第22話 みんなの本当の気持ち
その後俺は病院に運ばれ、治療を受けた。魔力の
いや、屋敷にもかわいい女性はたくさんいるけど、そうじゃないんだ。同年代の女の子がメイド服を着るのがいいんだ。
入院中みんな学校が終わると面会に来てくれて、最初は言葉を返すので精いっぱいだったが、最後のほうは軽いジョークを交えた会話なんかもできるようになっていた。
月日は過ぎ去って、また魔王の幹部の襲撃がないか警戒する毎日だったが、俺たちは無事卒業できた。
サリナの家はしばらく王都を拠点に商売をするらしく、家も構えた。カインは修行のために王都を出て、他は元から王都に住んでいるのでそのまま、十三になって性を意識するまで仲良く遊んだりしたものだ。
今の俺は、嫁ぎ先を探しながら父親の事業を手伝うために家にいる。そんなとき、イベルテが家を訪れてきた。俺はテラスでお茶会の準備をし、イベルテを迎え入れる。
こうして二人でお茶をしばくのも何年ぶりだろう。もうゆうに二年はこうしていない。
「久しぶりね、こうしてお茶をするのも。キルトはますます美男子になっちゃって」
「それはイベルテもだろ。いいところの坊ちゃん連中からの婚約殺到してるのに全部断ってるらしいじゃないか」
「それは……乙女の秘密よ。あなたも今年で十六歳になったのだから、女性関係のマナーを教えられたのではなくて?」
「痛いところを突いてくるなあ。経験豊富な幼馴染の一撃ほど効くもんはないよ」
俺は成長してから、一人でいるときに魔族の襲撃を受けるようになっていた。おかげで縁談は破棄の繰り返し。俺にどうしろってんだ。魔王軍に行ったら俺が殺されるだろ。
ただでさえ、カインは学園を卒業してから王都を卒業し、世界中を回っているという手紙を受けていて、元気そうだからその気になればさっくり殺られかねない。
でも、俺も一年ほどだが旅に出ていたこともあった。完全に一人ではないが、そこで得た技術や魔力増強の訓練のおかげで魔眼をフルパワーで使ってもそう簡単にはぶっ倒れなくなったのである。
魔眼も、日に日に成長しているのを感じる。透視の技術やちょっとした未来予知もできるようになった。デメリットは、俺が意識しないとそれが発動しないこと。女の子の裸を見てウハウハ、とはいかないわけである。
一度イベルテのパンツを覗けないかと想ったことはあったが、魔眼が青く光るせいで一瞬でバレてビンタされた。人は犠牲なしには成長できないのである。
「それで? モテてモテて仕方ないイベルテさんが何の用?」
「キルト、また縁談破棄になったって聞いて心配になって。どうなの、実際のところ」
「演壇に来てくれる子はいい子ばっかりなんだけど、魔族の襲撃が時々ある不良物件に付き合ってくれる子がいないってわけ。幹部クラスだからそのたびに建物や庭がぐちゃぐちゃになるし、こっちは困ってばっかりだよ」
「ふうん」
イベルテはお茶に角砂糖を一つ入れて銀のスプーンで一つかき混ぜると、暖かいお茶を飲んだ。今は冬。暖かいお茶が沁みる季節だ。
「それなら、私が狙ってもいいわよね」
「え?」
「もう、どこまで鈍感なの? シルヴィ殿下だって、他のみんなだって、あなたと結婚したくて今まで耐えてきたのよ?」
なん……だと……?
いや、そんな雰囲気は感じていた。幼少のころよく構ってくれたりとか、学園でもやたら席隣になりたがったりだとか、卒業してからも文通をして気にかけてくれたりだとか。想えば、あれは全部友情じゃなくてアプローチなのだとわかる。
まったく気付いてなかった俺が情けなくて、頭を抱えると、イベルテは幼少のときとは違った上品な笑みを浮かべる。
「私も伯爵家で、事業を共にしようとすれば援助だってできるわ。私と結婚するメリット、すごくあると思うけれど?」
「うむ……ま、待て。イベルテとか他のみんなが俺と結婚したいのはわかった。でも、誰か一人を決めるなんて……」
「そうだよ。一人だけ抜け駆けしようなんてするいぞー」
庭に出る扉から出てきたのはターニャだった。
ターニャはスレンダーな体形はそのままに、ぺったんだがいい形の尻を持つようになっていた。尻神様、いや制作プロデューサーありがとう。
剣を鞘に収めたまま肩に担いで入ってきたターニャは、俺の脇を通りすぎると座っているイベルテの頭を人差し指で小突いた。
「ちょっ、なに……」
「切り出すならボクたちのいるところでしてほしかったなー。今日はキルトに剣術を教わる日だったからたまたま大丈夫だったけど。……え、大丈夫だよね?」
「大丈夫も何も、いきなり言われてこっちは混乱してるよ」
「まあ、だよねえ。突然『あなたを狙ってます』なんて言われたら混乱もするよね」
ターニャは露出は低いが体のラインがはっきりわかる服を着ていて目に悪い。だが、そこがいい。幼少編が終わってからの女性陣の成長っぷりは目を見張るものがあるからだ。
肩に担いでいた剣を腰に下げると、ターニャは腰に手を置いて俺を見る。
「で、ド天然くんはなんて?」
「ちょっと気付いてたっぽいけど、ほとんどだめね」
「だー! 直接言わないとわからないとかキミは本当に甲斐性なしだね! イベルテが先陣切ったならボクも言うよ……ご、ごほん。ボクと結婚してください。七年前、あなたに助けられたときから好きでした」
あのボーイッシュなターニャが求婚を……!? 俺の頭はショート寸前だった。
誰かが男女の友情なんて成立しないと言っていた。まさか本当にそうなるなんて。いや、嬉しいよ。俺のことそういう目で見てくれてたんだって思うと男として誇らしい。
反面、どうして早く気付いてやれなかったんだろう。そのタイミングはいっぱいあったはずなのに。やはり女性経験の欠如、これが問題だ。他のみんなもそうなら、シルヴィも政略結婚を秘密裏に断っている可能性だってある。
そうなれば外交問題だ。どうにかしなければ。
「おや、お姫様が二人と王子が一人。さすらいの旅人は帰ったほうがいいかな」
「カイン!? おま、この状況助けてくれ! 俺のせいで国が滅ぶ!」
「……今旅から帰ってきたばかりでよく状況がわからないけど、言い寄られてるって言うことはわかった」
そこには細身の甲冑を着たカインが兜を外すところだった。汗まみれでも金色の髪と緑色の瞳の輝きは失われていない。
「国が滅ぶというなら、前に手紙で言っていた魔族かい? 今の君ならもう十分幹部クラスでも倒せるだろう?」
「そうじゃなくて! 今の今までシルヴィについての浮ついた噂がなかったのは俺のせいだったらしくて……。このままじゃ外交問題になって国が滅ぶ!」
「落ち着いて。シルヴィ殿下も何かお考えがあってのことかもしれないし。そうだ、僕たちは身分証を持っているじゃないか。直接シルヴィ殿下に聞けばいい」
「ついてきてくれるのか!?」
「親友が困ってるとあってはね。僕はまず荷物を家に置いてくるから、みんなでお茶して待ってて。お昼過ぎには戻ってくるから」
それじゃ、と言ってカインは行ってしまった。あいつのことだから悪いようにはしないだろうけど、旅から帰ってきたばかりで悪いな。
二人は俺たちのやりとりをぽかーんと見ていたが、なにやらひそひそと離し始めた。
「カインって……よね」
「うん。……だし……」
「どうかしたのか?」
「なんでもありませんっ!」
俺は睨まれて動揺する。確かに今の今まで乙女心に気付いてあげられなかったが、だからといって睨む必要は……あるか。
ぎゃいのぎゃいのと二人が騒ぐ中、俺は昼食の準備をさせるようにメイドに言って、カインが帰ってくるのを今か今かと待っていた。
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