされたからといって体勢を崩すことなく追撃してくる。
俺は頭狙いの追撃の刃を首を動かしてかわし、二歩下がった。
それを好機と見たカインが連続で斬撃を繰り出してくる。俺は木刀でそれを受け流しながら隙を狙う。
だけどいかんせん、この原作主人公はスペックが高い。隙なんてこれっぽっちも見せてくれない。それなら、隙を作るまで。
俺は最後の斬撃を避けると一気に詰め寄った。これにはさすがのカインも驚いたようで一瞬の隙が生まれる。俺は肩狙いで木刀を振り下ろす。
だが、カインもそんなに甘くない。瞬時に避けて俺の首を狙ってくる。
目が完全に本気モードじゃねえか。これ、一応授業の一環なんですけど? まあいいけどさ。カインだし。
俺は首をのけぞらせてそれを避けると、木刀を片手に持ってサマーソルトの要領で床に両手をついて足でカインの顎を狙う。
「なっ……!」
さすがのカインもここまでは想像してなかったらしい。足が顎にかすった感触がする。
俺はそのままバク転を二、三回して距離を取る。カインの顔にはかすり傷ができていて、女子から悲鳴があがる。
「カインくんの顔に傷が!」
「いやああああああ!」
「キルトくんやりすぎ!」
ブーイングが集まろうが関係ない。これは勝負だ。勝てればよかろうなのだよ、女子諸君。
傷がついたことで、カインが本当に本気になってしまったのを殺気で感じる。ああ、さすがに威力加減しておいたほうがよかったか?
「この僕を本気にさせるなんて。キルト、君は本当にいけないやつだ」
「その言い方はやめろ。なんかぞっとする」
「じゃあ、言い換えよう。今最高に、君を叩きのめしたい」
そう言った後の動きを目で追えなかった。すでに目の前に来ていたカインの本気の斬撃を受け止めるので精いっぱいだ。
「普通ならこれで終わりなのに。キルト、やっぱり君は僕の好敵手だ。ずっとこうしていたいくらいだよ」
「うるせー! 女子が勘違いするからやめろ!」
一部の女子はなんだか変な視線を俺たちに向けてきている。おいやめろ、やめてくれ。
「じゃあ、仕上げだ」
カインが俺の木刀を弾く。からんと床に落ちた木刀を見てカインは最後の一撃を打ち込んでくるが、仕上げなのはこっちのほうだ。
太刀筋はいつも授業で見ている。手の内をどちらも明かしているからこそ、最後の一撃の軌道は読みやすい。
俺は大きく一歩下がって斬撃を避ける。カインが驚く隙もなく、腹に掌底を食らわせた。
カインがかはっ、と息を吐き出す。勝負、あった。
「そこまで! 二人ともいい勝負だった。カイン、お前は負けたが加点にしておこう」
「ありがとうございます」
「俺の勝ちだな、カイン」
「ああ、負けたよキルト。次の試験のときは負けないよ」
「望むところだ」
そう言って右手を差し出すと、カインは一瞬驚いた顔をしてからその右手を取って握手してくる。こうしてると本当にいいやつなんだけどなあ。
台から降りてくると、五人の女子が俺の周りに集まってくる。
「キルト、見てたわよ。カインくんに勝つなんてすごいじゃない!」
「わたしは信じておりましたよ。カインも強いですが、きっとキルトが勝つと」
「二人とも、ありがとう」
そして続けざまにターニャが俺の手を握って上下に振る。
「もう! ボクが最初に声かけようと思ったのにカインが横取りするんだもん! ずるいよー!」
「あはは、ごめんね。他の子だと絶対に怪我をさせてしまうから」
「その信頼関係、なんか妬けるなあ。まあキルトは友達って言ってくれてるから、まあいいけどさ」
「あたしは剣術苦手だから苦手克服のために剣術の子と組んだのに。あんなの見せられたら本気で戦いたくなっちゃうじゃない」
「みんな血の気が多くて怖いです……」
唯一常識を持ち合わせたサリナが泣きそうになっているのを見て、俺はサリナを見る。
「大丈夫だよサリナ。みんないつもは普通だろ?」
「そうですけど……」
「サリナ、イベルテ。次はお前らの組だ。台に上がれ」
「ひぃっ!?」
「頑張れ、勝てなくても俺は応援するぞ」
「そこは勝てるよって言ってほしいです……」
サリナは杖を両手で抱えるように持って台に上っていく。
彼女は戦闘経験が乏しい商人の娘であるからか、開始二十秒ほどで負けていた。
サリナが泣きだすのをみんなで励ましに台に上がる。こうして、試験イベントはつつがなく終了していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます