第24話 魔王城

 俺が入ったと同時に時空の歪みは閉じ、薄暗い倉庫の中に降り立った。カインはすでに扉に張り付いて外の気配を探っているらしく、安全だと判断したのか戻ってきた。


「ここはしばらく安全だ。このまま扉を開いて幹部を出し抜き、魔王を討つ。その覚悟はできてるよね?」

「そこまでは……って言いたいところだけど、五人が待ってるんだ。怯んでる場合じゃないだろ」

「それでこそキルトだ。魔眼は魔王の部屋に着くまで使わないほうがいい。魔力反応で感づかれる」

「俺たちが今こうしてるだけでも魔力反応があるんじゃないか?」

「僕が秘匿魔法をかけておいた。よほど下手しない限りは見つかることはない」


 おお、さすが勇者として修行を積んできたことはある。本人は無自覚だが、九歳のときより内包している魔力が段違いだ。


 これは俺も負けてはいられない。カインの反対側の扉に耳を押し当てる。しんとしていて、誰もいない。そんな印象だった。


 ここがどこかもわからないが、倉庫というから地下なのだろう。門番がいそうだとも思ったが、攻められる想定はしていないのだろう。


 俺たちは扉を押して人一人が通れるくらいの隙間を開く。そこからカインについて素早く移動し、身を隠しながら兵士たちの目をかいくぐって上へ上へと登っていく。


 秘匿魔法のおかげか、俺たちが素早いのもあってか、最上階にあるという魔王の部屋まではあっという間だった。俺はカインの許しを得て魔眼を解放し、魔剣を創造する。


「いくよ、キルト」

「ああ」


 大一番、これで俺の運命が決まる。ギアーズオブデスティニーをプレイしていた俺が、ラスボスの魔王のところに来るなんて思ってもみなかった。それも、勇者という最高の相棒を連れて。


 扉を勢いよく開けて中に入ると、魔王が振り返った。ガタイがよく、豊かな髭は胸まで伸びている。


「……貴様はキルトか。そしてそちらは……勇者」

「勇者とかどうでもいい。僕はお前を殺しに来た。それだけで話は十分だろう」

「ふ。秘匿魔法か。そんなものでここまで来るとは、運がいいやつらだ」

「話は終わりだ。俺の平穏のため、死んでもらう!」


 俺の姿はそこからかき消えたように見えただろう。魔王の頭上から兜割りを仕様としたのを衝撃波で吹き飛ばされる。俺は空中で一回転すると、着地して再び斬りかかる。


 魔王はそれに対してバリアを張った。魔剣がそれを砕かんというところまで言ったが、衝撃波でまた引きはがされてしまう。


「大丈夫か、キルト!」

「これくらい、今まで差し向けられた幹部の数に比べたら大したことねえよ。オープン!」


 俺は魔眼を開き、魔王の死線を探す。首と心臓にかけて右斜めに死線が見える。


「カイン! やつの弱点は首と心臓だ!」

「心得た!」


 カインがトップスピードで近寄り心臓狙いの一太刀を放つが、それもバリアではじかれてしまう。宝剣をもってしても敗れないバリア。何かからくりがあるはずだ。


 そのとき、俺はギアーズオブデスティニーのラスボス戦を思い出した。


 この部屋の一か所に魔力を貯めている装置があり、そこから魔力を吸いあげているので強固なバリアを張ることができるのだ。


 俺はそれらしきものをざっと見て探し、小さい異質な箱を見つけて、俺は一目散にそちらに走っていった。魔王もそれに気付き、火球を放ってくるがもう遅い。


「バリアなんて……卑怯なんだよ!」


 バチィッ。


 青白い電流が走って、その機械は壊れたようだった。あとは、生身の魔王を倒すのみ。


「カイン!」

「言われずとも!」


 宝剣の一撃が魔王の背中を刺し貫く。魔王は口から大量の血を吐き、俺にたどり着く前に動きが停まった。


 ここまでくればあとはカインに任せたほうがいいのはわかってる。でも、今までの因縁を解除するために、俺がやらねば。


「こんのクソジジイ! 俺の今までの苦労を味わえ!」

「ぐっ……お……!」


 胸にある死線を斬る。断たれた戦は元に戻ることはなく、魔王の体から急激に魔力が抜けていく。勝ったのか、俺たちは。


 一歩、二歩こちらに歩み寄ってきた魔王を避けて、床に倒れ伏すのを見る。瞳孔は開き、呼吸をしている様子もない。


 その瞬間、兵士たちが部屋に押し入ってきた。ああ、まずい。見つかった。


「魔王様! 貴様らは……!?」

「魔王は俺が殺した。投獄するなら俺にしてくれ」

「キルト!」


 カインから抗議の声があがるが、俺はそれを無視する。自分が危険な存在なら、その存在も抹消されてしまったほうが世界のためにもなる。


 すると、兵士の後ろから筋骨隆々の幹部らしき男が出てきた。そして魔王だったものを一瞥すると、まっすぐ俺を見てくる。


「これを殺したのは、お前か。キルト・アルクライ」

「どうして俺の名前知ってるんだよ」

「幹部クラスならお前のことを知らない魔族などいない。……魔王様を殺したのなら、その武を表して魔王に就いてもらわねばならん」

「あー、魔王に就いて監禁ね……。ってなにそれ!?」

「貴様、ふざけるな! キルトは人間だ。魔王になどならない!」


 男魔族はその大きな鼻からふん、と息を吐きだすと、俺の前にうやうやしくひざまずいて名を名乗る。


「私の名前はゴラルド。現幹部をやらせていただいております。魔界においては武こそ正義。さあ、なんなりとご命令を」


 ゴラルドから死線を外すと、兵士たちも彼にならってひざまずいている。


 俺はそれらを見て、宝かに宣言した。


「もう俺には関わるな。新しい魔王にも人間界にキルトあり、と告げろ。次何かあれば、また魔界に乗りこんできてやるからな!」

「はっ」


 ゴラルドは下げていた頭をさらに下げる。わかっているんだかいないんだか。とにかく、これで俺が生きている間は平穏が約束されたわけだ。


 帰らなければ、五人が待つところへ。カインも活躍してくれたから、労をねぎらわなければならない。


「キルト、人間界に帰ろう。きっとシルヴィ殿下たちも心配してる」

「ああ。帰ろう。おい、定期的に覗きに来るから、魔界に来る方法教えろ」


 そうしてゴラルドに魔界の行き来の仕方を習い、俺たちは人間界へと戻っていった。魔王からの執拗な攻撃がなくなるというそう楽を残して。

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