悪役令息に転生したので、断罪回避のために魔眼の力を解放し人に優しくしてたら異様に好かれるんだが

ぷにたにえん

第1話 生まれ落ちた世界はゲームの世界だった

 キルト・アルクライ。それが俺の新しい名前だ。


 どうしてわかったかって? それは、この世界がギアーズオブデスティニーという俺の大好きなゲームの世界だからだ。ちなみに俺は今五歳。五年も言葉を聞いていれば何を言っているか教えてもらえるのでだいたいのことはわかる。


 それで、俺が何に転生したかだ。最悪なことに、将来主人公たちを邪魔したとして断罪される悪役である。最悪かよ。


 だから俺は、同僚の快楽殺人に巻きこまれて死んだ人生を取り返すために必死に生きてきた。赤ちゃんの頃から魔法を鍛錬し、三歳になってからは剣術だって習った。


 そう、今だって。同じ伯爵家の生まれであり幼馴染の美少女、イベルテ・グルモンドと一緒に魔法の特訓をしている。


「はぁ、はぁ……。疲れたわ、もう休みましょう?」

「そうだね。俺も疲れたから、お茶にしよっか」

「お茶とお茶菓子を用意しております、日陰のテラスにご用意いたしましたので、そちらでどうぞ」

「ありがとう」


 メイドに感謝を述べると、俺たちは魔力を消費してちょっとだるい体を日陰のテラスに向けた。


 俺には魔眼がある。魔法や剣を振るうとき、怒ったときなどに青くなる魔眼だ。


 俺はこの世界でも珍しい黒髪黒目に産まれたから、不気味がる人が最初は多かったのだが。二歳でコントロールする術を覚えてからは怯えられることもずいぶんと減った。今では中性的な顔も相まってメイドたちに大人気である。どうしてこうなった。


 テラス席に座ると、メイドがやけどしない温度に冷ましてくれたお茶と焼き菓子を持ってきてくれた。ここの家のメイドが作る焼き菓子が美味しいんだ、本当に。


 イベルテもメイドさんに抱えられて椅子に座ると、自分の前に配膳された焼き菓子を見て目を輝かせる。


「鍛錬のあとはこれよね! キルトの家のメイドさんが作る焼き菓子はおいしいもの!」

「だってさ」


 さっそく焼き菓子をもくもくと食べ始めたイベルテをそっとしておいてメイドを見上げると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。大変嬉しゅうございます」

「お茶もほっとする味……。ね、キルト。そう思うでしょう?」


 ここで俺の知っているキルトなら伯爵家の次男坊ということで無理難題を言ってお茶菓子を捨てて舌を出して逃げているところだ。それが嫌われる理由であり、のちに魔王の配下の勧誘に幼いころから乗り、主人公たちを殺しにくることもある男の運命だ。


 キルト・アルクライは極悪非道を尽くし、ルートによっては仲間たちを殺して永久離脱さえさせてくる。俺も大っ嫌いなやつに転生するなんて、最初わかったときは頭がどうにかなりそうだった。


 でも、せっかく手に入れた二度目の生だ。ここは各キャラクターたちを刺激しないように優しく接するしか道はない。というか、普通の思考回路を持っていたらわざわざ傷つけようだなんて思わないけどね。


 とにかく、そんな悪い人間の深いところを集めたような人間が、今こうしてのんびりお茶をしばいている。同じプレイヤー諸君が見たらひんしゅく待ったなしだ。


 ちなみにギアーズオブデスティニーはマルチエンディングを採用しており、各ヒロインとのエンドと全員が力を合わせて戦うトゥルーエンドもある。


 当然イベルテは攻略対象であり、キルトのよき相棒になれる素質がある。ゲーム本編ではそれを利用されて殺されたりするルートもあったが、俺は絶対にイベルテを殺したりしない。


 だから俺は優しく微笑んで、イベルテのほうを見て頷いた。


「うん。おいしいね、イベルテ」

「う、うん。早く食べてお部屋でお昼寝しましょう? キルトの屋敷のベッド、ふかふかで気持ちいいんだもの」


 ちょっと顔を赤くしたイベルテが話を逸らす。確かにうちの客室のベッドは特注品だから質は保証する。


「ふう。お茶のおかげで疲れがだいぶ取れた気がするわ。メイドさん、ありがとう」

「お気に召したようで幸いでございます」

「俺もごちそうさま。さ、イベルテ、客室まで案内するよ」

「レディの扱い方もうまくなったものね」

「もう五歳だよ? ノース兄さんのおこぼれで一応教育されているからね。それに、イベルテは大事な幼馴染だ。大切にしなきゃね」


 俺の言葉にイベルテはますます顔を赤くしながら、お互いメイドに椅子から降ろしてもらって屋敷の中に入るところだった。


 空の向こうから彗星のごとく現れた、褐色の肌をした男が現れる。ああ、ついに来たか。


「二人とも、すぐに逃げるんだ。大丈夫、これくらいなら俺一人でなんとでもできる」

「私も戦う!」

「危ないから下がってて、大丈夫。こういうときのために魔眼があるんだから」


 俺は魔眼の能力をオープンした。




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