第23話 魔王討伐へ
カインが戻ってきたところで、俺は両親に許可をもらって馬車を出してもらい、シルヴィのいる王城に急行した。俺の杞憂ならそれでいいが、イベルテたちは『みんな』と言っていたし、彼女も例外じゃないのかもしれない。
「キルト、自分の行いには責任を持ったほうがいいわよ。シルヴィ殿下も、一日千秋の思いであなたが迎えに来てくれるのを待っていたのかも」
「そんなこと言ったって、心が読めるわけじゃあるまいし、いきなり全員好きでしたとか言われても」
「言い訳しない! アルトリアとサリナを出し抜く形になっちゃったけど、緊急だからしかたないよね」
怖い、女子連中が怖い。嬉しい気持ちのほうがもっと大きいが、まさかカインではなく俺を好きになっていたとは。
そこはゲーム通りカインを好きになっておけよ。なんで俺ばっかり魔族に襲撃されたり女の子に好かれてあたふたせにゃならんのだ。いや、今回のカインは優しいだけで友達向けなのはわかってるけど、それは俺も同じなはずなのに。
がたごとと馬車に揺られること十分ほど、俺たちは王城にやってきた。身分証を見せ、門番に通してもらう。
内装は一度改築したのだろう、雰囲気が少し違っていた。赤い絨毯はそのままに昔を感じさせる。ここで昔遊んでたんだな……。
勝手知ったるはなんとやらで、侍女に声をかけるとシルヴィの部屋に通してくれた。シルヴィは突然の訪問にびっくりしたようで、しかし俺たちを出迎えてくれる。
幼少からの絶世の美貌に拍車がかかり、出るところは出て引き締まるところは引き締まったスタイルのいい美女に成長していた。
「みなさん、お久しぶりですわ。今日はどうされましたの?」
「シルヴィ殿下、この前会ったときに言っていましたよね。十八歳までにキルトが振り向いてくれなかったら政略結婚をすると」
「えっ」
イベルテ、いつの間にシルヴィに会ってたのか。それに、十八までに振り返ってもらえなかったらって……。話が急すぎてついていけない。
シルヴィはゆったりした椅子から立ち上がると、ドレスの裾を持って俺のところまでやってくる。その表情が切なさに満ちていて、俺はどきっとしてしまう。
「その話が出るということは、わたしの気持ちはもうお気付きですね? わたしは今まで、貴方が気付いてくれるんじゃないかと思って想いを胸に秘めてきました。でも、貴方が知っているならもう我慢できません。……わたしの夫となって? キルト」
その声があまりに切なくて、思わずうなずいてしまいそうになる。背丈も大幅に変わったから見上げてくるシルヴィの顔が可愛らしくて、俺は思わず頭を撫でてしまう。
それからはっとして手を離したが、シルヴィは頬を膨らませて俺を見上げる。
「遠慮しなくてもいいですのに」
「いや、思わずっていうか……。想いに答えられるか心配だから手を引いたんだ」
「そうよね、キルト」
「ボクたちもいるもんねー」
二人は俺をジト目で見ながらからかってくる。二人も俺と付き合いたいと想ってくれているのが奇跡のようだ。
「あれ? キルト?」
「キルト様!」
そこに、宮廷魔術師の格好をしたアルトリアとこの国での商人の正装をしたサリナまで現れた。もうだめだこれは。カインに助けを求めてそちらを見ると、カインは優しい笑みを浮かべているだけだ。
「カイン、助けてくれよ。俺、このままじゃ」
「キルト、長年旅をしてきた僕からいいことを教えよう」
「え?」
俺は嫌な予感がしてシルヴィにぶつからないように一歩後退した。カインは穏やかな顔で語り始める。
「今でも君は親友だ。それは変わらない。でも、君がいない間思ったんだ。親友とパートナーとは紙一重だと。キルト、僕のパートナーになってくれないか? ああ、変な意味じゃないよ。一緒に旅をして、多くのことを共に学ぼう」
ああ、カインもだめになっちまってる。親友と言ってはいるが、目がマジだ。あのときの穏やかなカインの目はどこにもない。獲物に狙いを定めた男の目だ。
その間にもアルトリアとサリナは近寄ってきて、空気を感じ取ったのか急に真面目な顔になる。
「……やるんだね、イベルテ」
「ええ」
「私たちの悲願、叶えるときが来ましたね」
「ちょっと待ってくれ! 俺は魔族の幹部やその魔王からも狙われる危険な存在なんだぞ! 大切な人たちをはいそうですかってくっついて危険な目に会わせられるか!」
それを聞いたカインが、空中に時空の歪みを作った。俺たちは驚いて一歩後ずさる。
「キルトが自分が危険な存在だから誰とも結ばれないというのなら、今から乗りこもう」
「カイン……お前、何を言ってるんだ?」
「その通りさ。世界各国を旅して、魔界に行く方法も見つけてたってこと。普段は封印してるんだけど……僕とキルトなら魔界に行っても耐え抜ける」
カインの言うことはもっともだ。危険な存在だというなら元を断てばいい。でも、相手はあの魔王だ。素直に言うことを聞くわけがなく、戦闘は必至だろう。
「ここからは危険だ。女子たちには申し訳ないけど、訓練を積んでる者以外は入らないほうがいい。犬死になる。みんなも死にたいわけじゃないだろう?」
「それは、そうだけど……。でも!」
「イベルテ、カインの言う通りだ。お前が貴重な多属性の使い手でも、幹部クラスになれば強さは前たまたま倒せたものとは段違いになる。だから、安全にいてほしいから、ここで残って待っていてほしい。必ず帰ってくるから」
「必ず……必ずですわよ。死ぬなんてそんなこと、許しませんから」
カインという勇者が一緒にいる時点で勝ちは約束されたようなもんだが、万が一だってある。俺はみんなが死ぬところは見たくない。
「キルト、話がついたなら中へ。魔王城の倉庫に繋がってる」
「お前そこまで行ったのかよ!? とにかく、行ってくる!」
カインが先に時空の歪みに足を踏み入れた。俺は黒い空間を見つめて唾を飲みこむと、そこに飛びこんだ。
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